第七話
後にいるロナを気にしつつ前の敵を迎え撃つ。
意識を前後に動かす分、疲れる。
隙をついて攻撃に出るが、単調になってきている。
・・・・・・集中が途切れがちになるな。
男の言葉を信用して、前に意識を集中してる間にロナが襲われたら意味が無い。
後に気を取られるばかりに前を疎かにしても意味が無い。
後から足音が聞こえた。
「ロナ!」
少し離れた所にいたロナが駆け寄ってくる。
その隙を逃さずに突き出される剣の軌道は避ければロナに向かう。
左腕に痛みが走る。腕を伝って流れ落ちる血。
「あ、あ・・・・・・血が」
足音は二つ。ロナの細い声が風に消える。
私は集中して相手を見る。
目を閉じ、覚悟を決めて・・・・・・目を開く。
エリスの雰囲気が変わった。
さっきまでの優しさが消えて、どこか鬼気迫るというか・・・・・・。
風が駆け抜け、空気が停止した感覚。
少し離れた所に位置していたのに、一瞬で距離が無くなったかの様に二人は近くなっていた。
冷たい月と遠く瞬く星の下で槍を振り舞わす。
一振りごとに相手を追い詰めていくのが、見ていて分かるほどに。
聞こえるのは足音と剣戟。
時間を掛けたくないな。
後の足音はそこまで来ている。
急がないと。
意識を後ろに回した一瞬で守勢に回っていた男が、攻めに転じる。
攻守反転させる訳には・・・・・・。
花火を引いて、距離を置いて突き出す。
青白い光りが躊躇いなく振り下ろされる。
感情を見せない冷静な顔が私を見ている。
身動きせずに軌道を見極める。
花火をその軌道に向かわせて、起動とは違うスイッチを押す。
切先が左右四枚に分かれ、その間で剣を受け止める。
世界に一本の私だけの槍。
花火の名に相応しいこの槍の本当の姿。
作り手の遊び心が気に入って貰い受けたこの槍。
槍を廻し、剣を絡めて弾く。
弾いた勢いで突き出し、肩を突き抜いた。
「がっ」
追い討ちはせず、ロナを抱えて走り去ろうとした瞬間、
「『カノ』!」
「ロナ!」
足音の主とロナ。二つの声が重なる。
「あの男を捕らえろ」
「御意」
ロナの声に答え、私の横を駆け抜ける男は剣を突き出す。
武器も無く闘える相手じゃないのは分かっている筈だ。
とすれば、どうすればこの場から逃げる事が出来るのか。
それだけを考えて、その事だけに集中している筈だ。
しかし、目の前の剣閃はその意識を外させない。
「諦めろ」
静かに響く声。
振り下ろされた剣。
誰もが終わったと思った。
「まだだよ」
意外な声にカノと呼ばれた男はその場から後ずさり、私はロナを庇う様に抱き寄せた。
現れたのは自身より長く不気味に輝く長刀を持った少年。
柄は闇より黒く、刃は幅広く大きく反って月明かりを反射している。
まるで、刃だけが彼の頭の上に浮かんでいる様に見える。
「まだ、彼等には頑張ってもらわないといけないんでね」
後に居る男を振り返り、微笑む。
「さて、どうする?」
向き直ってこっちを見る目に威圧は感じない。殺気も無い。どこにでも居る様な少年。
しかし、口は動かず体も痺れた様に動かない。
「ま、今は退くよ。そこの彼はその内こっちに来てもらうけど」
そう聞いて、ロナはビクッとした。
それが服を通して私に伝わる。
「それを私が」
「させると思うのかっ!」
「君達の意見は聞いてない」
長刀が揺らぐ。
「ただの長刀だと思わない方がいいよ」
少年の声が闇に消える。
いや、闇に包まれたのは私達の方!
「神世武具」
こんなものが残っていたなんて・・・・・。
しかも使えるなんて、予測を超えてるわ。
一寸先も闇。すぐそこに微かな気配は感じるが確認は出来ない。
「ロナ」
呟いてロナの背中に手を回す。
手にロナの暖かさを感じ、花火を握り直す。
姿が見えなくなっても、必ずロナの元に来るのは確実。
その瞬間を逃さず、打ち倒す。
闇に息を殺し、その時を待つ。
「カノ」
震えるロナの声に、
「ここに」
彼方の闇から呟く声。
「気をつけて」
「は」
気配が近づく。
「エリスさんも」
「ありがと」
顔は見えないが、おそらく怖いのを堪えて微笑んでいるんだろう。
私も微笑んでロナを見る。
後で動く気配。
闇の中をキッと後ろを振り返る。
振り返った瞬間に気配は消え、背中越しに、凍て付いた殺気。
「甘いね」
もう一度振り返る時に目に映る闇に輝く白刃。
もう一つの気配が突進してきて、
白刃を受け止める。
が、剣を斬り降ろしても勢いを削ぐ事無く、躊躇い無く、
「ゴメンね」
微笑を含んだ声が闇に響く。
狙いはロナ。咄嗟に体が動いて、
背中に何かが触れ、それが下に向かって駆け抜けた。
一瞬の感覚麻痺。そして痛みが走り、背中に流れる血の流れ。
ロナを抱きしめる暖かさの中で意識が消えた。
「あ、あ・・・・・・あ」
エリスさんの背中に回した手に暖かい液体が流れてくる。
血。と判断しているのに、心がそれを否定する。
言葉が出ず、体も動かない。
真っ暗な世界の中、僕を守ってくれた人。
会ってまだ間もないのに。
「やれやれ、予測通りというか」
暗闇の中から聞こえる呆れた声。
その口調はエリスさんを知っているかのような言い方。
「ま、どのみちこうなる運命だったんだし」
煌く刃が再び振りかざされる。
刃は振り下ろされる事無く、かざされたまま。
「時間切れ。か。今回はエリスの事が分かっただけでいいとしようか。では、また」
閃光が走り思わず目を閉じた。目を開くと辺りの闇は一瞬で掻き消え二人の男達も消えていた。
「ロナ。無事で」
「う、うん」
薄暗い中、カノの声に答える。
「とりあえず、この場から離れよう」
カノはエリスさんを背負い、僕の手を引っ張っていく。
偶然か、運命か。
助けられた男の先を当ても無く歩いていると、あの女を背負い走ってくる男を見つけた。
声をかける間もなく、俺の横を走り抜ける。
「ちょ!」
俺も後に付いて走っていく。