第六話
死にたくない。
口は動かず、届くはずの無い心の中で叫ぶ。
長い長い瞬間。ぎゅっと目を閉じると、涙が浮かんだ。
頭に浮かんだのは、剣の修行に励み、友達と遊んだ毎日。
お師様・・・・・・。
旅立つ日。お師様に頂いたお言葉。
「芸を技に昇華する事の出来る旅になる事を期待している」
芸を技に。
そう心掛けて、旅を続けて参りましたが・・・・・・。
遠く悲鳴が聞こえる。
もう、腕も上げる気力もに無い。
目を閉じ、ただただ、お師様に謝り続ける。
頭上から吹き降ろされる、俺に終焉をもたらす風。
「大人気ないな。相手は子供だろう?」
疾風と共に金属音が鳴り響く。
顔を上げると、目の前には白金の剣が斧を受け止めている。
剣の主に目を移す。
髪は黒くジーパンにジャージの上だけを着ている何処にでも居そうな男。
「何者だ?」
斧の男の声に、
剣を振るって答える。
一閃、二閃。俺の前に立って、
「子供相手じゃ楽しくないだろ?」
不敵に言い放つ。
「まったく、早く帰りたいのに」
目の前で繰り広げられる闘い。
俺の感じていた緊張感はなんだったのか、と思いたくなるほどの空気。
斬り上げては斬り降ろし、なぎ払っては突き進む。
本物の戦闘。
それを実感し、周りに注意が行かないほどに目を奪われた。
「動くなっ!」
「時間切れか」
「騎士団か。・・・・・・逃げるぞ」
「え」
俺は助けてくれた男に抱えられて、人垣を突破してその場から離れた。
路地から路地。通りから通り。縫う様に駆け抜けて、どこをどう走ったのかは分からない。
「あの男は何者だ?」
「あ。え・・・・・・っと」
何者かは知らない。
俺が答えられないと判断したのか、
「なぜ、闘っていたんだ?」
「それは・・・・・・」
事情を話す。
「なるほど」
そう言ったきり黙りこんでしまう。
「その二人はどっちに向かったか分かるか?」
「さっきの場所から、山の方に向かって」
「分かった。お前はここにいろ」
俺の返事も待たずに、走っていく。
よろつく足で後を追いかけるが、もう見失った。