第五話
トモと分かれて、路地から路地へ通りから通りへと駆け回る。
自分が今、何処を走っているのかはもう分からない。
気付けば、潮の香りのする風が吹く公園に辿り着いた。
中心街ほどではないが、人もまばらにいる。
暗闇に動く人影は全て追っ手に見える。
留まる事無く足を動かす。公園を越えて、緩やかな坂を上り、真っ直ぐに歩いていくと人も少し多くなってきた。
このまま行けば、展望台。逃げ場は無いが戻るのは危険か・・・・・・。
「いい加減、止まってくれないか?」
背後からの男の声。
ロナを庇う様に前に立って、
「いい加減、追うの止めてくれない?」
冷たい視線を見返して言い返す。
先程の男と同じスーツを着た優男が立っている。
が、その容姿とは裏腹な冷たい殺気。
一目で危険人物と判断できる程に感じる。
「彼をを渡してくれたら、君の追跡は止めよう」
ぎゅっと服を掴んでいるロナ。
それで答えは決まった。
「イヤ」
「じゃ、仕方ない。死ぬ覚悟は出来てるんだろうな」
声に抑揚は無い。
が、殺気は空気を振動させるほど感じられた。
花火を構える間もない速さ。
左手でロナの背中を握り、引いて避ける。
男の手には刀身が広く先端は丸く広がっている、先端の丸い矢印みたいな剣。
闇に輝く青白い輝きを上下左右に途切れる事無く描いている。
軌道は私の先を読む様に、一閃ごとに私に近づいてくる。
両手で捌けば何とかなるかも知れないが、他にも追っ手がいるかもしれないからロナの安全は保障できない。
片手で受けられるほどの攻撃でない事は、長い旅の中で学んだ知識だ。
コイツは強い。
今まで見た中でも上位に入るかも。
避けるだけなら、今のままでも何とかなる。
トモが来るまで持ち堪えられれば。
「連れ合いが来るのを期待しているのなら、止めたほうがいい」
抑揚の無い声。間断なく剣を振るっているのに息が乱れていない。
いつまでもこのままじゃ、追い詰められる。
「さぁ、どうかしら!」
牽制の突き。剣で払われるが、それをを前提にしている。
狙いは剣の軌道が変える事。そうすれば、一瞬攻め手が止まる。
ロナを抱えたまま、体当たり。
瞬間、体勢が崩れた。花火を握り直し、男の横を駆けて振り向き様に振り下ろす。
力は込められてないが、後ろに飛ぶ男。
距離を開ける事、立ち位置を変える事には成功した。
睨みあう。時間が流れる。
この状況で後からの攻撃は無い。それらしい気配も無い。
つまり、追っ手は一人。
「君はなかなか賢いな」
微かに笑う。
街灯に照らされた笑顔は邪気の無い殺気を感じさせる。
「心配しなくても追っ手は私だけだ」
「そう」
「それに、私は戦闘狂でもない。これも交渉の一つだと思っている」
「いきなり、襲ってきて?」
「私は声をかけた筈だが?」
「・・・・・・」
確かに。
「ま、そんな事はどうでもいい。君にもう一度チャンスを与えよう。彼を渡せ。そうすれば君には関わらないと約束しよう」
視線は私から離れない。
冷たい殺気に熱い激情を混ぜた威圧感を一身に浴びる。
大抵の人間はこの圧力に屈するだろう。
けど、後で服をぎゅっと掴んで震えている手が私を励ます。
槍を男に向け、
「イヤ」
「そうか。なら死んで後悔しろ」