第三十一話
「やぁ」
近衛隊長の動きを封じてから、抵抗は格段に緩くなった。
「ここにいたのか」
一室。ドアを開けると飛び掛ってくる二人を斬り倒し、その奥に怖い顔をした女性がいる。
「ちょうどよかった。御子サマはどこに?」
「答えると思いますか?」
毅然とした声。その声はどこかエリスに似ている様に思えた。
「その背に背負っている杖を返しなさい」
一歩近づくごとに威厳は増していく。
「怖くないのか? 普通は怖がると思うけど」
「私の命よりも大切な」
喉元に切先をつける。
切先を伝う血。それがゆっくりと雫になり床に落ちる。
「大切な?」
目にも声にも恐怖は無い。
「アナタに言っても分からないでしょう?」
微笑を浮かべて、ボクを見る。
「ま、ここに居ないなら」
後はエリスの所かな?
さっきは居なかったようだけど、後を追ったとしたら追えばいい。
血に染まった教団本部を後にする。
森の中、静かな闇。
森の中を祭壇に向かって歩く。エリスと会うと面倒なので、少し正道から外れて歩く。
これで会う事になれば運命だな。
それはそれで楽しそうだけど、今は嫌だな。
なんて、思ってると会うものなんだけど、前方から物音が聞こえた。
がさがさと茂みが動く。緊張が走る。意識を集中する。
闇に慣れた目で確認したものは・・・・・・。
思わず口元が緩む。
「何?」
胸騒ぎを感じる。
悲鳴、遠吠え、どちらとも取れる音が耳に入った。
考える間も無く足を動かす。茂みを突っ切り声のした方を目指す。
焦る心。逸る足がもつれる。木にぶつかり、蔦に足を取られ何度も転ぶ。
体中に細かい傷を負い、目に飛び込んだ光景は、
「やぁ」
倒れているのは二人。近衛の制服を着ている。
首を押さえられ木に押し付けられているロナが苦しそうに私を見る。
「エ、リス」
「ボクの方が速かったんだ」
感情を抑えられないのか、嬉しそうな声。
その声が私を刺激する。
「ロナを」
「すぐ終わる」
そう言った声は無感情で背中の杖を握り、そのままロナを貫いた。
「では、エリス。彼はここで解放しよう」
スローモーションに見えた。
ロナはそのまま倒れこみ、少年は杖を手にゆっくりと闇に消えていく。
「ロ・・・・・・ナ、ロナ、ロナ!」
駆け寄り、服を破り流れる血を止める。それでも溢れる血を手で押さえて、
「大丈夫だから、大丈夫だから」
泣き声になっているのが分かる。
「あ、エ・・・・・・リ」
喋ろうとするロナ。
「後で聞くね」
ロナの顔に落ちる涙。
がさがさと物音が聞こえる。
「エリス!」
「トモ」
両手に剣を持ち、後に何人も連れている。
「何が」
言いかけて何があったのか理解した。
トモが指示を出す前に、連絡を取り、辺りを警戒したり手当てをしたりしている。
「あいつは?」
「そんな事より、ロナが」
トモと一緒に来た本部の連中がロナ達を抱えて戻っていく。
「トモ、ロナの事は任せたわ」
「ん?」
涙を拭いて、少年が消えていった方へと走り出す。