第二十九話
意外。と言っては意外だった。
まさかこれほど速く対応してくるとは。
祭壇に戻り、待っていたのは教団の制服を来た兵士達。襟章は近衛の紋章。
一様に剣を構え、予測どおり、
「拘束する。大人しく」
言い終わる前に刃を振るい、抵抗の意を表した。
刃が煌くと前に進める。
「命を無駄にしなくても」
そう言っても彼等は素直に道を空けてはくれない。
一人倒れても、二人が塞ぐ。
ため息が出る。力量差が分からない訳じゃないのに。
顔を見る限り狂信者でもなさそうだし。国の為って表情にも見えない。
「あぁ、なるほど」
分かった。恐怖心か。
ボクが怖いから混乱しているのか。
「君達が向かってこなければ何もしないよ」
微笑んで剣を収める。まだ五人くらい残っていたが剣を起動させたままだが、ボクが進むと左右に分かれた、
「そう。それでいい」
入り口まで真っ直ぐ歩いていく。
後から一人、斬りかかって来たが、振り向き様になぎ払う。
見渡せば、他の連中の目に戦意は無かった。
「やあ」
祭壇を背に立つボクの前に彼女は現れた。
手には槍、視線には殺気がある。
いい緊張感が辺りに立ち込める。
「そんなの二つも持って何する気?」
確信は無いが、推測は立っているだろう。
「気になる?」
彼女の答えは行動で示された。
槍を突き出し一気に距離を詰める。
後に飛んで避ける少年を追い撃ち、なぎ払って長刀を打ち据える。
片手で受け止めきれずに弾かれるその隙を、蹴り上げる。
脇腹に直撃し蹲る少年。
それでも両手の神世武具は離さない。
「ソレ、離せばこれで終わりに」
「する気は無いよ」
闇が覆う。視界は黒く塗り潰され全ての気配が消えた。
目が慣れる前に次は光が覆う。黒から白へ。視界が戻るまでの間に少年は姿を消していた。
「どこへ」
風に揺れる木々が揺れている。
さすがに神話時代の生き残り。
読みの深さ、と言うより神秘を受け入れる速さは現代人より速い。
ボクに追いつくのも時間の問題だな。痛む脇腹を押さえ歩いていく。
木に隠れ、茂みを走り抜いた先に見える豪奢な建物。
海を背に森に囲まれたそこは、水平の風本部。
いつしか辺りは赤く染まり、ボクは夜まで体を休める事にした。
夜。
いつもは静かな場所なのだろう。夜風を聞き、波音を聞く。
今夜は違う。
飛び交う悲鳴と怒号。あっちで叫べばこっちで答える。
侵入者は一人。現れたと確認した瞬間、消える。
数々の証言を元に組まれた情報は手には長刀、背には杖らしきものを背負っていた事。
倒れたものは一撃の下に致命傷を負っている。
「カノ」
頼れる近衛隊長をロナの護衛に回す。
「しかし、貴女を守る」
言いかけるカノを制し、
「今はロナを守る事が優先です」
議論する気はない。と手でドアを指し示す。
緊張した顔で部屋を出る。
狙いは私ではないのは間違いない。
エリスさんと行き違いになったのか。これも運命と言えば楽になれるのだろうが、
運命と最後まで闘うのが人間だ、と私は思う。