第二十六話
一夜明けて、テレビが夕べの事件が報じられている。
それをぼんやりと眺めていと、夕べのヒーローがやってきた。
「お疲れ」
目だけ向けて、またテレビに戻す。
「大変だったんだぞ」
「知ってるわよ。ロナは?」
「まだ寝てるんじゃないのか? 疲れてるんだろ」
「でしょうね」
「お前が来てくれれば少しは楽できたのにな。連絡はいったんだろ、何してたんだ?」
「うるさい。関係無いでしょ」
「買い食いでもしてたんじゃないのか」
反論はしない。が、いくらなんでもそれは無いんじゃないのか?
普段、私はトモにどういう目で見られているのか、少し分かった。
「図星か」
「あえてしないの」
「じゃ、迷ったか」
違う。
トモはそれ以上、私に合う理由が見つけられた無かったのか、黙々と朝食を取り始めた。
私が夕べの戦いに参加できなかった理由は、騎士団に阻まれた、が正解。
あの男を見つけたまでは良かったのだが、騎士団によりその辺り一帯は封鎖さて近づくことも出来なかった。その後、ロナを護衛しながら帰ってきたトモ達と合流したのだ。
ロナは疲れた顔をしていたが、傷も無く無事だった。
その後は騎士団の事情聴取と説明を求められたが、今回私はなんの事情も知らないので先に帰された。
帰ってくるまでの間だけロナの護衛についただけだ。
で、事情聴取から帰ってきたトモが
「寝てくる」
と、残して食堂から出て行った。
古の祭壇、伝説の始まったその祭壇に隠された薄暗い秘密路を歩き続けて、日の当たる草原へとでた。
すぐ後は陽の光が燦燦と照らしているのに、これから進む道には真っ暗な闇しかない。
シュノアードの山中。目星は付けてはいたが実際に捜すとなると知識や情報はアテにはならなかった。
様々な文献や伝承。それらを情報を集め、知識を頼り、人を使っても時間がかかった。
それは彼等、大地咆哮のメンバーに協力を要請して初めて辿り着く事が出来た。
その代償は、これから進んだ先にある神世武具『宝杖 海波紋』のチカラ。
そして近くの茂みには血に染まった体を横たえている五人がいる。
彼等がここに来た事が、ボクの考えが正しかったと事に確信を持たせてくれる。
彼等の盟主がどの様に使うのかは、考えなくても分かる。
ボクの目的も同じなんだ。お互いが信頼関係なく協力出来たのは、利用してきたから。
それも間もなく終わる。
この場にいるボク以外の人間は敵。それは向こうも思っている。
らしくない緊張が走る。ボクが負ける訳ない。
深遠ノ煌と呼ばれるこの長刀。これも海波紋と同じく現存する神世武具の一つ。
さて、前は虎に阻まれ後は狼が喉を鳴らしているこの鬼も蛇も出る道を歩いていくか。
「おい、あいつ等が騎士団に捕まったっていう連絡が来たんだが」
深刻なはずの情報を淡々と告げるヴァト。
「そう」
「あっさりしてるな」
暗い洞窟に反射する声。
「でも、あいつ等のおかげでこっちは暇なのか」
「その前に、ヤツ等も貴重な戦力なんだ。ここの事が分かっていたのなら陽動に使えべきではないのでは?」
「打てる手を打っただけ。ここの情報も完全に信頼出来るものでは無かったし、ここがハズレでも御子がこちらにあれば、その身と交換でより確実な情報を得られたかもしれない。彼等とこっち。お互いがお互いの陽動を前提で動く事は納得しただろう」
「で、見捨てるのか」
ヴァトの声には冷たい響きがあった。
「さぁ、それはキミ達の盟主に聞いてくれた方が確実だろう?」
頼りない光を先導に歩いていく。
最奥と思われる扉の前に立つ七人。
入った時は二十五人だったのに随分減ったものだ。
途中に仕掛けられた色々な罠。ぐるぐると同じところを回っている錯覚。
肉体的にも精神的にも追い詰めてくる暗闇。
ここに居るのは熟練の戦闘員達。いや。脱落した者達も腕は確かにあった。だが、ここに辿り着けたなっかったのが、ここにいる者とのほんの僅かな歴然の差。
「この向こうにあるのか?」
誰かが喋る。もうすぐ彼等と別れるのだから名前を思い出すのも煩わしいな。
「何もなければね」
明かりを動かしつつ、扉の全容を確認する。
圧し掛かる雲に荒れる海。大自然の驚異に向かい杖を掲げている凛々しい少女の姿が描かれている。
「レーリアス」
少女の名を呟く。