第二十五話
意外に粘るな。車にもたれかかりながら待つ。
御子を連れてくる事になっている待ち合わせの場所で待っているが、予定時間になっても来ない。
これは思ったより抵抗が強かったのか、それともこちらの戦力が弱かったのか。
「ウィラルまで」
言いかけて後の気配に気付いた。
「こんな所で何をしているのか、教えてくれませんか?」
夜に響く男の声。
「いや、パレードの見学に疲れて、人気の無いこの場所でぼんやりしてただけさ」
「パレードねぇ。なにか騒ぎがあったようですね」
「それは知らないですね。どの辺りで?」
「大きなレストランがあったでしょう、その辺りですよ。知りませんか?」
「その辺りにはいなかったので。私がいたのは市役所の近くだったので」
「あぁ、そうですか。それなら知らないのも当然ですね」
男はこの場から離れようとはしない。
今、御子を連れてこられたらこの男も一緒に連れて行く事になる。同意など求める気も無いが。
男を観察する。男は二十台前半のどこにでもいそうな優男。
警戒をする必要も感じさせないのが警戒しろ、と私の経験が訴えている。
ただ時間だけが過ぎていく。それに比例して緊張が高まる。
この男は危険だ先手を取れ、と本能が指示を出す。それを理性が押さえる。
男は私が感じている緊張に気付かないのか、来た時と変化は見られない。
パレードの騒ぎやパレードに参加したかったなど喋っている。
喋っている内容は頭には入ってこない。男が少し動くだけで体が反応する。
それにすら気付かない男。もしかしたら、こっちだけが緊張しているのかもしれない。
緊張を解こうとすると、本能が拒否する。
警戒の度合いを下げて男と対峙する。もし、何もなければそれでよし。精神的な疲れはこれ以上は避けたい。
適当に相槌を打ち、話を聞くフリをする。
辺りの空気が微妙に変わった気がする。
それはほんの僅かな変化。
虫の知らせ、とでも言うのか。本能が察知したのかは分からないが確かに変化した。
男は相変わらず喋っている。男もどこか緊張しているように見える。
それは私の錯覚かもしれない。
月が照らす世界。私の周りの空気の緊張が徐々に高まる。
男から視線を外して、ぐるりと見渡す。
暗闇に動いた影。それは不自然に物陰に隠れた。
これまでも人通りは無かった訳ではない。だが、今の影には不自然さを感じた。
包囲されている。不意にそう思ったが確信は無い。
車のドアを開ける。男は体をずらして開けやすくしてくれる。
中にあるのは。愛用の剣『炎琥』
先端が丸く広がり、刀身は紅く幅広く真っ直ぐな特異な形をしている。
だから、鞘には納まらないので携帯には不便だが私にはこの剣以外使う気は無い。
今、その剣を手に男に斬りかかる。
刹那、後からの襲撃。一瞬の対応が遅れた。その代償は左手の痛み。
男も距離を取り、左手を水平に上げてこっちを狙いを定めている。
「シールドとは、珍しい」
「そうかな?」
声は変わらないが緊張と闘気が込められている。
「二対一でも構わないよね?」
後から斬りかかってきたのが女だったとは意外だった。
「今更だな」
「ホントは私一人でも余裕なんだけどね」
女は言い終わる前に剣を振り上げて向かってくる。
なんて速さだ。
反撃の機会を見つけられない。隙を見つけてもシールドが女を庇うように割って入りそれを阻む。
入れ替わるタイミングが速く連携も取れている。
右から左から。どちらに対応しても反対側が隙を狙う。
攻めに回らなければ、どうにか出来る・・・・・・事は難しいな。
腕は一流。判断も速い。時間の問題だな。
この判断が間違っていたのか、左足に痛みが走る。
打撃や剣撃によるものではない。一点を貫かれている。
足から崩れ膝をついた瞬間、首筋に剣とシールドが突きつけられた。