第二十四話
連絡がくる。それを受けて俺は指示を受け走り出す。
ロナの護衛。それはネーサリアの親衛隊の任務。その手に余る時が俺達がそのサポートに入る。
おおまかに決められた通り俺達は動き出す。細かい指示はその都度やってくる。
その度に進む先を変更して対応する。
親衛隊に保護されたロナと合流する。その数は随分減っている。
「こちらの進む先々に敵がいて」
その交戦と追撃を防ぐ為に残してきた。との事。
目をくらませる為に囮を使ったり、してどうにかここまで来たがこれから先も恐らく待ち伏せているだろう。この人数では危険過ぎる為に本部、ネーサリアからの増援と近くに待機させてある護衛部隊を待つ事になった。
華やかで楽しげな雰囲気をは違った空気の一団。
その中心にいるのは、祭の中心にもいた、御子ロナ。
周りの親衛隊も祭の衣装そのままだから祭の最中と言えなくも無いが、圧倒的に空気が違う。
周囲を警戒し、僅かな余裕も保ったまま緊張が高まる。
ピリピリする皮膚。喉が渇き思考がパンクする。
この感覚は、あの時、あの場所で味わったのと同じ。
その悔しさを振り切る為、越える為に俺はカノに稽古をつけてもらった。
僅かな時間だったが決してマイナスではない。それを確認する為にも、実戦を経験したかった。
以前とは違う。
そう過信するのではなく、あの時の恐怖、カノという強さを感じた経験。
僅かな余裕が証明している緊張。
目を閉じ、耳を澄ます。
意識を高め、心を見つめなおす。頭に浮かぶのはカノとの稽古。
短い時間で変われるとは思ってない。少し冷静に。勝つ、倒すのではなく時間を稼ぐ。
それが今しなければならない事。そう言い聞かせる。
そう考えられる様になっただけでも進歩か。
苦笑が浮かぶ。
「どうしました?」
「いや、なんでもない」
隣の護衛兵が声をかけてきた。それで目を開けて、息を吸い込む。
俺達とは違う殺気を運んでくる空気。
それを感じた全員が一斉に武器を手に構える。
個の勇は衆の勢に劣る。衆の勢に勝るのが個の武。
武は勇より優れるから、武勇と言う。
頭によぎる師匠の言葉。屁理屈だと思ったが、案外そうかもしれない。
俺の勇は衆には勝てない。それが分かっただけでも進歩だな。
闘っている最中でも、そう考える余裕を持っている。
左手を振り下ろし、右手でなぎ払う。一人じゃないから援護し援護される戦い方。
目的は一つ。ロナを護る事。
親衛隊の足を引っ張る訳にはいかない。
二人目を倒す。少し前に出て三人目の突進を牽制して、攻撃を避けたところで後詰めの一撃。
素早く下がって隊列を正す。殲滅の必要は無く時間を稼げばこっちの方が有利。護衛部隊が来れば有利になる。
もう来る。のではなく、来るまで持ちこたえる。
ここにいる親衛隊全員がそう考えているから、油断も無く、集中も切れない。
四人、五人と倒して向こうも攻め手を緩めてきた。
じりじりと皮膚に伝わる緊張感。それは圧力となって押しかかってくる。
街灯と星空の下、睨みあう。ぼんやりと明るい夜の闇の中で光刃を交える。
これだけの戦闘が行われても誰も来ない状況に不自然さを感じ始めたとき、親衛隊の一人が悲鳴を上げて倒れた。
振り向いた瞬間、今までとは違った攻勢に対応しきれずに一人、二人と倒れていく。
隊列に穴ができ、それを塞ぐために一人の負担が増えるのは構わない。
が、塞ぐ前に突破される訳には・・・・・・。