第二十三話
いや、まいった。
この男がここまで強いとは。レクストの奴が後れを取ったってのも納得だ。
輝く切先の狙いは俺の右肩。寸分の狂いも無く、避けるのも捌くのも難しい角度と速度。
コイツの目に映っているのは一秒後右肩を押さえている俺と、切先を首元に突きつけている自分だろう。
このまま行けばそうなるな。
剣が右肩に触れる直前、左手を振り上げる。
袖に仕込んだナイフが剣を受け止める。
「いい反応だな」
咄嗟に剣を引き、距離を取る。判断も良い。
「手間をかけさせてくれるな」
「大人しくしてれば、手間かけなくて済んだのにな」
「お前達が何もしなければ、こんな事せずに済んだとは思わないか?」
「だな」
右手の剣を避けても、左手のナイフで反撃の機会を潰して更に攻め続ける。
俺の剣に力は要らない。速度と技。
どこかの「チカラバカ」とは違う。
避けても避けても、刃が襲い掛かる。
捌けばその隙を狙う刃が斬りつける。
次第に金属音が聞こえなくなり、風を斬る音、地を蹴る音しか聞こえなくなる。
まずいな。ここで時間を掛けるとロナの身が心配だ。
これ程の騒ぎをこの男一人で起こす必要など無い。この男は陽動と見るべきか。
だとすると、先に行ったロナが危険なのは間違いないが、俺が少しでも後を見せれば躊躇い無く刃が私の体に斬りこまれるだろう。
隙を誘っても、攻めず、後ろに行こうとすれば殺気を増し斬りかかって来る。
嵌められたな。そう思っても、もう遅かった。
こうなってはロナが無事戻れる様に親衛隊とエリス達に期待するしかないか。
こっちのやろうとしている事がバレたか。
攻め方にさっきまでと違い積極さがない。迷いとは違い思案してる様な剣。
バレた所で今更どうしようもないが。
さて、そろそろ。切り上げるか。
剣をかいくぐって懐に飛び込んで、体当たりを食らわして、体勢が崩れた所をすり抜けて駆け抜ける。
「じゃぁな!」
言わなくても良かったのだが、なんとなく言葉が出てしまった。
しかも、こっちが負けたかのような台詞が。
「逃がすか!」
後から悔しさで満ちた声が聞こえる。
振り返って相手にしてる余裕もない。
さっきまで気にならなかった人垣を掻き分けて走る。
いや、そうしなくても、勝手に人垣が分かれていく。
前に立ちはだかったとしてもその時は、倒していくだけだ。
パレードが行われていた街道から路地を曲がり、次第に人気が無くなる。
そして、大きな通りだがパレードが行われている為に人通りが全く無い通りにでる。
「確か、この辺りで」
辺りには一台の車はもちろん、人もいない。
「早かったか」
しかし、待っている余裕も無さそうだ。
後から迫り来る足音と戦気。
舌打ち一つの音がやけに大きく響く。
剣を握りなおし、腰を落として路地から出てくる敵を待つ。
出てきた瞬間に終わらせる。
気配を消し、意識を切先に込める。一撃必殺。
さっきは時間を掛ける必要があったが、今度は違う。時間を掛ける必要が無い。
足音が近づく。速度は落としてない。息を吸って、止める。
光が見えた。地を蹴り、剣を握る右腕を引き絞って、
あの男が見えた瞬間に解き放ち、相手を突き砕く。
剣で防ごうとするが俺の方が速い。
そうする事は分かっていた。だが、予測よりも遙に速かっただけ。
右腕に走る痛撃。
痛みを抑え剣を振るう。押されていてはやがて倒れる事になる。
例え、陽動が目的としても闘えなくなった、だけでは引き下がらないだろう。
そうならないよう、抵抗はする。紅く染まったグリップを握り、対峙する。
痛みが冷静さを取り戻した。
一つ、二つ。深く呼吸して、攻める。
相手の間合い直線で体を捻り、剣を避ける。その遠心力を乗せて払う。
体制を崩しながらも避けて、突きを繰り出してくるが、右に左に回りこむ様に避ける。
金属音が止む。風を斬りつける音が静かな通りに響く。
寄せて引いて、向かっては避ける。ロナの事は親衛隊に任せ、ここはこの男を捕らえる事に専念した。
今から向かっても間に合わないし、何処に行ったのかも分からない。
それなら捕らえる方が有益だろう。そう判断すれば何も迷う事は無い。
何時も通り冷静に相手を見て、一瞬の隙を逃さず、一撃を叩き込む。