第二十話
御子の誘拐。
それが当面の任務。
どれだけ言い聞かせても納得しない感情を持て余しつつ、ガルドレイから車を走らせて『エールド』に着いた。
ネーサリアの麓の都市エールドの街は盛り上がっている。
規模もガルドレイに並ぶ大きな街。その街全体が『レーリアス大祭』に向けて活気付いている。
大祭に相応しい盛り上がりの途中の街並みを走っている一台の車。
乗っているのは、
「辛気臭い顔だな『レクスト』」
「そうか」
私と共にネーサリアに着たのは、ウィラル。
ヴァトといいコンビだと思ったが、騒ぎを起こしてはなんにもならない。との意見から、私とのペアになった。
騒ぎ自体が自然と陽動の意味を持てばいいのだが偶然に頼るほど運任せな作戦では作戦立案の意味が無い。
「さて、どうする?」
「まずは情報だな。先に探らせてある諜報員との待ち合わせ、後に行動に移る」
「了解」
アクセルを踏み込んで、待ち合わせ場所へと向かう。
待ち合わせに使ったのは人通りの激しい通りに面した公園。
スーツを着ている方が引き締まっていいのだが、ウィラルに言わせると、
「この状況だと目立つから止せ」
との事。
なので、動きやすい服装で待つ。
ウィラルは少し離れた所でコーヒーを飲んでいる。
私は目の前に群がる鳩に餌をやりつつ時間を潰している。
通る人の足音に鳩は飛び去ってはまた戻ってくる。
餌が無くなると時間を潰す方法も無くなった。
時計を見る。待ち合わせの時間を越えようとしている。
辺りには楽しげな親子。祭りそっちのけで仕事に勤しむ男。大道芸の稽古に励むピエロ。それを見て拍手を送る通りすがりの人波。
微笑ましい光景。なんだろうな。
この表情を壊すのが私達。結果それが幸福な未来へと繋がれば、恨まれてもいい。
一匹の犬が私の足元に擦り寄ってくる。
綺麗とは言えない姿。だが、首にぶら下げているのは一枚のディスク。
「手の込んだ事を」
子供のスパイごっこの様なやり方に頬が緩む。
首のディスクを取り、立ち上がる。犬はそのままどこかへ走り去った。
もしかしたら、待ち合わせの相手はあの犬だったのかもしれないな。
先に公園を出て、車に乗り込みウィラルを待つ。
「しかし、まぁ・・・・・・なんだな」
ウィラルも犬が来るとは予想してなかった。
「なんでもいい。待っていたのは犬でも人でもない」
ディスクをウィラルに見せて、
「そうだな。楽しくなりそうだ」
窓の外を眺めて、ウィラルが呟く。
その楽しさと、街の雰囲気を楽しんでいる者達には同じものでないのが気の毒だ。