第二話
ラルインの街をぶらぶらと歩いて、ホテルに落ち着く。
「さて」
どうするか。
特にアテも無くここに来たが、あの声の主には興味がある。
いつから私についてきたのか?
その目的は?
そして、なぜ存在を気付かせたのか?
私が考えても答えは出ない。
本人を捕まえて問いただすのが一番早いが、すでに私から距離を取ったのか気配すら感じさせなかった。
バッグはベッドに放り出してあるが、唯一の武器、私のよりも少し大きいこの長柄の槍『花火』は手元に置いてある。
さすが、観光都市。
あちこちには島特産の様々な商品が並び、綺麗に並んだ商店からにぎやかな声が聞こえ、港に近いから潮の香を持った風が街を駆け抜ける。
わずか十数年前に戦火に燃えた街とは思えない雰囲気を持っている。
賑やかな顔はそれを乗り越えた安心の現われなのかな。
きっかけは些細な事。
いや、権力者達にしては大事な事だったんだろう。
王族と政府の権力争いが国を割り、それに便乗して諸島への発言権を狙う他国の思惑を加えて諸島に飛び火した。
その戦争を収めたのが現宰相の『ベルザート=エラルメン』
王族に連なり、軍で才覚を表して武力と折衝で諸島をまとめ、西海の向こうの『ソディリーク』の侵攻を打ち払った生きる英雄。
この諸島を巡り、数々の陰謀が産み出され、駆け引きが今も続いている。
観光資源や交易の利益もそうだろうが、最大の狙いは海運上の拠点。
西にはソディリーク、東には『リクデレクト』、北には『ディスクレート』
軍事拠点としては最も有効かつ急所になる位置にある。
大国の思惑が絡み、諸島の誇りがぶつかり合い続ける歴史。
それはこれからも続いていくだろう。
港から街の中心街へ足を向ける。
立ち並ぶホテルに土産店が目に騒がしい。
買う気は無いが、思わず入ってしまう。
あれこれ見ては違う店へ。さっき見たものを手にとって見ては、違う店へを繰り返す。
一通り歩いて、近くの喫茶店に入る。
そこも観光客で一杯だった。
そこで休憩して街の探索を続ける。
これだけ歩けば目新しい物は無いが、行き交う人達の気運というかテンションに乗せられてこっちまで楽しくなってくる。
花火を担いで更に進む。
陽が赤くなり、気付いたのは、
「どこだっけ?」
すっかり迷子になってしまった事だった。
夕暮れも深まり、空には転々と星が輝き始めた。
おかしいな・・・・・・真っ直ぐ歩いていたのに・・・・・・。
昼と同じ通りを歩いているのに、夜は全く違う顔を見せている。
中央通りを照らす街灯より店々の明かり。
人波は昼にも増しているように思える。その活気の中心は飲食店。
ま、時間が時間だし。
私も何処に入ろうかと店を物色しながら通りを歩く。
頭の中はホテルの場所などすっかり忘れていた・・・・・・。
近くのベンチに座って。さてさて、どこでご飯を食べようか?
郷土料理かパンフに載っているそれなりに値の張る所か。
まずはこの二択から。
財布との相談はもう済ませてある。
ラルインの郷土料理にも興味はあるが、なんとなく怖い。
が、パンフ情報は確かな情報だが当たり外れがある。
味覚は個人の判断だからしょうがないが。
無難に行くのなら、パンフに。
勘を信じるのなら中央通からさらに先へと足を伸ばす。
ほのかに香る良い匂いに思考が途切れがちになるが・・・・・・。
さて、どっちにしようか?