第十九話
「まったく。キミ達は」
少年の声が荒れた店内に響く。
その元凶の二人の首筋には、まだ切先が突きつけられている。
「万一の事があったら」
「その時は俺がコイツの分も働けばいいだけだろう」
異口同音。
それを聞いて笑う一同。
「二人で手分けした方が、効率がいいんだけどね」
倒れた椅子を起こして座り、
「さて、今後の事を話そうか」
睨みあう二人を残して、各々が椅子を起こし、壁にもたれている。
「今日もトモは打ちのめされている」
「うるさい」
カノの一撃が見事にヒット。仰向けに倒れたトモの姿をナレーションしてみた。
「敵わないんだから、止めとけばいいのに」
「だからこそ、強くなれるんだろう」
力量差は分かってる分だけ大したものだ。
私の目には、カノはまだまだ手加減してる様に見える。
多分、トモもそれに気付いているだろう。
「ま、どうでもいいか」
私は寝転んで雲を見上げる。
人同士の争いに加わる気は無い。
闘う必要があるのは、あの少年。
姿、顔。思い浮かべるだけで、寒気がする。
気になるのは、私を知っていた事。どこかで会った事あったかな・・・・・・?
記憶を探っても出てこない。
まぁ、全てを覚えている訳でもないけど。
「おい、相手してくれよ」
起き上がると、カノとトモが私を見ている。
「なんで?」
正直、面倒な気持ちでいっぱい。
「同じ相手だけでは、稽古にならないからな。それに私にも仕事はある」
「しょうがないな」
待つ様に言い残して、逃げようかと思ったがここに滞在する以上意味が無い事なので、
「じゃ、ちょっとだけよ」
花火を構え、合図も無しに突きかかる。
稽古の成果なのか、驚きつつも捌いて体勢を保とうとするが、そうはさせない。
相手の意識が上にあるのなら、下を狙う。
体を沈めて、足を払う。が、驚く事にトモは足払いを避けた。
「やると思った」
なんとなく・・・・・・腹立つ。
トモの武器は長さ50センチ程の双剣。槍を振り回し距離を開け寄せては退く。
速度では負けるが、リーチなら分がある。
隙を誘い、軌道を惑わせ、不意を突く。常套戦法。
勝負はトモの体にアザが増える結果に終わった。
「ま、当然ね」
「くそ」
倒れても立ち上がる。
「もう一度」
トモの目は闘志に溢れている。暑苦しいほどに。
「カノ」
振り向いた先にカノはいなかった・・・・・・。
正面には闘志溢れるトモ。
後に退路はあるが、叩きのめす自身はあるが、逃げ切れる自信は無い。
見えげると、二階のテラスから見下ろす視線。クーラとロナと紛れも無くカノ。
軽く頭を下げ謝っている様に見える。
「いくぞ!」
勇ましい声と共に巻き上がる砂塵。そして、仰向けに倒れているトモ・・・・・・。
「そんなモノが本当にあるのか?」
一同の目が疑いに染まっている。
「あるさ。だから、キミ達の盟主が動いたんだろう」
ボクの言葉、これからの行動に疑問を持たない方がおかしいのかもしれないな。
「その証拠が」
手に持った長刀『深遠ノ煌』に力を込める。
闇が広がると同時に体力が吸われていく感覚。前よりは良くなったが、やはり慣れはしないな。
ボクの限界は半径7メートル程。それ以上出来なくも無いが、体力が続かないから戦闘にもならなければ、逃げる事も出来ない。テーブルを覆う程度なら問題は無い。
「信じてもらえたかな?」
声を出さないが、信じるには足りたようだ。