第十八話
ドアの向こうは賑やかな声が飛び交っている。
ここは『王都ガルドレイ』にあるレストランの一室。
このレストランは世界規模の組織『大地咆哮』
腐敗した現体制を打破し、新たな秩序の成立を目指している組織。
幾度の戦乱に疲れ果てた大地の代弁者を名乗る者達。
彼等が集い、今後の事を話し合っている。
「あんな小僧に何が出来るんだ?」
「何も出来ないかもしれないし、何か出来るかもしれない」
この場を仕切る青い目をした男の言葉に怒りを隠した表情を見せる五人。
「そんな理由で襲わせたのか?」
「あぁ」
「その事を主に言ったのは、あの小僧だろ」
「子供のイタズラに付き合ってられるか」
金髪長身の男が立ち上がる。
「怖いのか?」
睨みあうのは金髪長身の男と青い目の男。
「聞いてなかったのか? 子供の遊びに付き合うほど暇じゃないんだ」
「だろうな、勝てない相手に向かっていく事ほど時間の無駄は無いしな」
青眼の男は椅子に背をもたれさせて、金髪の男を見る。
周りの連中は、二人の間に殺気が漂うのを楽しんでいる様に眺めている。
「何が言いたい」
手に持っている斧の柄を握りなおす。
「そのままの意味さ」
誰も言葉を発さない。無言の威圧。
ここの威圧が壁を越えたのか、向こうの笑い声や話し声も徐々に小さくなっていく。
振り下ろされる斧。真っ二つにテーブルを割り、皿やコップが破片となって飛び散る。
青眼の男は椅子から飛び下がり、使い慣れた細身の剣を手に持ち、躊躇い無く突き出す。
切り上げられた斧と打ち合い、衝撃で弾かれても再び斬り結ぶ。
斧を軽々と振り回すのは『ヴァト=ヘラルオン』大地咆哮の戦闘員。
対するのは『ウィラル=カーウンバクト』同じく戦闘員。
見た目も考え方も違うが、よく一緒に行動してはケンカしている奇妙な二人。
今回も、また始まった、と笑いながら見ている他の参加者達。
体格差を速さで補う。室内を縦横に飛び、そこに居た人間を無視した攻撃。
近くで止める事をしなかった彼等は避けながらも煽る者もいれば、手に持った酒を飲み続けている者もいる。
戦闘は壁を砕き、笑い声は悲鳴へと変わり、話し声は怒声へと変わった。
逃げ惑う人々を巻き込み、剣戟が飛ぶ。
「おい、あまり怪我人をだすなよ。後々面倒になる」
酒を手にした男が叫ぶ。
当人達は聞こえたのか、徐々に人が少ない場所に移動しつつあった。
それを見て、
「流石」
とか、
「善い事したな」
と、笑い声交じりで煽る。
だが、剣は速度を増し、斧は破壊力を加えていく。
突如、闇が室内を覆う。
目の前さえ見えない暗黒。
停電? いくら停電でもここまで見えない事はないだろう。
訝しがる考えを他所に戦い続ける二人。
煌く白刃、飛び交う火花。
「もし、レーザーを起動していれば悠長に眺めているわけにはいかないな」
「あの二人に限ってそれは無いさ」
暗闇の戦闘もオツなモノと言いたげな口調。
動きは見えないが、感じる事が出来るほどの熟練者達。
「やれやれ、意味が無かったな」
剣戟に混じって響く少年の呆れた声。
闇が晴れ、視界に光が戻ると剣戟が止んだ。
お互いの首筋に切先が突きつけられている。