第十七話
私の思い出。思い出したくない所もあれば、何度も振り返りたい所もある。
「それって『ティエリクス攻城戦』ですか?」
火神ロフェンの居城が巨人を率いた邪神族に襲われ壊滅し、引き返してきたロフェンが巨人を討ち倒した神話の一つ。
「そう、伝わっているわね」
私には神話じゃなく、悲しい思い出。
トモやカノは、信じられないと要った表情。
ロナは目をキラキラ輝かせている。
「じゃ、アンタはその時から」
頷く。
「大変だな」
場違いなトモの言葉に、吹き出した。
「そんな風に言われたのは初めて」
声を出して笑う。
「笑うことかよ」
陽は落ちてゆっくりと世界が暮れていく。
食事を済ませ、それぞれの部屋に戻る。
眠くは無いがベッドに倒れこむ。
ぼんやりと天井や窓の外を眺めて、扉を見つめる。
懐かしい事を話したせいか、今にも扉の外からノレージュの足音が聞こえてきそうだ。
昼間の戦闘を思い出す。
手に残る剣戟の感触。じっと見ていると、その先にあの少年が見えてくる。
不敵に笑い、長刀を構えている。
陽を反射し輝く刃。それは自在かどうかは知らないが、闇を生み出し視界を奪う神の技術、神世武具『アーティファクト』
神と人が共存とまではいかないが、ある程度の接点を持っていた時代に実際いくつかのアーティファクトは見た事はあるし、力を示したのも見たり聞いたりはした。
そんな物が、あの時代から幾星霜を重ねたこの時代実在する事も人間の手にあるのも不思議だ。
「誰?」
ドアの外に気配を感じた。
「あ、ロナです」
戸惑うロナがドアに隠れるように顔を出す。
「どうしたの?」
上半身を起こして、声をかける。
「お休みのところ、申し訳ありません」
その後から、クーラがロナの背中を押して入ってきた。
ロナがコーヒーを淹れている。
御子と呼ばれ、命を狙われているであろうVIPが。
なんとなくシュールな光景に頬が緩む。
「あの子を守って欲しいのです」
クーラはロナを見つめながら、本題を切り出した。
まっすぐにそう言われると、断れない。
昼、ロナが去った後のことを話す。剣を交えた事が私の答えだと。
「それを聞いて安心しました。カノや近衛だけでは不安で」
昼間の事を言ってるのだろう。
ロナと変わらない背格好相手に、負傷者が出ては。
それに相手は一人ではなく、組織。
目的も規模も分からないその相手と戦わなくてはならない。
本人はその事に気付いているのかいないのか。
のんきにコーヒーを淹れている。
「組織に関しては何も出来ないわよ」
「そちらの方はこちらで対応しますが、手を貸してくれると助かります」
事が済むまでの住む所と食べる事に困る事は無い、とクーラが約束してくれた。
ロナがコーヒーを持って来て、
「もう一人も手を貸してくれるそうで」
「もう一人?」
コーヒーを啜りつつ聞き返す。
「トモさんです」
ロナが元気良く答える。
「何か、思う所があるらしく毎日カノ相手に奮闘してますよ」
「へぇ」
無関心に見えても気にはしているんだ。
ちょっと見直した。
「後、もう一つお伝えする事が」
ロナがコーヒーカップを片付けている時に、クーラの顔が微笑みつつも緊張を浮かべる。