第十六話
「その時はすぐに目覚めたわ」
額に冷たい感触。それで目が覚めた。
「大丈夫ですか?」
ノレージュが微笑んで私を見ている。
「え、えぇ」
「良かった」
体を起こし、辺りを見ると昨夜避難していた場所。
「まったく。とんでもない事になりましたね」
ノレージュは天井を見つめ、恨めしげに呟く。
釣られて私も見るが、私は自分の体に疑問を持った。
痛覚が麻痺する感覚。流れる血の暖かさ。
それらをまだ体が覚えている。
しかし体には何の痛みも無い。
体を触ってみるが傷は無い。
「もう大丈夫ですよ」
天井を見つめているノレージュが言う。
私の疑問と不安を見透かしたようにこっちを見て、
「これは私が言う事ではないのかもしれませんが、事態が事態なので」
一呼吸置いて、私を見て、
「貴女は不死の呪いを受けたのです」
あの日、聖堂で私を助けたのはロフェン様。
その時、私の命は無かった。
筈だった。が、ロフェン様は『冥王』と契約し私に不死の呪いをかけ、命を繋ぎとめた。
そして、ここティエリクスに保護されていた事。
不死の呪いの契約の代価の為、ロフェン様は今『邪龍討伐』に向かった事。
「貴女の運命を狂わせたのは、忌まわしき堕ちた大神『ライトロゥ』」
あの日、私を嘲笑った声だと直感した。
「ロフェン様は何故助けて」
「それは本人に確認してください」
にこっと微笑む顔。
「さて、お話はここまでにしましょうか」
立ち上がり、城に向かおうとするノレージュ。
「どこ、へ?」
私もついて行こうとするが、
「エリスさんはこのまま城から去ってください」
落ち着いた彼女と、焦っている私。
感情が高ぶり言葉は言葉にならない。
「アレを引っ張り出してきたって事は、攻め手はライトロゥでしょう。そして目的は貴女。捕まればどうなるか・・・・・・は分かるでしょう」
ノレージュは不老不死の私を心配してくれている、
「それに城主不在のまま、城が落ちてはかっこ悪いでしょう」
「私が出て行けば」
「それをされると」
困った顔のまま、
「とにかくエリスさんはここから先に進むと城から脱出できます。走れば先に行った人達に追いつけるでしょう。ささ、早く行ってください」
決意を持ったノレージュには私の言葉は届かない。
「また、会えますよ」
ノレージュはドアの向こうに消え、私は残って立ち尽くしていた。