第十五話
夜中の戦闘が終わり、陽が高く昇る頃には負傷兵や損害の規模も判明してくる。
それらの指示を聞きながら、新たな指示を出している兵や動き出す兵の近くで私も城内に避難してきた市民達と一緒に手当てを手伝う。
ほんの少し、コップの中の水面に波紋が広がる。
体感では感じられない程の小さな揺れ。
地震? 私以外に気付いてはいない。
時間が経つにつれ、喧騒は収まりつつあるとはいえ、日常に戻るにはまだまだ程遠い。
微かな地響きが、徐々に確かに感じられてくる。
「地震?」
コップの揺れが徐々に大きくなり、回りも気付き始めた。
城門の下。誰もが疑問と緊張を隠さない。
遠く、低い地響きが聞こえてくる。風が妖しく吹き出し、城門の上で作業していた一人が叫ぶ。
「巨人だ!」
同時に、夜とは比べ物にならない咆哮が轟く。
耳を塞いでも、体で聞き取れる雄叫び。
走っている事を簡単に予測させる地鳴り。破滅の地響きは確実にこっちに向かっている。
城門の上に向かう兵たち。
直後にその一角。壊れかけた城門が粉砕した。
辺りは粉塵が舞い、轟音に耳が聞こえない。
粉塵の中、砕かれた城門の間から黒く大きな影が現れた。
それは城門よりも少し大きく、また、有り余る力を誇示している様な影。
片手を城門にかけ、押し倒す。
破壊音と悲鳴が粉塵の中に散っていく。
残った城門から巨人に向かって攻撃を仕掛けるが、腕を振り回しただけで攻撃は止んだ。
巨人の突入から、しばらくしてから深夜襲撃してきた者達も再び攻め寄せてきた。
城門は粉砕され、戦場はあの美しい庭園。
緑が映え、綺麗に整えられた陽に染まる花園。
そこが今、剣戟絶え間なく修羅場と化した。
崩れ落ちる城内を駆け上がる。
ノレージュも避難させる為に。
階段を駆け登り、廊下を走る。
大広間の階段でノレージュを見つける。
「ノレージュ!」
叫ぶ。
ノレージュは黒い鎧の兵と闘っていた。
私は足を止め、何か武器になるものは無いかと、見回す。
倒れた兵の剣を手にノレージュの加勢に向かう。
「エリスさん!?」
剣の作法も何もあったものじゃない。
切先を前に走って行っただけの攻撃。
ノレージュさえ無事ならそれでいい。その一心で剣を持った。
私の突撃に虚をつかれ、ノレージュの剣を受けた相手。
倒れ際に私にも同じ衝撃が走った。
ノレージュに抱かれ、
「無事で、良かった」
苦しい呼吸でノレージュに話しかける。
ノレージュは複雑な顔をしている。
「私は大丈夫よ」
傷口は熱く、体は寒い。
「先に行って。後から追いつくから」
意識は深く堕ち様としているが、まだ堕ちるには早い。
「エリスさんも、一緒に」
ノレージュは私をおぶろうとする。
「先に行ってて、必ず追いつくから」
力が入らずに、ノレージュの背に乗る。
「いえ。私は貴女のお世話を任されたのです。ここでそれを放棄する訳にはまいりません」
ノレージュの小さな背中。
鎧の冷たさが心地良い。
「それに貴女は死ぬ事はありませんから」
そう勇気付けてくれる。
その優しさが何より嬉しかった。