第十四話
それからロフェン様と会う事は無かった。
なぜなら・・・・・・。
深夜。突如、城に激震が走った。
それは何度も何度も繰り返し響き続ける。
城内に響く、兵の怒声。声々に叫んでいるのは、
「敵襲!」
「東門に集まれ!」
窓の外に眼を向ける。
東の空が赤く染まっている。
赤く染まった中でも、そこだけが赤い光りを反射している。
そこを目指して駆けている鎧姿の兵たち。
「エリスさん!」
大声に振り返ると、
「ノレージュ!」
ノレージュもいつのも姿とは違い、軽装とはいえ鎧を身に纏い剣を持っている。
「ここは危険ですので、こちらへ」
「な、何が起こっているの?」
武器を運ぶ兵、慌しく指示を出している兵、武装していない者は避難を急いでいる。
「それは、終わってから話しますよ」
手を握る手が震えている。声にもいつもと違う色が出ている。
ノレージュに引かれて辿り着いた小さなドアの前に立つ。
「ここから地下に降りて、少し待っててくださいね」
にこっと笑う顔が青白い。
それでも、私を不安にさせない様に精一杯に気を張っているのだろう。
「えぇ」
多分、私の顔もノレージュと同じだっただろう。
狭い階段を下りて、更に進む。そこは薄暗い室内。微かに聞こえる戦闘を連想させる声と音。
私がここに来た時はまだざわついていたが、今では誰も口を開かない。
全員の耳は外に関心を持っている。微かな物音さえも過敏に反応する。
膝を抱え、ただただ待っている事しか出来ない。
時間と共に不安が大きくなり、鼓動が大きくなる。
ここにいる全ての人の不安が空気を重くする。思考は更に重くなり、の繰り返し。
ぎゅっと眼を閉じ膝を抱えて不安に耐えて、どれ位の時間が過ぎたのだろう。
物騒な物音が止み、静寂が訪れる。
最悪な不安と望んだ期待が入り混じった感情に染まる思考。
そして、更に大きく聞こえる咆哮。
それを聞いた室内の人々は、喜びを表し我先にと部屋から駆け出て行った。
私もその後に震える足で着いていく。
「エリスさん」
ノレージュが廊下に座り込んでいる。
鎧は紅く染まり、どこか怪我しているのかと思ったが、
「大丈夫ですよ。ちょっと疲れちゃって」
へへ、と笑う顔にも疲労が見える。
脇に置いていあった剣を杖代わりに立ち上がるが、よろけてしまう。
私は手を差し出し彼女を支える。
「すいません」
余程疲れていたのだろう。そのまま寝てしまった。
寝入った彼女を背負って、自室に戻りそのままベッドに彼女を寝かせた。
戦闘のあった東門辺りはまだ喧騒の中にある。
壊された城門の修復と破片の撤去。負傷した兵の手当てや戦死した兵を埋葬する為に次々とやる事は山の様にある。私も出来る範囲での手伝いに参加する。
空が徐々に白み始めた頃には、ようやく静かになり辺りは戦闘の緊張から解き放たれようとしていた。