第十三話
ここ『ティエリクス』に滞在してから、早くも一月。
壮大なお城の一角を一人歩くには、まだ怖い。迷うかもしれないから。
それでもどうにか迷わず部屋に戻って来れる様になったのは進歩なのか。
部屋から出ると場所に関わらず必ずノレージュに会う。
「早くお部屋に戻ってくださいね」
とか、
「そっちはダメですよ」
とか、まるで子供扱い。
見た目はそっちの方が・・・・・・。
とは、思ってても口には出せない。
案の定、ノレージュが着いてきた。二人で城内をうろうろしているとここの城主様に出会った。
「『ロフェン』様」
ノレージュが横に退いたので私もそれに習って彼の通り道を作る。
少し頭を下げていると、
「体の調子はどうだ?」
「はい。ノレージュが良くしてくれているので」
少し顔を上げると城主様の顔が目に映る。
背が高く、眼や髪は御自身の神性を表しているのか炎の様に紅い。
「そうか」
「ロフェン様」
私の後ろからの声に、
「あぁ、すぐ行く。それでは」
私は道を開け、通り過ぎるロフェン様を見送る。
ノレージュが執務室と言っていた部屋に入った。
・・・・・・。
「ロフェン様っ!?」
廊下に響く驚きの声。
「はい。言ってませんでした?」
今更? みたいな顔のノレージュ。
きょとん、とした視線を横に受けつつロフェン様の入った部屋のドアを見つめる。
あの方がロフェン様。
私達が崇め畏怖していた神様。
初めて会った時、ロフェン様と教えられた時は緊張というかパニックというか現実を受け入れる事が出来なかった。
いつもノレージュにあしらわれていたし。
伝説ではどの様な相手でも右手に『右龍』左手に『左鳳』と呼ぶ双剣を持ち、どの様な相手でも怯まず退かず戦い抜いてきた英雄。
その人が今、ここに、そして、私に声をお掛けになった!
その日から私は部屋から出るのに、妙に緊張した。
もし、ロフェン様に出会ったらって思うと二の足を踏む。
その事をノレージュに話したら、
「大丈夫ですよ。食べられませんよ」
と言って笑っていた。
いや、食べられるとは思ってないし。
「それに、話したいと向こうも思ってるかもしれませんよ」
意味深に笑う。
「あの日、エリスさんを抱えてきたのはロフェン様ご本人ですから」
新たな真実。
「その辺りの事も含めて、一度お話してみては?」
言葉が出てこない。
気軽に話せる相手じゃないし。
「と言う事は、ノレージュも?」
「はい。一応、神に列せられるかと。最初にそう言ったじゃないですか」
あはは、と笑うがこちらとしては幻想が現実へと移り変わっていく状況に思考が置いていかれる。