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En-gi2  作者: 奇文屋
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第十一話

 少年が去った。

「エリスさん」

 ロナの声。

辺りは静寂が戻ったが、私への視線はどこか冷たい。

「怪我は、もういいのか?」

 ロナの後からカノの警戒を少し含んだ声。

「えぇ、お蔭様で・・・・・・。じゃ」

 バッグを抱え、背を向ける。

「お前に会いたいと言う御方が待っている。こちらだ」

 ロナは私の手を引いてカノの後を追う。


 慌しい廊下を抜けると、視界には海が広がる。

吹き抜ける風。青い空に蒼い海。

海面は照らす陽を反射してきらきらと輝いている。

また、屋内に入り更に奥へ。

そこは先程とは違い、静まり、窓から入る光りだけの薄暗い所だ。

「こちらへ」

 ロナの声が少し緊張している様に聞こえる。

足音は絨毯に吸い込まれ、微かな物音も聞こえない。

 目的の場所に着いたのか、ロナの足は止まる。

古めかしいドア。ロナの代わりにカノがノックし、静かにゆっくりとドアを開ける。


 室内は大きな窓のおかげで、廊下とは違い明るい。

置いてある机、ソファや棚が綺麗に配置されている。

良く言えばシック、悪く言えば暗い。そんな印象の室内。

「司祭様。お連れしました」

「ご苦労様」

 聞こえたのは、懐かしさを感じる声。

室内にはもう一枚のドアがあり、声はそこから聞こえた。

視線はそのドアに向いた。


「エリスさん」

 ドアの向こうには、懐かしい雰囲気を持ったその人がいた。

「あぁ、なんと懐かしい」

 ゆっくりと歩き、私の手を取り、

「本当に、お変わりなく」

「えぇ、そう言ったでしょ」

「嘘だとも思ってませんでしたが、信じられる事でもありませんでしたから」

 微笑んでそれに答える。

 彼女、『クーラ=ルトアル』とは前に一度会っている。

「もう、50年近くになりますか」

 その言葉に私達以外が驚いた。

「50年!?」

 それを代表して、ロナの声が響く。

「えぇ、大戦の始まる直前にロナと同じ様に助けてもらって」

 クーラは当時に気持ちが向かっている。

 残る三人は私を見つめている。

「アンタ。幾つだ?」

「レディに年を聞くものじゃないわ」

 ソファに座り、トモに一瞥をくれてやった。

「ふふ、エリスさんはエリスさん。それ以上でもそれ以下でも無いのですよ」

「しかし、そんな事では納得が」

「オンナの過去にこだわる様じゃ」

「そんな状況じゃないだろう」

「世界は広いのよ。で、クーラ」

「おい。それで済ませるなよ」

 トモやカノ、ロナの目は好奇、畏怖を混ぜた目で私を見ている。

どんな傷を負っても治り、また時間から取り残されたと知ると皆その眼をする。

その目に耐え切れず、私は世界を旅している。

過去、その目を私に向けなかったのは、クーラだけ。

「なぜ、追われてたの?」

 声の緊張が室内を支配した。

質問の意図は一つ。さっきの騒ぎ、この前のラルインでの騒動。

「それは私にも分かりかねますが、ロナを『水平の風』の盟主の一族。『御子』と知っての誘拐騒ぎとの知らせを受けていますが」

 水平の風はこの国に根付いている思想。というか宗教。

その教えは、規律と自由が成り立った上での平和と幸福を求めている。

私にはよく分からないが、というか興味が無い。

 御子、とは何か儀式を行う時に代表としての位置づけのために必要なモノらしい。

「で、ロナをさらって、身代金でも要求しようとでもしたのかな?」

「警察はその様に考えている様です」

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