第十話
切先は、少年との距離を保ったまま。
窓際に腰掛けていたので、そのまま窓の外へと向かっていく。
勢いそのままに窓を越えて、浮遊感に包まれる。
「キミならそうすると思ったよ」
私の下にある笑顔。
「そう」
ここでは避けられないだろう。
右手を振りかぶり、花火を投げる。
相手は花火を体を捻って避け着地して距離を取る。
一瞬の遅れで着地し花火を握り立ち直った瞬間、煌く白刃が振り下ろされた。
「キミとはこうなる事が運命なんだね」
「キミが退けば、こうならないわよ」
間近にある顔には微笑みは無い。
お互い柄を弾いて距離を取り、突き払いを繰り出しては弾き返す。
響く金属音。騒ぎは広がり、武装した集団が声を荒げて迫ってくる。
「何者だ!」
声に反応した隙をついて、突き出す。
最初に近づいた男をなぎ倒す。
「これで、キミ達の敵って分かった?」
眼前を槍が通過しても、眉一つ動かない。
手に持った長刀を背中に構え、迫ってくる者を突き倒しなぎ倒していく。
それに私も加わるが、一向に攻勢は止まない。
「エリス。その程度ではないだろう?」
何人目かを突き飛ばしても息一つ上がってない。
花火を構え息を整える。
「そう、もっと集中して」
揶揄する声。
周りには人垣があるが、もう入っては来ない。
「エリスさん!」
ロナの声。
遅れてきた人達が割って入って来ない様に、突進する。
柄を合わせ金属音が響く。振り向き様に振り下ろし地面を打ち付ける。
「ちょっとは良くなった」
答えず距離を開けずに右に飛んで突きだす。
長刀を使って捌かれる。が、怯まず攻める。徐々に距離を詰めて大きくなぎ払う。
しゃがんで避けられて立ち上がった瞬間間合いを詰めてきた。
所を回転した勢いのまま肘打ち。
確かな手応え。後ろに飛ぶ少年の姿が視界に入った。
仰向けに倒れた少年。
顔を抑えて立ち上がり、
「ちょっと油断したかな」
顔は笑っているが目は笑ってない。
一筋の血が流れている。それを拭き取って、
「なんか、久しぶりに見たな。ボクの血」
うっすらと微笑を含んだ声。
「それで痛みを分かりなさい」
私は花火を構えたまま、目を逸らす事も緊張を解く事も出来ない。
「痛みは知ってるさ。だから、どうすれば傷つかなくて済むのか考えて闘っている」
「闘うのを止めれば、傷つかなくて済むわよ」
「なるほど。いい案だ。でも、それは出来ない」
「困ったわね」
「そうでもないさ。ま、ここでもうする事は無くなったし」
長刀を振り翳して、
「エリス。キミがこれ以上関わるのなら、その時は遠慮はしない」
長刀の一閃。直後に辺りを一瞬の闇が包む。
光りが戻った後には、少年は消えていた。