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「何だよ、アレ……」

 それは、こっちの科白だった。僕は友人と“あの日のように”屋上にいて、バスも無くなるので仕度をし出して、友人の呟きに目線をやれば、橋の向こうが、─────どう言うことだ。


「な、んで……」

『三回目』だ。さすがに、異常を悟る。おかしい。呆然と黒い染みに注目する友人。横の僕。手のひらも服も荷物も、きれいだ。傷も、汚れも無い。高校一年の三学期、その終業式を終えた、放課後。携帯の時刻は間違い無くあの日付だ。


 血の気が引く。『三回目』ともなれば、あの一箇月が夢であるなどと、思えない。


 完全に、繰り返している。やり直し、なんて可愛いものじゃない。

 あの一箇月を、ループしている。まさか、そんな、だけど。僕は混乱を来たしていた。当たり前じゃないか。がちがち歯の根が合わない口元へ手をやった。

「おい……大丈夫か」

 気遣わしげに僕を窺う友人。いっしょ、だ。


『二回目』と。僕は後ずさった。首を、無意識に横に振る。そして、荷物を放置して走り出す。

「っ、おい!」

 友人の声が僕を慌てて呼び止める。けれど、足が止まらなかった。




 素直に吐露するなら、逃げ出したかった。や、こんなはっきりした思いも無かった。


 ひたすら衝動だった。恐怖だった。




 校舎を飛び出して、バス停に出る。カード入れは、制服のポケットに入っていた。ICカードも。電子マネーもチャージ済みだ。携帯端末にも機能は在るけども、無くしたときのことを考えるととても纏める気にはならない。て、言うか携帯端末も置いて来た鞄の中だ。

 バスは、本島行きが停車していたが、どうも運転手が会社とやり取りしているみたいだった。黒い染みのせいだろう。


 僕はもう一方。浮島島内循環バスへ乗り込んだ。


 特に目的地が在った訳では無い。ただ一刻も早く、一ミリも遠く学校から遠ざかりたかった。何の解決策にもならないかもしれない。だけれども、もしかしたら、学校からいなくなれば変わるかもしれない。あそこにいなければ何か変わるかも──────そこまで思考回路を巡らせて、僕ははたと感付いた。


「……」

 もっと効果的な、方法が在るじゃないかと。




 降り立った僕の背でブザーが鳴って、扉が閉まった。バスが去る。

 循環バスから他の浮島への連絡バスに乗り継いだ僕は、ある研究所の門の前に建っていた。


 この場所こそ、トーナメントの終着地で、事の原因だったヤツが所属している研究団体の施設だった。


 僕は考えた。もしループするならば。

「始めさせなければ良いんだ」

 と。




 化け物の徘徊もトーナメントも始まる前なので、研究所は平常通り人が大勢働いているようだ。ヤツは研究所でもそこそこの地位にいたそうで、真正面から行っても門前払いを受けるのがオチだろう。忍び込むことを僕は決め、裏に在る搬入口へ回ることにした。


 以前二回訪れたときは人はおらず、AIのセキュリティのみが作動していた。

 そのAIセキュリティにウィルスを注入しハッキングして無力化したのは隣の高校の彼の友達だった。今、彼もこの友達もいないので、何とか打開策を考える。


 入り込むにしても、センサーの感度が高いので、たとえば何かに紛れてとか隠れてとかも成功確率で言えば低いやも……と、僕はここまで来て、立ち往生せざる得なくなっていた。奥歯が鳴った。どうやら、知らずに噛み締めていたみたいだ。顎の力を緩めて搬入口の柵に寄り掛かる。


 ヤツにしろこの研究所の関係者にしろ、今日のこの時点では僕の存在なんか無関係なのだ。因って、僕は身を潜める必要性は無い。いっそ正面から突破してしまおうか。“システムのことで話が在る”、こう言ってはどうだろうか。……いや、やはり無謀か。


 僕が如何に入り込むかを考えていたとき、意外にもチャンスは到来した。


「あれ……?」

 僕が思索しながら搬入口を眺めていると、人が建物から出て来た。その人物は建物を出て歩きつつ、携帯端末で誰かに発信しているようだった。僕のほうへ、やって来る。僕はさっと、さっきと打って変わって物陰へ隠れた。




「だから、なぜなんだ!」

 通話口で相手を怒鳴っていたのは、あの二度の相対でしか会ったことが無いのも関わらず、忘れたくても忘れられない人物だった。

「……」

 ヤツだ。ヤツは頭に来ていて周囲に対する注意が散漫しているのか、僕には気が付かず傍らを通り過ぎ先程僕がしていたのと同様に柵に背を預け何やら話をしていた。


 わざわざ外に出たと言うのは、通話の中身は他者に聞かれてはマズいことなのか。僕は物音に気を払いながらヤツに近付いた。ヤツは相変わらず通話相手に喚いている。


「何でそんなことをした? 意味がわからない! 本島と遮断して、本気でここを使う気なのか!」

 僕は僅かに目を見開いた。本島、遮断、……ヤツの口から溢れる単語に僕は通話の内容が現状……正確にはこの状況を作り出していることについてだと察した。

「頼む、考え直してくれ! おい、おい────!」

 ヤツが、懇願とも感じられる言葉を発する。……何だ?


 これじゃ、まるでヤツはこの状況を望んでいないみたいじゃないか。ヤツが引き起こしたんじゃないのか? 通話が切れたらしい。ヤツは携帯端末を数秒睨んで建物の中へ帰ろうとした。僕は、慌てて追い駆けた。


「おい」

「……」

「おいっ」

「……っ」


 僕に肩を急に引かれヤツは驚いていた。それはそうだろう。『三回目』の現時点で、ヤツと僕に接点は無い。知り合いでもない僕が呼んだのが自分だったとは露とも思うまい。僕は真っ直ぐヤツを睨め付ける。ヤツは目を瞬かせた。しばし静寂に包まれたけれど、僕は意を決して、口を開いた。


「膜」

「……?」

「浮島を膜みたいなものが覆って、化け物が現れる。携帯にはメールが来て、載っているURLにアクセスすると、トーナメントに参加させられて」

「何を言って、」

「全部、あの黒い染みに分断されてから起こることだ」

「────!」


 ヤツが先刻よりも驚きに瞠目した。僕は構わず続けた。


「化け物は、膜に覆われた浮島内で死んだ人間を材料に作られているんだ。人間を分解して、新たに化け物にする……お前なら、わかるんじゃないのか」

 僕の言う原理を説いたのは、目の前で驚愕のあと神妙な面持ちで考え込んでいる、ヤツだ。心当たりが在るだろう。数瞬黙考の末、ヤツは言った。

「ちょっと、来てくれるかな」


 僕はヤツの誘いに、頷いた。願っても無い、申し出だった。

 僕は招かれ、ヤツの研究所へ、更なる最深部の研究室へと足を踏み込んだのだった。







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ゲンシツウ─あざろぐ。
aza/あざのブログ。

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