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異界帰りの(元)第二王女専属給仕係  作者: 白火
1. VSエリート官僚
7/52

第7話 小百合と花澄 3

 


 あと五人分か……


 歩道の掃除を終えた貫千ら三人は、現状を上司に報告するため秘書課のオフィスまで戻ることにした。

 それもただ帰るのではなく、急ぎ足で社に向かいながらも通り沿いにある店を片っ端から当たっていた。


「駄目でした! 鰻はすべて売り切れだそうです!」息を切らした小百合が戻ってくる。

「こっちも予約なし購入できる一番高価なお弁当は千五百円のステーキ弁当でしたが、それももう完売でした」花澄も額に薄らと汗をかいている。

「そうか。俺の方もめぼしい弁当はなかった」


 しかし一人前二万円もする鰻弁当に匹敵する弁当などなかなかない。

 三人合わせて十五件は当たっていたが、専務が納得いくであろう弁当を見つけることはできずにいた。


「課長もまだ戻ってきていないようです!」


 電話を切った小百合が首を振る。

 弁当を受け取りに行くよう指示された直属の上司に何度も電話連絡をしているのだが、その上司は昼食に出ているとのことで一向に繋がらずにいた。


 時間は十二時五十分。

 そろそろ配膳の準備を始めないとまずい時間だ。


 仕方ない。

 背に腹は代えられない、か。


「君たち二人は会社に戻って弁当を並べておいてくれ。有栖川もすぐに到着するはずだから弁当は九個揃う。それらをホスト側の席に。ゲストの分は俺がなんとかする」


「でも、先輩……」小百合が泣きそうな顔で貫千の顔を見る。

「お客様の方が見劣りしてしまっては……」花澄も心配そうな顔をしている。

「五人には鰻よりも美味いものを用意する。課長にはギリギリで弁当が届くとだけ言っておいてくれ。もしものときは俺がすべて責任をとる。──だからそんな顔をするな」


 貫千が二人を安心させようと笑ってみせる。


「ほら、急げ!」貫千が二人を急かす。


 すると花澄が「わかりました! 私たちも戻ったら社員食堂に鰻があるか当たってみます!」と頭を下げる。


「でも責任をとるのは先輩ではなくて私たちです! ね、小百合!」

「花澄さん、この件は私に責任が──」

「急ご! 小百合! では先輩、失礼します!」

「え、ちょっと、花澄さん──も、申し訳ありません、先輩。社でお待ちしております」


 花澄が戸惑っている小百合の手を引くと、二人は小走りで駆けていった。

 

 さて、ああは言ったのもの……


 二人を見送った貫千は、空を見上げると考えを巡らせた。



 完全に乗りかかった船状態だな……

 とはいえ、この会食はその後の会議に繋がるとても重要なもの。

 鰻弁当ひとつでプロジェクトに影響が及ぶことはないだろうが、専務が今日という日に会議を設定したのも、パワーランチの勢いにあやかりたいというゲンを担いでのことに違いない。

 失敗すれば間違いなく会議の空気が悪くなる。

 そんな会議室に有栖川を送り出すのも気が引けるし、本来被害者であるあの二人が上司から責められるのも気の毒だ。


 何度となく諦めかけたが……このプロジェクト、迎賓館はどうしても成功してほしい。


 あと十分……

 もうあの鰻弁当以上のものを購入するのは不可能だろう。

 しかしゲストを満足させなければならない。

 となると、やはりあっちの食材を使うしかないか。

 なに、食べるのはエリートたちだ。連日の接待で美味いものなど食い尽くしているだろうから、中毒になるようなこともないはずだ。

 唯一、亜里沙には恨みを買うかもしれないが、そのときは秘密を打ち明けて心から謝罪しよう。



 ──よし。


 考えを纏めると、貫千は建物の陰に移動してイマジナリボックスを確認することにした。


 十二時を回っているから今日の分はもう補給されているはずだ。

 料理しやすいものだと助かるんだが……


 誰にも見られていないことを確認した貫千の右腕の先が、突然宙に出現した暗い穴の中に消える。


 さて、今日の分は……

 

 そしてその穴から引き出した手には、メロンほどの大きさの丸い物体が掴まれていた。


 ふむ。雷刻鳥の卵か。

 さすがシャル。まるで俺の心を読んでいるかのようなチョイスだ。

 料理もしやすいし、これなら二階堂さんも……これは当たり、だな。


 暗い穴を消した貫千は、なにもない空間から取り出した卵を手にしながら、ニヤリ、と笑みを浮かべた。




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