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異界帰りの(元)第二王女専属給仕係  作者: 白火
2. VS某国の貴公子
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2-8 最悪のランチ



 午前十一半。


 都内にある外資系ホテルの特別室で、ランチをとるひと組の男女の姿があった。

 

 男は、ややくすんではいるが金色の髪をしており、目鼻立ちからも欧米人であることが判る。

 女の方も同じく金色の髪をしているが、男のそれとは大きく異なっていた。長さは無論だが、窓から差し込む日を受けて、まるで金糸のように光輝いている。

 顔立ちは──一見外国人風に見えるが、どこか東洋の美しさを併せ持っており、この女性が外国人と日本人とのハーフであるといえば、誰もが、なるほど、と納得するだろう。



 男の名はトルッケン=アライド。

 EU圏内にある国の資産家であり、様々な企業の株主を務める投資家として広く知られている。表の顔は、だが。

 裏では武器の製造、流通といった軍需産業を主な生業としており、紛争地帯を抱える国や、軍事拡大を図る国を相手に莫大な利益を上げていた。いわゆる武器マフィアであり、その筋では、トルッケンが爵位を授かっているということもあって、破滅を齎す貴公子などと呼ばれている。


 そして──


 円卓に豪華な食事が並べられているにもかかわらず、先ほどからそれらをひと口も口にしていない女性の名は、蓮台寺小百合。日本屈指の財閥である蓮台寺家の次女であり次期当主候補であり、また、民間企業に勤める会社員でもある。


 二人は今、ランチを兼ねて、この後十二時から行われる記者会見についての打ち合わせを行っていた。

 記者会見の内容とは、トルッケンと小百合の婚約に関することであり、階下のフロアではすでに多くの報道陣が詰め掛けていた。


 記者会見用に合わせてか、トルッケンは白いタキシード、小百合はライトブルーのスリムなワンピースドレスを着用しており、記者会見だけでなくその場で結婚式すら挙げてしまえるのではないか、というほど両者ともに着飾っていた。



 




「サユリ。少しは食べておいた方がイイ」


 トルッケンがなにも口にしない小百合に、テーブルの料理を勧める。


「日本食の方がよかったカイ?」そう言いながらトルッケンが肉の塊を自分の口に放り込む。


「空腹ではありませんので」


 小百合は窓の景色に目を向けたまま答えた。


 二人で食事をするには広すぎるのでは、という室内にはトルッケンの秘書が一人とSPが二人、そして蓮台寺家の使用人が一人の計四人がドア付近で控えていた。


 その蓮台寺の使用人が小百合の傍まで来ると


「お嬢様。紅茶をお淹れいたしますか?」小百合を気遣う。


 しかし、小百合は視線を動かさずに首だけを横に振ると


「……いま何時ですか?」使用人に現在の時刻を確認した。


「十一時三十五分でございます。なにか御入用なものは──」


「結構です」


 時間だけ聞くと、小百合は使用人を元の場所へ戻らせた。


 小百合の表情は暗い。

 蓮台寺家の人間として、そして一社会人としても、普段は決して見せることがない憮然とした表情をしている。

 が、しかし、そのことで小百合の美しさが損なわれることは微塵もない。

 そのため


「ソウイッタ表情も魅力的ダネ」トルッケンが、机の上にある小百合の右手に触れようとする。


 それを視界の端に捉えた小百合は右手をサッと手を引くと、膝の上に乗せた。


 そんな小百合の態度を見てトルッケンは薄ら笑いを浮かべると


「ワタシの国では婚約をした晩にベッドを共にするという習わしがあってネ」


 目を細めて小百合を見る。


 小百合の全身にぶわりと鳥肌が立つ。


「──今晩ハ悦ばせてあげるヨ」


 トルッケンが舌嘗めずりをする。


 トルッケンを心の底から嫌う小百合からしてみれば聞くに堪えない言葉だった。


 しかし小百合は歯を食いしばって堪えた。


 そして忍耐強く待った。


 その瞬間が訪れるのを。


 その声が小百合の耳に届けられるのを。



「今はソンナ顔をしていてモ、明日ノ朝にはダラシナイ口でオネダリしてくるサ」


 しかし限界は近かった。

 おぞましさを通り過ぎ、怒りで小百合の肩が震える。

 トルッケンの無礼な態度や発言は、いくら温厚な小百合でも腹に据えかねた。


 今にもグラスの水をかける勢いで、小百合がトルッケンを睨みつける。


 だが、トルッケンはそんな小百合の態度を愉しむかのようにワインを口に含む。


 そう。

 まさしくトルッケンはそんな小百合を見て愉悦に浸っているのだった。

 


「ハハハ! 小百合はどんな声でくのカナ! ハハハ!」


 室内にいるほかの人間にもわざと聞こえるようにトルッケンが高笑いをする。



「──なんてことをッ!」



 それに耐えかねた小百合がグラスを手にしたまさにその瞬間──



「──お待たせいたしました」



 部屋の扉が開かれ──


 

「──デザートをお持ちいたしました」



 その扉の向こうに白銀の髪の給仕係が姿を見せた。




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