9話
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試験の終わったその足で僕らは早速クエストを受けてみることにした。
クエストというのは『ルマンド商会』が『探求者』向けに出している仕事だ。その種類は多岐にわたり家での力仕事の以来から魔物の討伐まで様々である。それらは先程も言った通りクエストという形で大きな掲示板にチラシのようにして貼り出されており受けたいクエストがあればその紙を受け付けえ持っていきクエスト受注という流れになる。ちなみに僕ら『探求者』にはパスポートのようなものが渡されておりそれが身分証明書、及びクエストをクリアしたかどうか表示される証明書となっている。
僕らは併設されている食堂でお昼を済ませつつ自分たちに出来そうなクエストの吟味をしていた。
「腕試し的には簡単な魔物の方がいいですよね?」
「だな。 そもそもサラはあんま戦うの得意じゃないの?」
「いえ、一応自信はあります! と言いたいとこですがお恥ずかしい話、この前のを見られたら疑問に思うのも当然ですよね……。それでも保安官として最低限くらいには戦うことは出来ますよ!」
僕の質問に申し訳なさそうに答えるサラ。
そんな彼女に僕はなんかこっちも申し訳なくなりフォローを入れる。
「いや、この前のあの魔物は特殊だったんだろ? 僕だって『武装化』しなきゃいけないくらいの敵だったんだしあれは参考にならないでしょ」
「ありがとうございます。 でも、いざとなったらスバルさんを頼るので!」
「あはは、期待は嬉しいけど僕もそんな得意じゃないんだ。 なんというか僕が力を使うには色々と制約があってめんどくさいんだ」
「制約ですか……」
「まぁその辺もクエストの行く道すがらで話すよ。 それじゃあ受けるクエストはこれにしようか。 他の『探求者』もたくさん受けてるだろうしそんな難しいものでも無さそうだし」
僕はそう言ってクエスト依頼の紙を一枚掲示板から剥がす。クエストの内容はポートミルの裏街道のひとつに最近魔物が出没するようになって困っているので退治して欲しいとの依頼だった。クエストの難易度を示す星マークは10段階中の3、クエストは随時受け付け中と書かれており参加人数に制限はないようだ。つまり僕ら以外にも他のたくさんの『探求者』もこのクエストを受けているということだ。
僕がサラにクエスト依頼の紙を見せると彼女もそれを受けることに賛同してくれる。
「裏街道の魔物討伐のクエストですか。 確かに難易度低い上に協力型のクエストなので腕試しにはピッタリですね! 最悪ピンチの時は同じクエストを受けてる人に救援要請すればいいですし!」
「決まりだな」
僕達はクエスト依頼の紙を持ち受け付けへと向かった。
さて、今更だがここで僕の『陰陽師』としての力を話すとしよう。ここまで説明を避けてきたのは別に隠すとか言うつもりはない。本職の陰陽師ではない僕にはそんな秘密にすることなんてこれっぽっちもないのだが僕を語るには色々と複雑でただただ話すのがめんどくさいから話さなかっただけだ。
前にも話した通り僕は幼少期を母方の実家である『朝霧』の家で過ごした。実家を勘当された僕の母であるがその息子の僕には天才陰陽師であった母に通じる何やら光るものがあったらしい。事実僕にはその光るものとやらは合った。しかし、残念ながら僕にはそれを使いこなせなかったのだ。
陰陽師の力の源は『陽素』と『陰素』という二つの力である。『陽素』とは簡単に言えば自然界の力、よく森林浴するとマイナスイオンがーとか言うがそれが『陽素』である。そもそも中学の理科を考えたらマイナスイオンを浴びてリラックス効果が得られるというのは疑問に思わないとおかしい。 マイナスイオンでリラックス効果が得られるなら電解質、例えば食塩水なんかを頭から浴びても得られるはずである。話はずれたが要するに自然界が人間に与える力が『陽素』であるという認識で構わない。そしてもうひとつの『陰素』これは個人、一人一人に宿る生命エネルギーである。陰陽師はこの二つの力をうまい具合に混ぜ合わせて力を発揮するのだがここで重要になるのが『陰素』の方でここに個人差が現れる。つまりは生まれつき『陰素』が多い人もいれば少ない人もいるわけでもちろん厳しい修行によってそれらを増やすことは可能であるがそれでもその量は限られている。僕はどうだったのかというとこれがとんでもなかった。よく『陰素』の説明をするとき人間を器に例えるのだが、一般的な陰陽師ならその『陰素』の容量はだいたい風呂1杯分である。それに対する僕の『陰素』の容量は学校プール1杯分である。
つまり僕は陰陽師として生まれ持って天才だが、残念ながら天才陰陽師にはなれなかった。僕には『陽素』と『陰素』を混ぜ合わせて力を出すことがとんでもなく下手くそという致命的な欠点があったのだ。陰陽師としての十分な力を持っていた僕だったが陰陽師として致命的に不器用だったのだ。叔父さんは僕の『陰素』の量に気づいて才能ありとしたのだが、残念ながら僕にそれを使いこなせるだけの技量がないことまでは見抜けなかったらしい。
もちろんそんな僕はその不器用さを矯正すべく『朝霧』の家での厳しい修行が始まる。結果としてどうなったのか…………。
あの母親にしてこの息子あり、嫌気がさしてトンズラしたわけである。
「つまりはスバルさんはニッポンでオンミョウジという召喚術師の修行をしてシキガミという使い魔を召喚するってことですね!」
「うーん、ちが………いや、合ってるのか?」
『そんなもんお国が違えば認識も異なるやろ。細かいこと気にしたはあかんよ?』
正しいニュアンスで伝わったかは謎だが僕なりに何とかサラに僕の力のことを説明できたと思う。厳密に言うと僕は普通の陰陽師のように式神で妖怪バトルなんてことは先述の通り得意ではない。(比較的簡単に操れる焔雉などほか2体を除いて一応召喚できるので全 くできないというわけではないが) なので戦い方はやや特殊になる。それをどうにかして説明しようとしたところにうまい具合に魔物が現れた。
向こうから悠々と近づいてくる黒い巨体。それがこちらに来るにつれて強い獣臭が鼻をつく。獣はある程度の距離で立ち止まり睨み合いとなる。当然僕は最大限の注意を払い構える。その巨躯の獣の眼光は少しでもすきを見せたら襲いかかると言わんばかりだ。
「随分とでかいクマだけど普通のクマじゃありませんよ感がビンビンなんだけど」
僕は小声でサラに尋ねる。もちろん視線はそのままに。
「『キリングベアー』ですね。 その通りあれも魔物ですよ」
サラも自分の剣を抜き最大限の注意を払って構える。
『えーっと、あった! キリングベアー、魔獣族。クマのような容姿の魔物で胸の三日月模様が特徴。魔法を使うことはないが、その巨体から放たれる前足のパンチは城門をも打ち破るパワーを秘めている、やって』
恐らく魔物図鑑か何かを読みながら僕に情報を教えてくれる文香。なんかようやくナビゲーターっぽいことしたなぁ……。
しばらくの間があり睨み合いの硬直状態となったがキリングベアーの方が痺れを切らし先に仕掛ける。
キリングベアーは二本足で立ち上がったかと思うと雄叫びを上げその城門を打ち破るという大きな腕を振りかぶりこちらへ襲いかかってくる。
当然そんな見え見えの攻撃が当たるような僕とサラではない。力任せに振り下ろされた腕は空を切る。しかし、そのひと振りで発生した風圧は驚くものであった。
「城門破壊も伊達じゃないな」
「大丈夫ですか!?」
「こっちは平気だ! 僕がやつの気を引くからその隙にサラ、こいつ倒せるか!?」
「やってみます!!」
サラの返事を聞いた僕は2手に別れた僕らのどちらに狙いを定めるか見定めてるキリングベアーにその辺に落ちてた石を投げつける。放物線を描き石は狙ったとおり頭に当たる。
沸点の低いキリングベアーは僕の想像通りこちらへ襲いかかってくる。
「頭まで筋肉でできてんのか、こいつ? 単純すぎだろ」
僕はそう言いつつ腰のポーチへと手を突っ込み1枚のカードを取り出す。
そうこれこそが僕の得意とする『式神』。
このまま例のごとく『焔雉』あるいは同じく僕の初期からの式神である『雪豺』『雷猩』を出してもいいが僕はよほどの緊急事態でもない限りそれは避けている。理由はいくつかある。もちろん僕の技術不足のせいで消費する『陰素』が桁違いなのもあるが、それ以前に彼らは自由すぎて扱いにくいというのが1番にある。底抜けの忠誠心はあるんだけどねー……。
どうやら僕は教育方針を間違えたらしい。
そこで僕が使うのは朝霧の家にいた時のぶっ飛んだ式神作るのが趣味な悪友が開発したこの『能力式札』である。
僕は式札に『陰素』を流し込みその札に書かれている名前を口にする。
「『蝶のように舞い蜂のように刺す』
僕はキリングベアーの攻撃をひらりひらりと交わし、眉間目がけて突きを食らわす。当然それで死ぬわけはないとは思ったが正中線という生物の急所を疲れた大熊の身体はゆらりと揺れる。
当然大きな隙が生まれるわけでそれの達成が元々の目的。
「はぁぁぁ!!! せぇぇぇい!!!」
いつの間にやらあんな高い木の上に登っていたのか---
まるでカワセミが川に突っ込むが如くまっすぐ、するどい剣先をキリングベアーに向けてサラが高いところから一直線に落ちてくる。
重力の力を最大限に受けたサラの突きはキリングベアーの喉元を捉え剣の柄の部分まで深く突き刺さる。
喉を潰されたキリングベアーに断末魔もない。ずしーんという重いものが倒れる音と共に大量の血飛沫をあげる。
「どうです? かっこよかったですか?」
「かっこよかったけど………」
血塗れのサラはニカッと僕に笑ってみせる。そんな彼女に僕は苦笑いで手ぬぐいを手渡す。
かっこよかったかどうかの前に真っ赤に染った顔で明るく笑うのはホラーだよ………。




