6話
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翌朝、僕とサラはポートミルの中心街へ来ていた。陸路交易の中心とあってとても活気に溢れていた。そんな中サラは僕を一際人の集まる建物の前まで連れてきた。
「ここが『探求者』の登録を行ってる『ルマンド商会』ですよ!」
「商会? 『探求者』ってのは国のライセンスで国からの認定でやるんじゃないのか?」
僕はてっきり某RPGのようにお城の王様、もしくはここまで聞いていた話の流れから言うとこの街の領主から直接呼び出されて任命されるのかと思った。しかし、どうやらそうではないらしい。僕がサラに案内されてやってきたのは大きく豪華なお屋敷ではなく確かに大きい建物なのだが人達が行き交い活気に溢れた西部劇に出てきそうな酒場のような建物でもあった。観音開きの出入口の上には大きく『ルマンド商会』の文字。どうやらサラの言う通り『探求者』の運営は民間の組織がやっているようだ。
「それはですねー、『探求者』は確かに国家資格なんですけど運営は『ルマンド商会』という生活用品から武器、防具に至るまで様々な商品を扱う商社に委託してるんですよ。そもそも『探求者』という制度も代表のルマンドさんがお金を出して設立したくらいですからね」
「なんか複雑だな」
「まぁ魔王討伐なんて事業はお金がいくらあっても足りませんからねー。そこは大きな資本の手を借りないといけなかったみたいですね。『ルマンド商会』としても商売としても『探求者』相手に商売したり、市民からはクエストとして仕事を請け負ったりでお金になると判断したんでしょうねー」
「Win-Winの関係ってわけか。にしてはなんで苦笑い?」
サラの説明で大体のことはわかった。ただ、その説明した彼女はあまりいい顔ではない。
「うーんゴロウコウサマのお話にもあるがちなんですがやっぱお金を持った大きな組織ですとグレーなことも多くて……」
「あー、そういうね」
これは日本だろうが異世界だろうが関係なく同じことらしい。お金を手にすればするほど黒くなる。ほんとにお金というものは怖いもんだ。
だが、今の僕にはそんなお金持ちの腹黒いところなんて関係無し。何度も言うが僕は正義の味方でもなんでもない、お使いでこの世界に放り込まれたのだ。ならば僕としてはさっさとお使いを済ませて日本に帰る他ない。なので相手が黒かろうがなんだろうが手を貸してくれる所には喜んで飛びつく。
観音開きの木製の扉を開くと中は活気で満ち溢れていた。真正面にはまるでホテルの受付のようなカウンターがありそこには何人かの職員と『探求者』であろう人達が話し合ったり、お金を受け取ったりしていた。さらには建物内に飲食店が併設されているのだろう。たくさんの長机には昼間から出来上がった人たちや地図を広げ仲間たちとなにか話し合う様子など様々見て取れた。
「中は予想通りだな。流石の僕もワクワクしてきた」
「そうなんですか?」
「恐らく俺たちの世界の趣味が入ってるな。多分、『東人』の誰かがルマンドって人に入れ知恵したんじゃないか? で、肝心の登録はどこでやるんだ?」
「ごめんなさい、私も仕事でちょっとだけしか建物に入ったことなくて」
サラは申し訳そうに謝る。
彼女はそもそもポートミルではなくイマブキの街に住んでいた。そのイマブキには『ルマンド商会』のこんな大きな建物はなかった。だからそんな申し訳なさそうにする必要はないんだけどねー。
そんな感じで入口付近で話してる僕らは当然注目を集める。そりゃくそ邪魔なとこで食っちゃべっていれば尚更だ。
「おい」
振り返ると屈強なおにーさんがたいそう怒った顔でいらっしゃった。
「「す、すみません……」」
僕とサラは完全にビビって尻すぼみな声になりながら端へ避け、『探求者』登録をするカウンターへと向かった。
やたらと遠回りになったがようやく『探求者』への登録へと至る。窓口のおねーさんに『探求者』になりたい旨を伝えると書類を2枚くれた。
「それではこちらの紙にご記入いただき、身分証とともにご提示ください」
「すみません、登録したいのは僕だけなんですけど……」
どうやらおねーさんはサラも『探求者』希望だと思ったのだろう。僕はおねーさんに紙を1枚返そうとする。
「あれ?お連れ様は違うのですか?」
「あ、いえ! 私はここまで案内してきただけで!」
「そうでしたか。もしよろしければご一緒にどうですか? 今キャンペーンをやってまして複数人で一緒に申し込むと一人分の登録手数料を無料、そして旅に便利なマジックアイテムをプレゼントさせて頂いてるんですが?」
まるでお店の促販みたいな口調のおねーさん。それに慣れていないのかしどろもどろのサラ。その光景は完全に東京の変な客引きに捕まった田舎娘である。これは行けると思ったのか受け付けのおねーさんはさらに畳み掛ける。
「さらにですね! お仲間の方が彼氏さんだったりだんな様でいらっしゃるなら何とさらに二人の関係に相応しいマジックアイテムをプレゼントさせて頂いてるのですが!!!」
「か、彼氏ぃ!!!???」
完全にパニックで思考停止してしまったサラ。僕はそんなサラに変わって丁重にお断りしようかとするのだがおねーさんのキラッキラの目に思わず言葉が詰まる。
期待、が込められてるというのは感じる。ただそれが純粋に勧めるという気持ちよりも、ここで契約してもらわないと私がやばいんです!!という同情心を買うような期待が寄せられているのをひしひしと感じる。恐らくどの仕事でもそうなように個人のノルマというものがあるのだろう。それが達成されなければ何らかのバツを被ることになるのだろうが果たしてそれが僕に関係あるのかと言われれば何も無い。そう、たとえ感情に訴えられてもこういうキャッチに引っかかるのは損だというのはインターネットの普及した日本では当たり前の知識となっているのは言うまでもないだろう。しかし、なぜこの手の詐欺が無くならないのかと言えば…………
「分かりました! 私も『探求者』になります!!」
相手の感情に引っ張られてこういうことを言うやつもまだまだいるからである。ただ文句を言うのも既に時遅しである。おねーさんはちゃきちゃきと僕たち二人分の申請の準備を始めてしまう。僕としてはあまり危ないことにサラを巻き込みたくはなかったが本人がやる気ならそれを止めるのもどうかと思うし……。
さて、おねーさんに貰った申請書を一通り書き終えたら次は適性試験というものがあるらしい。サラはともかくとして『東人』である僕は身分を証明するものが何も無い。なので本当に『探求者』として相応しいかという適性試験をするというのだ。
まぁそのことに対しては理解する。そりゃ身分不確かなやつに国をまかせるのであればそれ相応の試験が必要だろう。きっととても難しい試験が待っているはずである。だが、僕に不安はなかった。もし体力テストのようなものがあるのなら『武装化』までとは行かなくても陰陽師の力、『妖力』を使えば肉体ドーピングなんてお手の物、頭の方はこの腕時計型の通信機を使って文香に答えを教えて貰いながら堂々とカンニングすればいいだろう。腕時計自体はこちらの世界にもあるが、サラの最初の反応からしてこういった腕時計型の通信機は恐らくない。よって余程怪しい動きさえしなければ時間を確認している程度にしか思われないだろう。
だから僕にとって適性試験なんてものはこの世界においてのチュートリアルのひとつに過ぎない。僕はそんな余裕綽々でおねーさんのあとに続いて試験会場へと向かうのであった。
ルドマン商会の賑やかな場所を移して僕らはまるで学校の教室のような部屋へ連れてこられていた。がらんとした教室にはきっちりと6×5の机と椅子が並べられており僕はこの世界に初めて親近感を覚える。
「この部屋で待ってろとは言われたけど、席は適当でいいのか?」
受け付けのおねーさんは僕らを部屋に置いて準備があると出ていってしまい、残された僕たちは何をしていいのやら立ち尽くしていた。
「いいんじゃないんですかね。 んと、席よりもあのー……。この服恥ずかしいんですけどこれも『東人』の国の人たちの服なんですか?」
サラはもじもじと顔を少し赤らめながら言う。実を言うと僕らはこの部屋に入る前に試験のためにと服を着替えさせられていた。それはいわゆる体操服。半袖の白いTシャツに紺色のハーフパンツ、何の変哲もない体操服そのものだった。しかし、それは『男子用』はの話である。サラに渡されたのは『女子用』の体操服、半袖の白いTシャツは変わらないが下がまさかのブルマーである。
時代の移り変わりで今や教育の場からはほぼ絶滅したあの体操服は異世界で現役でいらっしゃった。まぁ日本でも見る機会はテレビの企画やなんかで見ることはあるが生で拝めるとは思わなかった。
「そうだけど、いや昔の服だね。今は色々あってほとんど見なくなったけど」
「これ、すごくギリギリじゃないですか? その………」
血色のいい、透き通るような白い太ももをあらわにして恥ずかしげにしているサラを見ているのは精神衛生上良くない。何せ僕も普通の高校生であるので反応しかねない。僕は何とか平穏を保とうとするがどうしても目線が下がってしまう。
「とりあえず、席つこうか」
必死に理性で押さえ込もうとする僕はこれくらいしか言えなかった。何たる童貞力であろうか………。
しばらくしておねーさんが何やら色々持って戻ってくる。
「お待たせしました! それじゃあ試験はじめましょう!」
「その前にいくつか質問してもいいか? なんだこの部屋、なんだこの服」
「あれ?『東人』の方々ならお馴染みかと。あとその服皆さんとても喜ばれてるんですよ?」
忘れていた。この世界に放り込まれたのは日本人でしかも神様目線でどうでもいい奴らが集められたということを。どこまでこの世界を染める気だ?そいつら………。
僕はもう聞くのを諦めとりあえず席につく。
おねーさんは席につく僕とサラの前にホワイトボードとマジックが置かれる。まるでテレビ番組のクイズでもやるのかという道具が並ぶ。
「最初は筆記テストです! 私が問題を出しますのでお手持ちのボードに答えを書いてください!」
「スバル、どうしよう! 私『探求者』の勉強なんて全然やってませんよ!?」
顔に不安をいっぱいにしたサラが僕に耳打ちをする。僕は小声でそれに答える。
「大丈夫。式が……えーっと、魔法で答え教えるから」
まさかこんな感じの筆記テストになるとは思わなかったが、問題は無い。僕の式神はなにも焔雉のように具現化する物ばかりではない。特定の相手に言葉を返さずとも情報を共有することくらいのことは簡単に出来る。それに先程も言った通り、試験に関しては文香の力を借りれば余裕なのだ。
「それでは第1問!」
次の文を訳しなさい。
I love you
まさか小学生でも答えられるような問題を出してくるとは思わなかった。こんな問題受験生である僕が間違うはずもなく、もちろん文香の手を借りる間でもない。ただ、こちらの世界出身のサラはそもそもこの国の言語ではない『英語』なんて出されても分からないだろう。僕はチラッとサラの方を見る。すると、手助け不要です!という意味だろう下手くそなアイコンタクトをこちらへ向けてくる。
すごいな。まさか英語が分かるとは。
僕はそんなサラに感心しつつ自分の答えをボードにサラサラ記入する。もちろん答えは『私はあなたのことを愛しています』だ。
「それでは解答オープン!」
おねーさんはクイズ番組の司会者のような口調で僕らに答えを見せるように促す。僕は自信満々に自分の答えを出す。それが不正解だとも知らずに………。
「お見事! サラさんは正解!! 残念、スバルさんは不正解です」
「はぁっ!?」
あまりの衝撃にガタッと席を立ちサラの解答を見る。そこに書いてあった答えは
『月が綺麗ですね』
「夏目漱石かぁっっっ!!!!!」




