4話
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「これは思った以上だ、間に合わなかったか」
焔雉が降り立った場所はまさに地獄絵図。月明かりに照らされた木々や石、ありとあらゆるところは鮮血に染まり、無残な亡骸が十数人分転がっていた。一応一人一人確認をして回ったがどれも完全に手遅れであった。
「1人でも生きてたら助けてこの世界のこと色々と聞こうとしたんだけどなぁ。これが魔物の仕業?」
「しらんし。でも、多分見た感じからいって人間の仕業じゃないんじゃない?」
「だよねー」
僕はそう言って肩を落とす。人が死んでいるという状況は陰陽師にとってさほど珍しい状況ではない。いくら随分昔に辞めたとは言えど実を言うとその後も僕個人で周りで起きる問題くらいなら自分で対処していたので非日常的な現場には恐ろしいが慣れていた。だからこそこういうことにはあまり関わりたくないという気持ち半分、ほかの人を巻き込みたくないという気持ち半分だ。なるべく助けられるのなら助けたかったけど…………。
僕がなにか手がかりが残ってないかあたりを色々と見ているとなにかに気づいた焔雉が声をかける。
「ご主人、これをやったヤツらまだ近くにいる。血の匂いがする」
「それじゃあそっちへ行こうか」
僕が焔雉が示すほうへ走り出す。だが、彼女は動こうとしない。何事かと振り返るとそこには不機嫌な顔があった。
「また飛ぶの? 疲れたんだけど」
のっぴきならない自体に何ともやる気のない返事。まぁ彼女らしいと言えば彼女らしいのだが……
「ああ、もう! 『武装化』すればいいんでしょ!?」
「こんな、所で!」
痛めた足を引きずり折れた剣を構える。敵は5体、そのどれもが私よりも遥かに体格が大きく、力も強い。まるで大木のような太さの腕に握られてる真っ赤に染まった斧を持った豚のような顔面の魔物。恐らく種類としては見た目の特徴からオークであることが推測される。だが、これは私たちの知るオークとは力も体格も凶悪さも遥かに上を行く。
これが最近問題になってる変異種というやつなの!?
私たちは最近街の近くの森に現れる魔物の調査に訪れた。そこで出くわしたのが奴らだ。同僚達が時間稼ぎしている間、馬術の得意な私が街へ馬を飛ばしこの緊急事態を伝える予定だった。しかし、それは叶わなかった。オークたちの張った『罠』に見事にかかりこの絶望的な状況である。このままでは状況も報告できないし、何よりみんなの時間稼ぎが無駄になる。震える身体にムチを打ち。目の前の魔物にせめてもの牽制になればと武器を構える。しかし、オークたちは私のそんな様子をみてニヤニヤと笑う。
このまま舐められたままでたまるか!
私はオークの一体へ向かい特攻とばかりにつっこむ。
「りゃぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」
しかし、私とオークとの差は歴然。私は軽く振るった相手の腕に木の葉のように弾き飛ばされ木に打ち付けられる。
「かはっ!!」
一瞬意識が飛びかけた。それを何とかこらえたものの意識は朦朧として身体はピクリとも動かない。オーク達はそんな私をみてニヤニヤと笑いながらなにか話し合っている。よく見るとオークの下半身に穢らわしいものが盛り上がっていた。なるほど、このまま私を凌辱するためにわざとトドメを刺さなかったのか。だが、それをわかっていても逃げることはできない。私はゆっくりと薄れゆく意識に身を任せ目を閉じようとした時、オークのおどろおどろしい声とは別の一見やる気のなさそうなそれでもなんだか安心するそんな声が耳に飛び込んでくる。
「まだいたのか。ひーふーみーよーいつ、これで13体目か?」
緋色の服、確かあれは東の国にある伝統的な戦士の服でジンバオリって言うんだっけ? それに身を包んだ黒髪の少年が颯爽と私とオークたちの間に割って入る。しかし、そんな彼の手には武器はない。彼が持っているのは同じく緋色のまるで燃えさかん炎をイメージさせるような装飾が施されたこれもセンスであった。
「やれやれ、焔雉の言う通り本当にまだいるじゃないか」
僕は目の前のオークたちをみて手元の扇子に向かい悪態をつく。
「でしょ? うち、ちょー天才的だから」
そこからは焔雉の声が聞こえる。
僕のこの舞台衣装のような戦国武将が着る陣羽織姿と焔雉の扇子になった姿は先ほど彼女が言った『武装化』である。『武装化』とは簡単に言ってしまえば式神と術者の合体である。これも陰陽師としては簡単と言いたいところだが実はそうでもなかったりする。そのへんはいろいろ事情があり話が長くなるのだが短くまとめるとコスパが悪いから現代の陰陽師が使わない過去の術なのだ。
ちなみに『武装化』していれば言葉を介さなくても意思疎通は出来るのだが、そこは焔雉の要望たって扇子と話すという見た目ヤバいやつみたいなことになっている。そんなドヤ顔で誇るうちのわがまま姫の焔雉に僕は無理だとわかっていいつもひとつお願いをする。
「いや、ちょー天才ならさっさと元に戻って戦ってくれません?」
「やだよ。せっかくご主人とうちがニコイチになっているのに離れなきゃいけないの!」
「その気持ち嬉しいんだけど僕に負担かかりすぎてるかなーって」
「へーきへーき、ご主人傷ついたらうちが治すもん」
何が平気なんだろうか………。まずご主人が傷つかないようにするということはないのだろうか。
そんな漫談じみたことを敵の目の前で披露していると案の定、それを好機とみたブタ顔の化け物はこちらへ大きな斧や棍棒を振りかぶり襲いかかってくる。
僕はその中の1匹の大きな斧を扇子で受け止める。ガキィィィィィンッ!!という思い金属音と共に暗闇にまるで蛍のように火花が散る。1発受け止めただけで両腕からミシミシと悲鳴が上がる。攻撃はその1発で終わらなかった。残りの4匹が両サイドに別れてはさみうちするように攻撃を仕掛けてくる。
力は想像通りの馬鹿力ただでかい割になかなかの俊敏な動きと統率力。
なるほど、こりゃ強敵だ。
先ほどここに来る時何匹か相手にした時も感じたことだが、改めて思う。これも僕達チート能力者持ちが大量に送られた影響なのだろうか。
僕は受け止めた斧をするりと扇子を滑らせ流すと、挟撃される前に体勢の崩れた最初の一撃を加えた魔物に向かいふぅと呼吸を整える。
「朝霧流剛術、弐の型七番『旋風!」
魔物の顎を的確に捉えた上段の回し蹴りで左側から攻撃してこようとしていた奴らの仲間ごと吹き飛ばす。そして、間髪入れずに残りの2体に向かっていく。
「式神・焔雉、武装解放!!『廻命鳳仙花』」
僕の詠唱と共に扇子が僕の身の丈ほど大きくなる。そしてそれを開くと中にはまるで極楽浄土のようなこの世のものとは思えぬ美しい模様。
「ふふーん、キモイのはまとめてお掃除♪」
久々の本気に焔雉は楽しそうに鼻歌交じり。どうやら絶好調のようだ。僕は大扇子を振りかぶり大きく振るう。そこから巻き起こされる風邪は災害そのもの。向かってきた魔物2匹を切り裂くどころか周りの木々もなぎ倒してしまった。
「やばっ! やりすぎた!」
「いやいや、うちはスッキリしたしこんくらいいいっしょ!」
「どう考えてもオーバーキルでしょ………」
たいそうご満悦な焔雉と自分で吹き飛ばしていながらその惨状に軽く引く僕。死体はないが確実に死んだことがわかるその光景に僕はただただ苦笑いするしかなかった。
「それよりもご主人、さっきご主人が蹴り殺した奴らのうち一体が生き残ってて逃げたみたいだけど」
「マジか。うーん、普通なら追ってとどめさすとこだけど今はあっちどうにかしないと」
焔雉の指摘に僕は少し考えてから追撃の提案に首をふりある方向を指さす。そこにはボロボロになった女の子の姿があった。見た目は僕と同じか少し上くらい、血とホコリで薄汚れているが恐らくこの世界、あるいは国の軍隊か何かの一員なんだろうとわかる制服を着ていた。女の子は気絶しておりこのまま放置したらせっかく助けたのにまた魔物の餌になりかねない。
「悪いんだけど、武装化解除して戻ってくれない? ほむらちゃん」