2話
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図書館の司書であり、館長であり、そもそも人間ですらない文香の部屋に飛び込んでくる小学生なんていうのは皆さんのご想像の通り人間ではない。
「興味ありませんよ、サクヤさん」
僕がコメカミを抑えつつ答える相手は大物も大物。本来こんな適当にあしらっていい人物ではないのだ。
「えー! 頼むよー。頼れるの君しかしないんだってば!!」
この僕の袖を引っ張り駄々をこねてる人こそこの辺の地域一帯を治めている浅間神社の主神である木花咲耶姫様だ。
木花咲耶姫命は日本神話に出てくる神様の1人であり、その書によれば天皇家のご先祖さまにあたる方だ。本来であれば僕や一妖怪である文香がフランクに接していい相手ではないのだがサクヤさんが「堅苦しいのは禁止っ!」とのことで恐れ多くも一友人としての関係を持たせてもらっている。
そんな彼女が文香と同じようなことを言って飛び込んできた時はもう嫌な予感しかしなかった。なんせサクヤさんはこういっては失礼だがなかなかぶっ飛んだ頭をしている。一言で言えばクレイジーだ。なんせ浮気を疑われたからと言って無実を証明するために小屋に火をつけその中で3つ子を産むということを大真面目にやった人なのだ。そんなとんでもなくぶっ飛んだ人が持ってきた案件なんて僕にとって間違いなく面倒事であることに違いない。
「なんでよー! 私、スバルくんのためにいろいろしてあげてるじゃん!」
「それは卑怯ですよ………」
プクーと頬を膨らまし僕を脅すサクヤさん。仕草は可愛いのだが僕はそれを言うとどんなことも逆らえない。先程僕が『朝霧』の家を抜けた話をしたがもちろん脱走者には厳しいバツがある。無論僕の時にもあったのだがそこを偶然通りかかったサクヤさんに助けてもらったのだ。何なら彼女には文香の時も力を貸して貰った。なのでここまでの僕の活躍はほとんどサクヤさんのおかげなのだ。
「ここは命の恩人たるサクヤ様の話聞いといた方がええんとちゃう?」
サクヤさんが来て緊張気味の文香が僕に耳打ちをする。彼女もサクヤさんのおかげで神様もどきとしての暮らしが保証されており僕以上にサクヤさんに頭が上がらない。
「全く人の気も知らないで」
「やっぱ無理かな………」
そんな僕と文香のやり取りを見てサクヤさんは悲しそうな顔をしてしょぼくれる。だから、立場抜きにしてもその表情がずるいんですって………。
「やりますよ、やります。話聞かせてください」
僕はとうとう折れてサクヤの話を聞くことにした。
「ほんと!? やったー!!」
「ほんま可愛いわー。ああ見えてもサクヤ様人妻で3児の母やで?」
僕の承諾に近い返事を聞いて飛び回るサクヤさんを見て文香がポツリと呟く。それについては激しく同意だ。
「というわけなのだよ、スバルくん」
「要するに今、高天原では拉致ってもあまり日本に影響のなさそうなニートだったり冴えないおっさんだったりを異世界に送り込んでどれくらい活躍できるかっていう遊びが流行っていると?」
「そうなんだよ! そんでね、みんなうちの子はこんなに成功したーとか言ってやってるわけ!」
一通り説明し終えたサクヤさんのことをまとめるとそういうことだ。なんとも物騒な話で人権問題がー、となりかねない事だが相手は神様だし連れてかれているのは社会不適合者なので何か問題あるのかと言われてしまえばなにも問題はない。神様というのは基本的に一部を除いて大半は暇人と思ってくれて構わない。なので彼らはひたすら暇を潰せるものを探す。今回はどうやらライトノベル+育成ゲームが流行っているらしい。
「はえー、神様もまたけったいな遊び考えるなー」
「いや、自分もさっきまでそれやろうとしてたよね!?」
先程まで自分の言ってたことも忘れたのかのんきなことをいう文香にツッコミを入れる。
「ここで問題が起こっちゃったわけよ! あんまり魔改造ニート送り込んでたせいでその別世界の事象が歪んじゃって結構やばいことになってるんだよ」
「やばいことですか? なんですの?」
「簡単に言うと向こうの魔物に抵抗力が付いてきちゃったんだよー! 本来やるべき魔物退治をテキトーにしたせいで向こうの魔物も対抗するために強くなっちゃったんだよー!!みんな魔王退治じゃなくていかに向こうでハーレムを作るかって方向に走って。なんでニートってみんなそっちの方向に走ちゃうんだろ」
予想はある程度出来ていたが酷いもんである。彼らほど欲に忠実に生きている人間もいないだろう。サクヤさんはそれでも真剣に困ったと僕達に訴えるのだが、僕としては呆れるしかなく文香に至ってはお腹を抱えて大爆笑である。
「アッハッハッハッハッ!!! それは傑作やな! はぁーっ! お腹痛い」
「笑い事じゃないでしょ! それ完全に向こうの世界に過干渉してるじゃないですか。天照様は?」
「つい最近知ったみたいで大激怒。そもそものきっかけを作り、さらに状況を見事に悪化する方向までやり込んでた須佐之男様にいつもの通り雷落ちて……」
天照様と須佐之男様に付いての説明は不要だろう。そしてサクヤさんの言う通り須佐之男が問題を起こし天照様がブチギレるという姉弟ゲンカはもはや定番のものとなっている。
「それでこれもいつものように瓊瓊杵様が責任を取って自刃するって言ってみんなに止められるわけですか?」
そしてこれもお決まりのパターン。須佐之男様の息子である瓊瓊杵様はバカ真面目である。なので毎度のこと責任をもってと自刃しようとするところをサクヤさんが止めに入るというのがお約束である。しかし、今回はどうやら違ったようでサクヤさんは首を横に振る。
「うんうん、違うよ。今回にぃには責任をとって自分が魔王を倒してくるって」
「いやもっとダメでしょ! どう考えても過干渉じゃないですか! 向こうの世界のバランス崩れますよ?」
「うん、だから必死に止めたよ」
「でも、それだと今度は『世界を救えぬなら』と瓊瓊杵様いつもみたいに自刃するんちゃいますの?」
「だから、代わりの人が魔王を倒してくるってことで納得してもらったの!」
「それで僕が選ばれたわけですか?」
なるほど。遠回りになったがサクヤさんの開口一番の発言が何だったのかは理解出来た。理解はできたが納得はいかない。ただサクヤさんはその僕の問に再び首を横に振る。
「うんうん。最初はスバルくんのお母さんの奏ちゃんに頼んだんだけど断られちゃったの。『めんどくさいからパスね。あ、そういうの多分スバルが好きだからちょっと聞いてみたら?』って」
今回ことが大きくなったことから高天原としては先人の者達の二の舞にならないようにある程度の強さと戦闘経験、そして強い精神力を持つかつ日本での生活において長期間抜けても問題ない人材を探していた。そこは問題を起こした神様の誰かが行けばいいのではないかと思われるだろうがそれは他世界に過干渉となりその世界の法則を歪めるとして固く禁じられている。なのでそこそこの強さとそこそこ暇な人を選ぶことによって日本自体にもダメージがなるべくないようという無茶な人材探しが始まりそれは思いのほか早くに見つけた。いや、思い立った。 それが僕の母である。彼女は世界を僕の父と放浪して、しかも名門『朝霧』の元陰陽師である僕の母にその白羽の矢が立ったのだ。
前にも言った通り僕の母は勘当されたとはいえ陰陽師としてのその才能は歴代最強と謳われるほどである。修行をほっぽり出す僕の母が強い精神力かどうかはともかくとしてその強さは誰もが認めるものである。
ただ残念なことに僕の母は面倒事が大の苦手、それは神様がお願いしようが何しようが曲げない。なので、今回どう考えてもめんどくさいこの仕事は大方の予想通り断ってきた。自分の息子を生け贄にして………。
つまり僕の母がサクヤさんからのお願い事をめんどくさいからことわり僕を身代わりにしたという事だったのかと改めて理解したのだが、僕を取り巻く話はまだ続く。
「でも、スバルくんを薦められたはいいんだけど本人に了承も得てないしいいのかなーった悩んでた時に文ちゃんから相談を持ちかけられて『ちょっとスバルを今流行りの大衆小説みたいに異世界に送り込みたいんやけど何かいい方法ないですかね? 本人も言ってみたいって言ってますし』って」
僕のこんなすぐ側に母がパスしたボールをゴールにぶち込んだやつがいた。僕は隣にいた文香を睨むが彼女は目をそらし口笛を吹く振りをする。
「本当はカナデちゃんに行ってもらいたかったけどそこに息子であるスバルくんがちょうど行きたいなんてうまい話が来た! と思って早速天照様にも提案したらOKが出たの」
そして絶望的なことに僕の知らないところで勝手に話は進められ日本の最高神にまで話が通されていた。こうなってはもう断れない。年貢の納め時である。
僕ははぁ、と大きなため息をつく。
こうなったら覚悟を決めるしかない。
「わかりました、ありがたく行かせてもらいます」
「やっぱスバルくんは頼りになるなー! それじゃあ行こうか!」
サクヤさんは飛び跳ねて喜ぶと僕の手を引き図書館の外へと連れ出す。文香も面白そうだと付いてくる。
はて、てっきりサクヤさんの力であの場に異世界に行ける門を開くのかと思ったのだがどうやら違ったらしい。
「行くってどこにです?」
僕はサクヤさんに聞く。すると彼女は指を指す。
「あそこだよ!」
僕と文香はその指差す方向を見る。
そこにあるのはただ一つこの日本という国で1番大きい山。サクヤさん、木花開耶姫の治める山。名峰、富士である。