16話
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ぼとっという鈍い音と共に地面に落ちる肉塊。当然ながらそれは僕の上半身ではない。僕の身体を真っ二つに切り裂こうとしたサラの異形な腕だ。
「さて、ここからが本番だな」
腕を切り落とされた『夢喰』は何が起こったのか分からないという様子で動揺し、切り口から溢れ出る血に顔をゆがめ苦痛の表情を浮かべている。しかし、それは僕の手に持つ折れていた剣を見て驚愕へと変わる。
光の粒子が折れた部分に集まりみるみると修復されていく。しかしそれは鈍く光る『鬼狩・桃華』とは明らかに違う淡く儚い刀であった。
ーーーー不明瞭。
恐らくこの刀を一言で表現するにピッタリの言葉であろう。白く淡いこの刀は存在さえ定かではない。
「『鬼狩・桃華』なんて刀はそもそも物語を元に作りだした剣だ。だから元々そんな刀なんて存在しない。だから元からある剣を『装飾』してそういう効果を持たせただけなんだよ」
陰陽師には神話の宝具を作るのに元々ある剣を素材に欲しい宝具を作り替えるという方法がよく取られる。『鬼狩・桃華』も例外ではなく、式札を作った僕の悪友によって作られた刀である。ただ、この刀に関しては作り替えるではなく上から塗るという加工が施されている。何故そんな方法が取られたのかというとこの元にした刀がとても扱い辛いピーキーなものだったからだ。
「そもそも『桃華』は鬼を滅する刀と書いて滅鬼刀という種類の刀だ。でもこいつはほかの滅鬼刀とはちょっと違ってとんでもないダメージを与えられて折られても刀自体が無くなりはしない。メッキが剥がれるだけだ」
正確には扱い辛い剣にメッキという名の安全装置を付けた剣ということにはなるがそれが剥がれれば当然元にしていた剣が本領を発揮する。
その不明瞭な剣は全ての『結合』を切り裂く切れ味を持つ刀。
全ての『繋がり』を切り裂くこの刀の名前はーーーー
「『終縁』 それがこの刀の、そしてお前からサラを取り返すための刀の名前だ!!!」
僕は下段の構えから思いっきり地面を蹴り、一気に『夢喰』との距離を詰める。当然、腕を切られた『夢喰』は動揺を隠し切れてはいないが本能からスバルが持つ剣の危険性を感じ取り距離を大きく取ろうと後ろへ飛ぶ。
「まったく、こんな土壇場にようやく送ってきやがって! 式札発動『韋駄天』!!!」
胸元から式札を取り出し陰素を込め、さらに踏み込んで逃げる『夢喰』との距離を詰め懐に飛び込む。
「朝霧流剣術、肆の型一番『鴟鵂』!!」
僕は居合抜きのように刀を水平に出し、サラの胴体を真っ二つに切り裂いた。
「ふぅ………」
放たれた居合ぬきで真っ二つにされたサラはドサッと崩れ落ちる。
『何をカッコつけてんねん。 そんな余裕ある勝利やなかったやろ』
この激しい戦闘で壊れたかと思っていたピアーウォッチから聞きなれた声が聞こえる。祭りのテキ屋で売ってそうなパチモンにしてはなかなか耐久力のあるパチモンだ。なんなら本家より頑丈なんじゃないだろうか。
「だったらさっさと式札送れよ。あんなギリギリに送ってきて。そもそも式札最初からあればもっと楽にことが進んだのに」
僕はその声の主に精一杯の皮肉を込めて悪態をつく。式札があればこんな最悪の事態にはならなかったかもしれないというのは事実だし、焔雉たちを戦闘不能にすることはなかったと思う。とはいえ僕自身も文香の忠告を無視して無謀にも『夢喰』に挑んでいったので100%彼女が悪いとも言えない。なんなら普段あの図書館を出ることがない彼女が僕が『夢喰』と戦うにあって急いで僕の家へ行き僕の式札を転送用の術で飛ばしてくれたのだろう。
『いや、図書館を出たタイミングは『夢喰』が本気出してスバルが死んだタイミングなんやけどな?』
まるで僕の考えを先読みしたかのようにカラカラと笑いながら文香が言う。
「人の考え読むなよ! てか、どうせならもっと早く行けよ!!!」
『だってそれやったらサクヤ様が言ってた『過干渉』になりかねないやん? それに説明し忘れとったけど死んでも日本戻ってくるだけやし。でも、サラちゃんあんな状態やしこればっかりは干渉してもええやろって』
「そうですか! わざわざサクヤさんの言いつけ破って送ってくれてありがとうございます!!
でも待って! 死んだ時の話聞いてないんだけど!?」
『だってそれ言ったら絶対スバル着いた途端自殺して戻ってこようとするやん?』
「そんなのもちろんだよ!! 分かってたら…………」
『ちょ、スバル? スバル!!!!』
ここで僕の意識はプツンと途切れた。
こういう感覚は久しぶりだ。
身体は気だるく動く気すら起きない。僕はボーッと多少煤汚れた木目が人の顔に見える天井を眺めることくらいしか出来なかった。
恐らくは立っているのがやっとだった僕が文香へのツッコミで全スタミナを使い果たしぶっ倒れたあと街からの救援が来で僕を運んできてくれたのだろう。
どれくらい時間がたったか分からないがこんな所でボーッとしているのも飽きてきて重い身体を起こそうとしたちょうどその時ガチャっと扉が開かれ誰かが入ってくる。
「あ、起きてたんですか? スバルさん」
「今起きたとこだよ。 まだ身体が鉛のように重いし。それよりサラの方こそ大丈夫なの?」
「はい! スバルさんのおかげで特に問題なしです!! この度はありがとうございました!!」
サラはお盆を持っていない、肘から先がなくなった右手で敬礼する仕草をし、満面の笑みでそう答える。




