15話
感想、評価お待ちしてます!
良ければTwitterのフォローも大募集してます!
@egu05
よろしくお願いします!
「ずいぶんと素敵な格好してるじゃないか。舞踏会でも行くのか?」
荒れる息を整えつつ僕は折れた剣を向け虚勢を張る。鏡を見たサラは絶句し言葉も出ない。
嫌な予感はイマブキの街からあった。朝霧の家を出てそう短くない時間を過ごした僕だが『夢喰』に取り憑かれた、あるいは取り憑かれやすい人間の特徴はある程度理解していた。特にわかりやすいのは取り憑かれた人間は『夢喰』が表に出てこようがそうでなかろうが身体能力が大幅に向上する。その条件に当てはまっていたサラだが、僕は異世界の人間ならこれが普通かと思い込み、そんなわけないと考えないようにしていたのだが事態は最悪の方向へ向かった。こればかりは僕の怠慢を恨む他ない。
「スバルさん………、私は………」
「見ての通りだ。そうなったら正義もへったくれもないね。さっき暴れ回っていた森神同様、討伐対象だ」
「私は………どうして………」
だんだんとサラの周りを黒いモヤのようなものが包む。僕は黙ってそれを睨む。やがて彼女は頭を抱えその場にうずくまる。それでも僕は近づかない。今心配して近づいたら僕の方が殺されるからだ。触らぬ神に祟りなし、本来なら『夢喰』に堕ちかけの人を見たら見たら朝霧のような専門家以外ならその場から立ち去るのが最善手だ。当然僕も専門家には含まれない。あくまで存在を知ってるだけである。だが、そんな『夢喰』の危険性、そして不可逆的に心を喰われるため堕ちた人は助からないということを十分理解していたとしても目の前で苦しむ友達を見捨てて逃げれるほど僕は物分りは良くない。
「命をかけて同僚を逃がしたのにその結末がこれじゃ報われないよな。そう思うだろ、サラ?」
僕の言葉は果たしてサラに届いているのか。そんなことはもう分からないが彼女、いや、彼女の形をした化け物はゆっくりと立ち上がる。
「いいよ。相手してあげる。きな、化け物!!」
「朝霧流剛術、肆の型五番『時雨』」
連続突きを見事に交わす『夢喰』。元々身体能力の高いサラが『夢喰』の力によって何倍もパワーアップしている。
「くっ!! あぶな……。本気で振り抜いてきやがった」
僕は髪一重でサラの振るう刀を避ける。そう、僕とサラの戦力差は圧倒的だった。『夢喰』の力でドーピングしたサラとほとんど呪力を使い果たしガス欠状態の僕、それだけでなく向こうは刀を持ってるのに対しこちらは折れた剣。ハンデ所の話ではなかった。
僕としてはせめてサラの剣をどうにかしたいところだ。あれさえどうにかなればまだ勝算が出てくる。とはいえ自分からサラの間合いに入るも自殺行為。となれば、
「カウンター狙いか? 上手く行けばいいけど……。 それに」
僕は独り言を呟き目線を手元の折れた剣へと向ける。こっちの方はまだ時間がかかる。仕方ない可能な限り足掻くしかない!
そんな思考を巡らせていると隙ができたと思ったのかサラが猛然と突っ込んでくる。馬鹿の一つ覚えのような見え見えの突き。これを避けるに苦労はしない。ギリギリまで待ってまるで闘牛士のごとくひらりと良ければいいのだ。しかし『夢喰』に支配されてるとはいえ身体と脳みそは本来彼女のもの。当然避けた僕への対処がないなんてことは無い。
常人じゃ考えられないような無理な方向転換そして体勢で勢いを無理やり僕の避けた方向へと向ける。当然そんな無理な動作にまだ原型をとどめるサラの身体がついていけるはずもなくバランスを崩しよろけて腕1本で刀を振るう形になる。
「ごめん、サラ!」
僕はその隙を見逃さない。片手になった剣を持つその腕に組み付き両足と両手で完全に固める。いわゆる飛び付き腕ひしぎ十字固めだ。腕を折らないなどという生半可なことを言っている場合では無い。やらなきゃ殺られるのは僕だ。完璧に決まった固め技にさらに力を加えるするとサラの身体から鈍い音が伝わりそれを確認した僕は固め技から力技で抜け出そうとするサラの追撃を避け大きく距離をとる。
骨が折れたのかはたまた関節が外れたのか……。剣を持っていた腕はだらんと垂れ下がっている。これでようやく僕も戦え………。
「おいおい。嘘かよ」
彼女はだらんと下がった腕とは逆の方で剣を持つ。それもかなり扱い慣れた様子で。僕は失念していた。そもそもサラの戦闘スタイルは左手に剣、右手に銃といった二刀流スタイルだ。つまり彼女はは両利きだった。さらに折られた腕をただ垂れ下げているだけかと思いきや違った。その腕は徐々にどす黒くなり形も鋭い爪を持つ異形のものへと変化していく。
鋭い爪と剣の二刀流。状況はどんどん最悪になっていく。
「くっそ! りゃぁあぁぁぁっっっっっ!!!」
つま先に思いっきり力を入れてまるでロケットのように突っ込んできたサラに僕は折れた剣を構えヤケクソで突っ込む。
ギィィィィンッッッ!!
サラの剣を『桃華』で受ける。耳をさく音とともにまるで蛍のように火花、そしてこぼれた刃が散る。
一方的な鍔迫り合い。押されるような形で両手で剣を支える僕に対し、片手で剣を振るうサラ。空いた異形な形の腕が僕のがら空きになった脇腹に向けられる。
「ぐぅぅぅッッッ!!!」
間一髪体を逸らし脇腹に風穴が開くのは避けられた。しかし、ただ爪が掠っただけの脇腹からは留めなく血が湧き出てくる。だが、その傷は瞬く間に塞がっていく。
「焔雉には感謝だけど拷問かよ」
僕は脇腹の苦痛に顔を顰めながら自身がやられる前に僕に傷回復の術をかけてくれた彼女に感謝する。
森神との戦いでは僕は実を言うとあの一撃で死んでいてもおかしくはなかった。
しかし、その死ぬ間際にあの3匹はそれぞれ僕に自分の身よりも僕の身の方を優先してくれた。普段から厄介だ、扱いづらいとは言ってもやはりここぞという時には頼りになる。3匹がそれぞれ森神の攻撃を受けてくれたおかげで僕へのダメージは減らされこうしてサラのピンチにも駆けつけることが出来た。
ただこの焔雉の能力では傷は回復出来ても受ける痛みがなくなる訳では無い。それを無くせというのは贅沢かもしれないが戦闘中は本当にお願いしたいところである。
そして、タンマなんて自我を失ったサラに対して聞くはずもなく、痛みで動きが鈍った僕にさらなる追い打ちを掛けてくる。また駆け寄って一気に距離を詰めてきた。かと思うと僕の折れた『桃華』の間合い半歩手前で減速、体重移動で後ろ足に思いっきり体重を乗せ一気に加速する。緩急をつけた足さばき、どうせ直線的な攻撃くらいしか来ないと思っていた僕は完全に裏をかかれた。それだけサラと『夢喰』の同化が進んでいるということだ。つまりサラに時間が無い。
「くっ!!」
剣を受け、バランスを崩した僕に先ほどと同じような鋭い爪での攻撃。これは回避できない。直撃である。さすがに爪で切り裂かれ身体が真っ二つになってしまったら回復もクソもない。しかし無情にも僕の身体に爪が突き立てられたと同時に先ほどとは比べ物にならない鮮血が噴水のように吹き出した。




