12話
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こちらの世界に送り込まれてきて『探求者』として初めてのクエストがまさかの『夢喰』というとんでもない敵に遭遇するハメとなった。例えるならRPGの序盤でラスボスに当たってしまうような感じと言ったら的確かもしれない。これもチート地球人達が送り込まれた副産物によるものだろうか。ともかく、今回の敵は凶悪すぎる。
「よし、数は減ったな」
僕は回し蹴りを叩き込み本日何体目か既に忘れたがネズミのような魔物を蹴散らし一息つく。先程までうじゃうじゃといたちらほら気配はするものの魔物はほとんどいなくなっていた。
「こっちの方もあらかた片付きました! でもどうして急に数が減ったんですかね? 私たち森中の魔物を倒したんですかね?」
「まさか。多分、雪豺のお陰だよ。あいつ出してから目に見えて数が減ったからなぁ。こっちに向かってくる30体だっけ? を倒せって指示出したのに僕達に向かってくる全部を倒したんじゃないか?」
おそらく雪豺は命令自体は理解していたと思う。ただ、忠義に厚い彼のことだ、こちらに向かってくる魔物全てを片付けたのだろうことが容易に想像出来た。
「あのわんちゃんそんなこと出来るんですか!?」
「わんちゃんって……。まぁあいつは3匹の中じゃこんな感じの一対多数の戦い向きだろうからな。それよりサラはアンリさん達に合流してこのとこを街のギルドに報告して欲しい」
「えっ!? スバルさんは!?」
「大丈夫、さすがに雷猩と雪豺を置いてはいけないよ。上手くやりつつ僕も逃げるから」
僕は着いてくると言って聞かないサラをなんとか納得させ森神の元へ向かう。
何だかカッコつけたみたいな感じになってしまったが僕としても『夢喰』には因縁があるたとえ勝てるかどうかは分からずとも僕は引く気はなかった。
「ぜぇ………ぜぇ………やるじゃねーか」
息を切らし、如意棒を支えにしてなんとか立っているという状態の雷猩は虚勢を張る。もうその姿はボロボロで戦うどこの話ではないが彼の闘争心は決して折れてはなかった。
ボロボロなのは彼だけではない。途中から雷猩の助っ人に入った雪豺も白銀の毛並みをどす黒い赤色に染め息を切らしている。
森神は敵いもしないと知りつつも挑んでくる憐れな獣2匹を怒るでもなく挑発するでもなくただ毅然と構えるだけである。しかしそこに森神の意識はない。あるのは憎悪に蝕まれ『夢喰』に身体を乗っ取られた抜け殻だ。
「ド派手にやられたなぁ。焔雉、頼んだよ」
「なんでウチがまた。しかもよりにもよって戦闘バカと石頭バカの治療なのよ。マジありえない!」
そんな緊迫した場面に現れたのは剣を無造作に肩で支える黒髪の少年とこの世のものとは思えない美しい緋色の羽を持つ不思議な言葉を話す大鳳であった。
「誰も助けろなんて言ってないぜ。減らずく叩くなら焼き鳥にしてやろうか」
「1番最後に登場してよく言う。 知恵足らずめ」
「はぁ? だったらやってみる? クソエテ公とカタブツワン公」
これだから3匹同時に出したくはなかったのだ。森神そっちのけでバチバチと火花を散らす。いつもの事ではあるのだがせめて互いのピンチくらい協力できないものだろうか……。おそらく全国探しても式神同士が仲悪いのは僕のとこだけである。これが僕の才能に起因することなのか元々彼らがこういう性格なのか、僕としては後者だと思いたい。
「お前らいい加減にしろよ! 僕から見ればみんな一緒だわ! 好き放題僕のエネルギー持ってきやがって!! 僕ももうこう見えても限界なんだぞ!!」
僕はなんとか3匹をなだめ改めて森神と退治する。
犬、猿、雉と来てあと一人は?と聞かれれば日本人なら誰でも答えられるだろう。だが、残念ながら僕は桃から生まれた覚えはない。僕の母親はあの母親しかいない。しかし僕に桃要素がない訳では無い。
僕の持っている剣、これこそ僕の4つ目の式神『鬼狩・桃華』である。
この剣はかの有名な桃太郎のモデルになった彦五十狭芹彦命が持っていたとされる剣。鈍く光る両刃の剣は一見古びた鈍に見えるだろう。実際斬れ味は大したことがない。どちらかと言うと鈍器として使用した方がいいのかもしれない。ただ腐っても神話に登場する宝剣である。この刀は『悪鬼を切る』というただその1点だけは無類の斬れ味を誇る。もちろんその悪鬼には『夢喰』も含まれる。
僕は悠然と立ちはだかる森神へ向けて大きく息を吸って堂々と宣言する。
「この地を治めし森の主よ! 我はそなたに恨みはないが夢魔に心を蝕まれ正気を失い、これ以上災禍を振りまくと言うのなら容赦はせぬ!! 怒りを鎮め森深へ帰りたまへ!!」
グオォォォォォォッッッッッッッ!!!
僕の警告に対し今日1番の咆哮。地を震わせ、気の弱いものなら一瞬で逝くだろう神獣の叫びは明確な拒否であった。
「そなたの意思は分かった。 元朝霧家流3級陰陽師、板橋昴。これより『正義』を執行する!!」
朝霧の口上なんて久しぶりに口にしたがこうでもしなきゃ正常を保ってられる気がしない。
雷猩と雪豺の治療を終えた焔雉を素早く武装状態とし、僕は臨戦態勢の森神へまっすぐ突っ込む。
剣術は体術と同じくらい朝霧の家でしごかれた。そして武装状態ならある程度身体能力が強化されるので式札なしでも最低限戦える。
「はぁッッッッッッッ!!!」
地面から伸びてきたツルを細切れにし切っ先を森神の胸へ定めそのまま飛び込む。
ガキィィィィィンっ!!!
という硬い音と火花が飛び散る。森神の急所を狙った剣先は大木のような先ほどと比べ物にもならない太いツルに阻まれてしまう。
「っ!?」
弾かれた僕は当然隙だらけになる。そこへ森神の一撃が振り下ろされる。
「やらせるかよ!!」
太く隆々とし腕は雷を纏った神棒に阻まれ大きな雷鳴と共に丸焦げになる。
「今だ!! 怯んだ、畳み掛けろ!!!」
叫んだ僕にいち早く反応したのは雪豺だった。 自分の体長の何倍もある森神の腕に飛びかかり噛み付く。突き立てられた傷口は一瞬にして凍りつき、盛り上がり氷の柱が突き刺さったようになる。急に腕に重りがついたことによりバランスを崩し、森神は膝をつく。
「朝霧流剣術、参の型五番『大白鳥』!!!!」
膝をついた森神に僕は僕の持つ剣術の中でも最大の技を放つ。森神の目はまだ死んではなかった。僕が技を放つやいなや先ほどと同じように地面から大木のようなツルを伸ばし自身を防御しようとする。しかし、僕も馬鹿じゃない。1度見ればその対策くらい立てる。十字の斬撃には焔雉の力を混ぜたものでツルごと森神を切り裂き、胸に大きな傷を付ける。
「もらったぁぁぁ!!!」
怯んで状態が起きた森神の頭上から重力に従い、猛スピードで突っ込む影、
「丸焦げになりやがれぇぇぇ!!!」
雷猩の神棒は真っ直ぐ森神に刻まれた傷口へ突き立てられ、その瞬間辺りは閃光と爆音に包まれる。
「まじか、こいつ………」
融合状態の焔雉の声が頭に直接伝わる。僕も苦笑いしかできない。
『あかん、これはほんまにあかん……』
ピアーウォッチから聞こえる文香の声も悲壮感に溢れている。きっと日本の文香も勝利を確信したのだろう。もちろん僕もそうだ。だが、悲しくもそうとはならなかった。
グォォォォォォォォ!!!!!!
第二形態と言ったところか。
致死量を食らった森神ーーーーー いや、その姿はもう先程までと訳が違う。
凍りついた腕はちぎれ、代わりに禍々しい、自分の体調の半分はあろうかという爪を持つ腕へと生え変わり、雷に焼かれた腕と胸は不規則に盛り上がり肉がついており、胸の傷の部分については苦悩する顔のようなものが浮き上がっている。さらに肩からは大きな角のようなものが生えている。
辺りは強烈な腐敗臭と焼け焦げた臭いに包まれ、まさにこの世の化け物である。
「『夢喰』め………、ここまで神獣を喰らっていとは」
苦虫を噛み潰したような顔で憎むような鋭く睨む雪豺。
僕も正直もうここまでとは思わなかった。いや、その危険性は分かっていたが成長した僕ならと思い込んで軽く見ていた僕にこればかりは非がある。やはりこいつは手に負えない。過去に戻ってサラにカッコつけた僕をぶっ飛ばしたい。
「ご主人、こりゃダメだ。 稼げて1分持つかどうかだ」
「不本意ですが?ここは私と雷猩で殿軍を努めます」
雷猩、雪豺の二匹は僕と変わり果てた森神との間にたつ。二匹は式神なので死ぬということは無い。あっても精々戦闘不能になり顕現出来なくなったことに対するペナルティとしてダメージ回復に数ヶ月を要するくらいである。なので二匹の判断は妥当ではある。ただ残念ながら今回は上手く行きそうもない。
『やっぱり神獣クラスを乗っ取った『夢喰』の相手なんて無理やったんや!! スバル、今すぐ逃げなっ! ここは雷猩と雪豺の言う通りに!! こいつらなら式神だからしばらく召喚出来なくはなるけど死ぬことはっ!!』
「頼もしいけど相手が逃がしてくれればな」
文香の悲痛な叫びが聞こえるが僕はそちらへ気をそらさず、真っ直ぐ『夢喰』の方を見て再び苦笑いを浮かべる。




