11話
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『スバル! あれ!!』
「分かってる!! こっちにもいるのかよ!」
森神から伝わってくる禍々しい雰囲気は僕にとって出来れば思い出したくない記憶だ。今目の前にいる神獣は過去何度も何度も痛い目を見させられてきた『夢喰』に取り憑かれている。
『朝霧』の家を始め科学発展目覚しい今の日本に陰陽師などという古臭く、胡散臭い組織が存在し続けていられるのはこの『夢喰』の存在が大きい。大昔の日本はそこら辺に妖怪や神様がおり、陰陽師としての仕事も沢山あった。しかし、科学技術が大きく進んだ今の日本にはそういった昔からからの魑魅魍魎は姿を消し代わりに出現したのが『夢喰』だ。こいつらは負の感情をエサに成長、増殖していく。『夢喰』を一言で表すならこいつらは寄生虫だ。宿主に寄生し、その命を奪う。だからといって治療法はあるわけでなく寄生されたら最後、『夢喰』に心を食い荒らされて廃人になるか、陰陽師に退治されて死ぬかだ。
その独特の気配はいやでも思い出す。恐らく『森神様』は相当根深く『夢喰』に侵食されておりもう自我を失っているだろう。
「アンリさんは怪我している人の避難をお願いできますか?」
僕は森神の方を睨みつつ、アンリさんにお願いをする。よく見ると倒れてる人達の中にはまだ息がある人たちもいるみたいだ。
「す、スバルくん! 君まさか1人で!?」
「倒せはしないけど足止めくらいなら。サラ、手伝ってくれる?」
「おまかせを! 何せ、私はスバルのサポート役ですから!」
足止めといって式札もない状態でそれが出来るかは分からない。完全な強がりではある。だが、サラが胸を張って言うもんだから何となく出来そうな気がしてきた。僕としても『夢喰』には苦い思いをたくさんさせられてきた。ここで克服しておくのも、物語の主人公っぽくていいだろう。
僕達を止めようとするアンリさんを無茶はしないという約束を取り付けてなんとか説得した。
『スバル……、悪いことは言わへん、ここは逃げた方がええ!』
「ラノベみたいな冒険してこいったのは文香の方だろ? ならこの場面、サイコーにクライマックスじゃないか」
心配そうに僕らに逃げるように言う文香におどけたように答える。僕もサラも戦闘準備万端、後は森神に立ち向かうだけだ。
『けど!!』
「弾薬切れでボス戦突入とは死亡フラグビンビンだけど、これをへし折ってこそだろ? それに俺もいつまでもこいつに嫌な思いさせられ続けるのも懲り懲りだからな」
そう言って僕は体内の呪力を一気に活性化させる。
陰陽師ではないとはいえ、僕だって『あの頃』よりも強くはなってる。そう何度も易々と負けてたまるか。
「御旗に集いし忠実なる三獣士。顕現せよ、悪鬼を打ち滅ぼさんがため!! 武勇轟く黄色い閃光、稲妻の如き疾さをもって敵を蹴散らせ! 駆けろ、雷猩!!」
一瞬視界が真っ白になったかと思うと耳を劈く雷鳴とともに現れたのは雷を纏った大猿。斉天大聖と書かれた長棒を肩に担ぎ不敵に笑う彼は焔雉とともに僕が扱える数少ない式神の1人である。
「久しぶりだな、ご主人! 忘れられちまったと思ったぜ」
そう言って軽快に笑う雷猩。僕としては彼に頼る時はほんとに最終手段の時だけなので確かに呼び出すのはご無沙汰なのである。理由としては単純で、僕の扱う式神の中で1番面倒なのが雷猩なのだ。
「お前みたいなの忘れるもんか。それより朗報だぞ。今日は手加減するなとは言わない」
「へぇーそれは珍し………、なるほど。いい場面で呼び出してくれたな」
雷猩はその理由を理解し不敵に森神に笑みを向ける。森神も雷猩が現れたことに対して警戒心を高めている。先程まで蹴散らした『探求者』達より危険な存在と認識したのだろう。
グォォォォォォォォォオっっっっっっ!!!!!
自分を鼓舞するかのように大きな方向を挙げ目の前に現れた敵を威嚇する森神に心底楽しそうな表情を浮かべる雷猩。
「おもしれぇ! 『夢喰』に侵された怪物、相手に不足はねぇなぁ。かかってきな化け物、瞬きする間に丸焦げにしてやるよ!!」
雷猩は森神目掛けて突撃する。彼の速さは韋駄天、並の相手では彼の攻撃は見えないし、触れない。そして彼の操る神棒は全てを炭に変える雷そのもの。ゆえに彼の攻撃は必中必殺。敵は自分の最後を知る暇もなく命を散らすのだ。
あたりがまっしろになり、少し遅れて地面が揺れるような轟音。雷猩の神棒は森神を確実に捉えた。
ように見えた。
プスプスと真っ黒に焦げになり白煙を上げるのはおそらく樹木だったもの。
「植物を操る能力か。だが、そんなのいくらやっても無意味だぜ!!」
初撃を防がれた雷猩は神棒を振るい次々に打撃を叩き込む。しかしそれは地面から伸びる大きなつる状の根によって防がれてしまう。ただ、彼はそんなのお構い無し、よくマンガとかで死なない相手を殺すために死ぬまで殺し続けるというのがあるが今の雷猩の戦い方はおそらくそれに近いだろう。
森神との怪獣バトルは雷猩に任せて僕も遊んでる訳では無い。
「侵食されててもこの森の主か。どんどん集まってくる!」
「これキリないですよ!」
「とりあえずアンリさんが負傷者をここから離すまで耐えれればいい! なるべく時間を稼ぐように戦おう!」
森神のピンチを察知した森に住む魔物達が続々とここに集まりかけていた。数は時間を追うごとに増していき手首のピアーウォッチからは文香から矢継ぎ早に魔物の数と来る方向が伝えられる。ここまでのサラの戦い方を見るに彼女はおそらく戦闘向きではない。そもそも彼女は元々保安官であり必要なのは『殺滅』ではなく『制圧』である。つまり彼女は『制圧』する戦い方は得意だが『殺滅』する戦い方はあまり得意ではないのだ。とはいえこの状況で息を切らしながらも致命傷を負わず剣を振るう所は流石といった所だろう。
『あかん! スバル、もう限界や! 2時の方向から魔物が30体接近!! どれもさっきのクマ以上の強さや!!』
「このクソ忙しい時に!! 蜂蜜やるからどっかいってくれませんかね!?」
「スバルさん! クマの好物は蜂蜜じゃなくてメープルシロップですよ!!」
いらない異世界の情報がもたらされた。と言うよりこちらに向かってきてるのがまだキリングベアーと決まったわけではない。
しかし、たとえそうであってもなくても僕もサラも目の前のことで精一杯、このままではアンリさん達が逃げ切る前に共倒れだ。
仕方ない、後々大変だけどそうも言ってらんないか……。
僕は決意し、印を結ぶ。
「御旗に集いし忠実なる三獣士。顕現せよ、悪鬼を打ち滅ぼさんがため!! 時をも閉じ込める氷穴の番人、凍てつく牙刃で主に仇なす敵を氷獄へ落とせ! 喰らえ、雪豺!!」
周りの気温が一気に下がり周りが白い霧に包まれるがそれも一瞬だけ。慄く咆哮と共に霧は立ち消え、現れたのは見とれるほど美しい望月のような白銀の毛並みの大犬。
「悪い、雪豺! 時間稼ぎ手伝ってくれるか!? それとここら辺のやつらある程度片付けたら雷猩の所いってくれ! 相手は『夢喰』だ!」
「仰せのままに、ご主人」
雪豺はそう答えると大きな身体が移動したとは思えぬほど音をさせずその場から消える。
「スバルさん、大丈夫ですか!?」
心配そうな顔でこちらにサラが駆け寄ってくる。
「僕が大丈夫か?という質問であればおそらく明日はガス欠で動けなくなってるだろうが今はまだ大丈夫だ。雪豺が大丈夫か?という質問なら心配はいらないと思う。それよりこっちに向かってくる奴らは雪豺に任せて僕達はここら辺のやつ片付けるぞ」
「はい! 分かりました!!」
雪豺の方の魔物を除けばここら辺の魔物は数がだんだん減ってきたように見える。おそらく片付けるまであと一息だろう。僕はもう一度気合を入れ直し、拳を構えた。




