10話
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@egu05
よろしくお願いします!
「やぁ君たち今の見させてもらったよ。 凄かったね!」
僕らがひとまず襲いかかってきたキリングベアーを倒し安堵している時物陰から急に声をかけられた。驚いて振り向くとそこには茶髪ショートヘア、腰に剣を携えた女性がいた。
「おっと、そんな警戒しないでおくれよ。ほら、同業者だ」
そう言って女性は『探求者』の証明であるルマンド商会がデザインした手帳を見せる。
「君たちも討伐クエストに挑戦してるんだろ?」
「はい、あ、えーっと……」
「アンリだよ。よろしくね」
言葉を詰まらせたサラに対処ニコッと笑って名を名乗ったアンリさん。それに続いて僕達もそれぞれ自己紹介をする。
「サラです! よろしくお願いします!」
「スバルです。よろしく」
アンリさんはポートミルを拠点に活動する『探求者』でその歴は2年くらいらしい。正直、初クエストで不安だらけの所に経験者が同行してくれるというのはとてもありがたかった。いくら戦闘経験はあるとはいえ、やはり陰陽師や保安官の戦い方と『探求者』の戦い方はまた別な所もあるだろう。
「にしてもスバルくんは面白い魔法を使うねー。 『東人』の国じゃ魔法はないみたいな話を聞くんだけどそれってやっぱ噂なだけなの?」
次の魔物を探す最中、会話の話題は僕の『魔法』の話になる。
「うーん、基本はみんな使えないですね。それにこれは魔法じゃないですし」
「私もあれ、気になります! なんか急に動きがニュルニュルってなって最後にはズバって!!」
サラが身振り手振りでとにかくすごかったということを伝えてくる。僕としてもサラやアンリさんに自分の力を隠す必要はないと思うし話すつもりはある。だが、やはり日本のものをこちらの世界の概念で話すのは骨が折れる。
「うーん…、これは『能力式札』って言う道具でこちらの世界で言う魔力をこの紙に流し込むと魔法が発動するみたいな感じかな。基本的には自身の肉体強化ばかりだけど」
「魔力を流すだけで魔法が使えるのか……。それは術式とか呪文なしでってことだよね?」
アンリさんがやや戸惑ったように聞いてきたのに対し僕は頷いて答える。
「そういうのをこの紙に予め描いてあるのでその辺省略できるんですよ」
それを聞いて驚いた表情をするアンリさん。やはり魔法をまるでインスタントラーメンのように後は魔力を注ぐだけというのは日本でもこちらの世界でもない発想だったらしい。実際僕もこれを初めて貰った時は驚いたし、なんなら『朝霧』の家では異端だと言われるくらいだ。
そんな便利な道具に心踊らせたのはサラだ。
「それって魔法が苦手な私でも大魔道士みたいな強力な魔法を使えるってことですよね!?」
「元々持ってる魔力がその魔法を使うのに似合っていれば理論的にはサラでも使えるとは思う」
魔法が苦手な自分でも大魔法が使えると心踊らせたサラであったがそれを聞いてあからさまにテンションが下がる。どうやらその大魔道士の魔法を使うにはサラの魔力では足りないらしい。
「スバルくん、キミそれすごい画期的なことだよ!」
「はい。僕のいた所でも今までにない事だとこれを作った本人が言ってましたし。ただ欠点もあって1度使ったらそれで終わりの使い切りってこととあとは自分では新しい術を作れないってとこですかねー。いまさっき使ったやつなら何とか術式暗記してるんで書き直して使うことは出来るんですけど……」
すごいことは僕も理解している。だが、これを作れるかと聞かれれば答えはNOだ。そもそも術式をインスタントにというのは言葉ではどうとでも言えるが実際やるとなると莫大な知識が必要である。つまりひとつの事象、例えば先程使用した『蝶のように舞い蜂のように刺す』は言ってしまえば回避とカウンターを反射的にやってくれるもので、その行動を術でどう表すのかというまるで数学や物理の公式を自力で探すような途方もない事なのだ。こんなこと出来るのは『朝霧』の家の中でも僕のただ1人の悪友であり、あの変態学者にしかできない芸当だろう。ちなみにそいつのおかげで紙はプリンターでコピーすれば量産できるので日本では困りはしなかったのだが、当然こちらの世界ではプリンターなどというものは無いので自力で書き写すしかない。そもそも術を使うのが苦手な僕が普通に使えるようにして貰えただけ有難いというものである。
そんなこんなで魔物を片付けつつ僕らはどんどんと先へ進む。ちなみに僕はキリングベアー以来式札を使ってはいない。別に出し惜しみしているからではなく単純に残りの式札は戦闘向きでないので使えないのだ。つまりは弾薬切れである。僕だってこんなことになるなら初めからちゃんと準備をしてきた。しかし、そんな暇も与えず誰かさん達からこの世界に放り込まれたわけでこの件について文句を言われる筋合いはない。
「うん! だいぶ倒したおかげで討伐ノルマに近づいて来たよ!」
『探求者』に配られる手帳はクエストなど色々な情報を教えてくれるマジックアイテムだ。アンリさんはこの手帳のクエスト達成度の欄を見て満足気に言う。
「しかしなぜまたこんなことが起きてるんですかね…」
サラは剣に着いた魔物の血を払い首を傾げる。彼女のこんなことと言うのは恐らく魔物が多数出没している事だろう。
「魔物って普通はこんな大量に発生しないのか?」
確かにちょっと歩けばさして強くないものがほとんどだが魔物によく出会う。そしてどれもこれも僕らを認識した途端襲いかかってくる。しかしこの世界に来たばかりの僕にこれが普通かどうかなんて分かるはずもない。そんな僕の疑問に2人は答えてくれる。
「それは場所によるね。でも、以前はここはそんなでない場所だったはずなんだけどなー」
「そうなんです。ポートミル周辺は人が集まるのにあまり魔物が集まってきません。その理由は街の西にある森なんだそうです」
「森?」
「はい。私もポートミルの保安官に聞いた話なんですが、街の西の森には『森神様』という森のヌシがいるそうなんです。その森のヌシの力は圧倒的なのでそれを恐れて魔物はポートミル周辺には近づかないって話ですよ」
『なんや、おとぎ話みたいな話やなー』
「そうですね。でも実際その森のヌシを見た人は何人もいますし森に危害を加えない限り襲いかかってこない温厚な性格らしいですよ」
小学生並の感想をボヤいた文香にふふっと笑ったサラはそうつけ加えた。不本意ではあるが僕も文香と同じようなことを考えた。
「森神様かー。ポートミルを拠点にしている『探求者』の中では知らない人は居ないくらいだけどそれに今回問題があったと?」
「可能性は高いですね」
手を顎にあて考え込むアンリさんにサラが同意する。もしそれが本当なら状況は最悪だろう。僕はその姿もしれぬ森のヌシが平穏無事に暮らしておりその考えが杞憂であることを祈った。
だが、現実そんなに甘くはない。ほんとうに願うことは叶わず、願わないことばかり起こるものだ。
グォォォォオォ…………
「やっぱり……っ!!」
そこには既に死屍累々、倒れた『探求者』達とその先には大きなクマのような身体を持った鼬が目をギラギラとさせながら咆哮をあげる。
「あれが『森神様』……」
サラは初めて出会う『森神様』に威圧される。いや、サラだけではなく僕も同じだ。しかしそんな状況で真っ先に自分の武器を手に取ったのはアンリさんだ。
「いや、普段あんなじゃない! 明らかに様子がおかしい!!」
確かにここからでも伝わる森神の邪悪な圧はアンリさんやサラの言っていた森神の様子とかけ離れている。そして僕は気づいた。
『スバル、あれ………』
「ああ、夢喰だ』




