1話
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青天の霹靂という諺がある。意味としては青く澄み渡った空から急に雷が落ちるという諺らしく要するに全く想定していない予想外なことが起こるという意味である。
そんな僕に今さっき告げられた言葉はこの言葉がぴったりであろう。
汗ばむ外とはうって変わって空調の効いた趣のある図書館。僕は迷わず建物の一番奥へと向かう。そこには大きな古びた扉があった。ギィー…という油が切れたような音が鳴る重い扉を開ける。目の前に広がるのはドア以外の四方を囲う見上げるような書棚。そこには様々な国、時代の本が所狭しと収められている。吹き抜けのこの部屋の天井までの高さは3,4mはあるだろうか。その部屋を埋め尽くす本の全体の数は恐らく一生かかっても読み終わらない量であろう。
そんなまるで物語の魔女が住んでいそうな部屋の主は社長か何かが座るようなバカでかいヒノキの机に本をたくさん積み重ね、椅子にふんぞり返って本を読む女性である。まだ20代くらいにしか見えない女性は誰が見てもこの場に不釣り合いではあるが、これは僕にとっていつもの光景。
「なぁスバル。自分、世界救ってみたくはないか?」
「いや、別に」
まるでRPGのような、まるでなにかの映画の冒頭のような寝言である。僕はその提案に無関心でそう答える。シーンと静まり返った館内、そもそも普段からこの図書館には来館者がさほどいない。いたとしても隣の神社を参拝したおじいちゃんおばあちゃんが休憩がてら立ち寄るくらいだ。
「ノリ悪っ! これだから現代の子はー」
全くとしてその提案に関心を示さなかった僕に対して怪しげな関西訛りの黒長髪、メガネをかけた女性は座っていた椅子からズッコケて僕に非難の言葉を浴びせる。だが、僕はこれにも反応しない。僕は黙々と日課となった散らかった彼女の周りの片付けの作業に入る。
「そんな暇があるならちょっとは自分で片付けろよ」
「いやいや、これもスキンシップやん。うちなりの小粋なおもてなしやん」
そう言いながら目の前でお・も・て・な・し、と女性は手を動かす。流石にネタが古すぎるよ………。
彼女の名前は轟文香、この図書館の司書であり館長をしている。といってもこの図書館で働いているのは彼女1人だけだ。見た目は20代後半から30代前半といったところか。黙っていれば大和撫子という言葉が似合うクールビューティである。
「いやな? ちょっと聞いて」
「なにをだよ。世界は救わないよ?」
僕はすがりつく文香を放ったらかしにして自分の作業を進める。すると彼女は長い髪を振り乱し癇癪を起こす。
「なんでや! 男なら世界の一つや二つ救ってみたいとは思わんのか!!」
「思わないね。受験勉強で忙しい」
僕は振り向くこともせずそう答える。一応今日が高校の終業式であった。なのでこれから夏休みに入り時間があると言いたいところだが僕は高校三年生、受験生だ。つまり僕にとって今年の夏休みはあってないようなものなのだ。まぁ仮に時間があったとしてもそんな面倒なことをするのは御免こうむるが………
「夢ないわー、ほんと。だからモテへんちゃうの?」
「僕がモテないのは関係ないでしょ! あ、まさかこれが原因か………」
文香の心無い言葉に胸を痛めつつ、彼女がなぜ突然こんなことを言い出したのかという答えを見つける。やたらカラフルな表紙に犬のような耳の生えた女の子と耳のとがった女の子に囲まれた男の子の絵、長々としたタイトル、ひと目でわかるいわゆるライトノベルというやつだ。
「まさか世界を救うとかこれ見て言い出したのか?」
「せや! 『落ちこぼれの俺が異世界行ったら人生逆転した件』っていうアニメ化もされた人気作品なんやで」
「全く…作り話と現実の区別もつかなくなったのか?」
僕は作業の手を止めはぁとため息をつく。こうなってしまったら文香は僕の作業を妨害してでも話をしようとしてくる。そんなことで余計な仕事を増やされたくはない。
「何をいまさら。うちもスバルも存在自体が作り話みたいなもんやん」
「それは………そうだけど」
カラカラと笑う文香の言葉に僕は反論出来なかった。普通に喋っているので時々忘れそうになるが彼女は人間ではない。齢200歳を超える彼女は『文車妖妃』という妖怪である。
文車妖妃とは諸説あるが一般的に書物に様々な情念が宿り生まれたとされる。なので出自としては妖怪と言うよりもどちらかと言うと付喪神に近い存在である。そんな彼女と僕の出会いは話せば長くなるのでくわしいことはまた別の機会とさせてもらうが簡単に言うと彼女から見たら僕は命の恩人となる間柄なのである。
命の恩人とは言ったものの僕はそれを餌になにか要求する気もないし元が妖怪だからなのか文香もそれを意識して萎縮することはなく普通に接してくる。彼女らの感覚では昔は昔、今は今とドライな思考が普通なのだろう。
「うちも考えたわけよ。私も一応神様(仮)やっとるわけやん? だから神様らしいことやらなと常々思うわけよ。そこで思いついたのが異世界にヒーローを送り込んでその世界を救うことや!」
そんな文香が僕にした謎の提案。もちろん僕はそれに興味を示すこともまして受ける気もさらさらない。
「馬鹿なの? ねぇ、馬鹿なの!?」
「まぁまぁきぃてぇな。こういう異世界転生ものの冒頭って大体女神様やらなんやらが冴えないニートやら社畜やらを導いてものすごーい強い能力持たせて異世界に送り込むわけや。そんで悪いヤツばっさばっさやっつけて向こうの美少女達にモッテモテになるって言うのが大体の流れや。そこで思いついたわけよ! うちがスバル送り込んだらうちが神様、スバルがモテモテの主人公なれるんちゃうかーって! そしたら私も世界を救った勇者を導いた存在として晴れて神様仲間入り、モテないスバルもモテモテで灰色の高校生活も一気にバラ色! 完璧な作戦やろ!?」
「どこがだよ! 皮算用にも程がありすぎるだろ!!」
「えー、完璧な作戦やと思うんやけどなー」
文香のいう完璧な作戦とやらを否定すると彼女は不貞腐れる。理論ばかりの男性はモテないとは言うもののそもそも相手は人間ではないので関係ないし何ならここで強く否定しておかないと調子に乗ってやらかすのがお決まりだ。そして僕がその事態の収拾に奔走するまでセットである。
「現実見ろよ。まず、どうやって魔王だったり何だったりが現在進行形で侵略してる異世界に運良く飛ぶんだよ。あとそれといくら強い能力付けたからって人間そう易々と活躍できるってわけじゃないからな?あーいうのはそれこそ血のにじむような反復練習と数え切れないほどの実戦経験から身につくもんであって素人が武器振るって勝てるんなら世の中軍隊なくなるからな? そもそもただの妖怪で、今は神様(仮)の文香にチート能力与えるほどの力ないだろ?」
「だから、スバルが適任なんや。自分では冴えない男子高校生とか言っとるけどおもっくそ主人公向きやん、自分」
「どこが?」
「公立高校に通う見た目も成績も至って普通の高校生である板橋昴。しかし、彼には同級生にも話せないもう一つの顔があった!」
そこでドヤ顔で啖呵を切る文香。止まることを知らない彼女はさらに続ける。
「その正体はあの名門『朝霧』の陰陽師! 幼少期より厳しい修行に耐え幾多の死線をくぐり抜けてきた彼のその能力は歴代最強と謳われていた! なぁ? 考えてみれば自分、なかなかのスペック持ちやん。 もうスバルしかおらんやろ」
「まずところどころ訂正するとこがある。まず元関係者であって僕自身『朝霧』の人間でないし、確かに陰陽師の力は使えるけど歴代最強なんて程遠い平凡なものだし」
紹介が遅れた。僕の名前は板橋昴。某県にある公立高校に通う普通の高校生として暮らしている。普通の高校生とは言っても『現在』はという注意書きが必要かもしれない。確かに僕は文香の言う通り陰陽術が使える『元』陰陽師だ。いや、陰陽師とは言っても正式になった訳でないので陰陽師もどきというのが正しいのかもしれない。なんで僕がこんな力を持ったのかという話をしよう。とはいえそんな難しい話ではない僕の母方が『朝霧』という超一流の陰陽師の家系だからだ。僕の母親はゆくゆくは家を継ぐ『朝霧』の家でも相当な実力者だったらしい。ただ母は規則まみれの『朝霧』の家に嫌気がさし飛び出した勢いそのままに僕の父と駆け落ち、それに激怒した当主である祖母に勘当されたのだ。そんなわけで『朝霧』の家との関係も切れたかに見えた僕の家だったが母の兄、つまり僕の叔父が母の才能を放って置くのはもったいないと母の息子である僕を預かり一人前の陰陽師と育てる英才教育を始めたのだった。陰陽師としての才能は母には及ばずとも似た才能を感じると叔父には太鼓判を押されたものだ。ただ、母に似たのは陰陽師の才能だけでなかった。修行に嫌気がさした僕はその持てる才能を使い密かに逃走、家に帰ってきた時母は「確かにあんたは私似だわ」と大爆笑していた。もちろん僕はその件で『朝霧』の家を破門になっている。なので陰陽師としての才能はあるが力がないというのが今の僕だ。
「平凡は嘘やわー。そんなんだったら『朝霧』の精鋭5人を相手を退けさせるなんてことできないもん」
「あれはいろいろ偶然が重なっただけだろ!? それにあんな死ぬ思いするのはゴメンだね」
僕のことを過大評価する文香を適当にあしらって僕は中断していた作業を再開する。散らかっていた部屋も幾分片付いてきところこの部屋の重い扉が勢いよく開かれる。
「ねぇねぇ、スバルくん! 異世界とか興味ない!?」
飛び込んできた小学生くらいの少女のその言葉に僕は頭痛を覚えた。
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