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水の勇者ウィンディーネ

「ノーム、凄く綺麗だね。連れてきてくれてありがとう」


 シュトラール城の中庭は色とりどりの花園になっていた。

 まるで天国。通るためだけの細い道を残して、全てが花に支配された空間。

 一風吹けば、花びらがライスシャワーのように舞う。

 

「ノーム、この花、ハートの形をしてるよ。なんていう花?」

「あぁ、なんだったかな。確か……」


 二人で身を寄せ合い、雑談をしていると、ふと目が合った。私は鼓動を一鳴らしする。

 最近色々なことがありすぎて、こうした穏やかな時間にあまり慣れていない。

 故に、ちょっと意識してしまうというか。いや、私の意識しすぎなんだろうけど!

 ああ駄目! 静まれ私の煩悩!! 静まりたまえー!!

 そういえば六年前に一回キスしたっきりだよなぁなんて思ってない思ってない!


「エレナ? どうした?」


 ノームの純粋な瞳に思わず仰け反ってしまう。

 急に恥ずかしくなって、顔を逸らした。


「な、なななんでもない!」

「……そうか」


 駄目だ私、ノームの事になるとどうにもおかしくなっちゃう。

 熱い頬を手で冷やしてみると、ノームがやけに私の顔を覗き込んでくる。

 覗き、こ、ん、で……?


「エレナ、」


 囁くような薄い声に、私は飛び跳ねた。

 いや、この雰囲気って、もしや……その、そういうことですか!?

 ま、まぁ私も十六歳だし? ノームも十八歳だし! お、おおおおおおおかしいことはない、よね?

 ……このまま素直に、目を閉じていいのだろうか。


「──は、随分溺愛してるじゃないか、兄上」

「うひゃっ!?」

「! ……サラマンダー、貴様……」


 私は変な声を上げ、ノームの顔を押しのけた。

 ノームは押しのけられた視線の先にいたサラマンダー王子に怒ったゴブリンさんのような顔をする。

 

「おやおや、お邪魔したかな」

「あぁ、邪魔だ。用件はなんだ。まさか余とエレナをからかいに来ただけではあるまい」

「そう言うなよ。俺も、未来の姉上と話がしたいなと思っただけさ。なんてな」

「もう一度言うぞ、何の用だ。それ以上エレナに近寄るな」


 サラマンダー王子の言い方には明らかに悪意があった。ノームも嫌悪を隠さない。

 あぁ、この二人の仲もどうにかならないものかな……。

 ……でも。


 ──『お前は俺がお前と出会ったのも、運命だと思うか?』。


 私は未だにあのサラマンダー王子の言葉が忘れられないでいる。

 あの時彼は、少しだけ泣きそうな顔をしていて──。

 最初は心底嫌なヤツだとは思っていたけれど、彼にはまた違う側面があるのかもしれない。


 ……いつか、彼がそれを晒してくれる日が来るのだろうか。


「私も、サラマンダー王子とお話したいと思ってますよ」

「!」


 分かりやすく動揺するサラマンダー王子に思わず笑みを浮かべた。 


「……ふ、ふん! 気味の悪い奴! 兄上、水の勇者が来訪した。玉座の間へ来い」

「! それを早く言え」

「水の勇者って……」


 確か、女人国の女王の……ウィンディーネ様だっけ? 一体どんな人なのだろう。

 ノームと玉座の間に向かうと、漆黒の髪に一筋の青を垂らす女性がいた。

 細く、しかしはっきりとした吊り上げられた両眉。魂まで射抜かれてしまいそうになる目。薔薇のように真っ赤な口紅が酷く似合っている。

 簡単には話しかけられないけれど、惹かれてしまう。

 あぁ、この人が……。

 数秒程見とれてしまって、我に返る。


「ウィンディーネ女王。ご挨拶が遅れてしまってしまい、申し訳ございません」

「あぁ、ノームか。久しいな。そうだな、この頭の固いつまらん王よりお前の方が話しやすい」


 うわ、結構きつい言い方! ヘリオス王も口元をピクピクさせている。

 すると私はウィンディーネ女王と視線が重なった。

 そこでやっぱり見とれてしまうと、彼女がこちらに大股で近づいてきて、間近で私を観察する。

 え、なに!? なに!?


「ノーム、このちんちくりんは?」

「ち、ちんちくりん……」

「余の婚約者です。ウィンディーネ女王はアレックス・アードウェイの冒険記はご存じですか?」

「あぁ、あの本か。いい暇つぶしになった。ヘリオスへの皮肉がクソみたいに詰まっているところが特に気に入っている」

「その〝魔王の娘〟が彼女です。エレナ、ご挨拶を」

「は、はい。え、エレナと申しますウィンディーネ女王。初めまして」

「…………」


 うぅ、ちょっと怖い。

 私みたいな女はノームに釣り合わないとか言われたらどうしよう!

 その通り過ぎて、へこんでしまう。


「…………、」

「あ、の……」

「ふむ」

「っ!」

「お主、()()()()()()()()()()()。しかしそれに決して呑まれない……というか、身体共に全く影響を受けておらん。あり得ない程純粋な心を持っている善人か。はは、なかなか面白い女子を捕まえたなノーム。お前、見る目があるぞ」


 い、今のって、褒められた……のかな。

 しかしほっと息をついた次の瞬間──視界が反転する!


 ──私は、ウィンディーネ女王にお姫様だっこされていたのだ!


「え、えぇぇぇ!?」

「ノーム、この女子借りていくぞ!」

「女王!? 何を!?」

「なぁに、悪いようにはせん! ちょっと可愛がってやるだけだ!」


 どういうこと!?

 私、どうなっちゃうの──!!?

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