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ドラゴンに会いに行こう


「…………」

「…………」

「…………」


 気まずい。

 私は馬車に揺られ、ひたすら沈黙に身を任せていた。

 私の左隣にはヘリオス王の側近の一人であるフォルトゥナさん。

 私の向かいにはサラマンダー王子がいた。

 今のこの状況を説明するには──二時間ほど前に遡る。


『──魔王の娘よ。お前には我が領土内にあるペランス村に向かってもらう』

『ペランス村、ですか』


 王様にどんな無理難題を押しつけられるかと思いきや、第一声がそれだったので拍子抜けた。

 しかし話を聞いていくと、そのペランス村の付近にある洞窟にどうやらドラゴンが住み着いているらしく、これを退治せよという命令だった。

 ヘリオス王曰く、本当に魔法生物や幻獣の活発化が魔王のせいではないのならそれを退けることで証明せよ、なんだと。

 フォルトゥナさんは私の監視役。サラマンダー王子がついてくる理由は……よく分からない。

 ペランス村はシュトラール王国から馬車で片道一日半はかかるという。

 それまでこの二人と一緒かぁ。

 私は気まずさで窒息死するかと思った。




***




 辺りが暗くなると馬車が止まり、今晩はここで休むことになった。

 私は勿論馬車の外に放り出され、フォルトゥナさんの監視の下、夕ご飯を食べる。

 ご飯を分けてもらえるのは本当にありがたいけれど……食事中に見られるのはあんまりいい気分はしないな。

 するとフォルトゥナさんが片手で持てる程度の重さの布の袋をくれた。

 その中には果実やクッキーが詰められている。


「それは今回の旅の貴女の分の食料です。大事に食べなさい」

「あ、ありがとう、ございます……」


 フォルトゥナさんの視線に押されて、クッキーを三枚程食べて袋を閉じる。

 この食料は受け取った後は自分で管理しなければならないらしく、私は鞄に大事に仕舞った。

 ……皆でお腹いっぱいご飯を食べていたテネブリスがもう懐かしい。


「失礼ですが、私は貴女をどう呼ぶべきでしょうか」

「!」


 フォルトゥナさんから初めて雑談をするきっかけを振ってくれた。

 私は一瞬戸惑ったけれど、嬉しくなって相好を崩す。


「え、エレナと……エレナと、お呼びください!」

「……では、エレナ。もしよければ、貴女のお話をお聞かせ願いたい」

「私の話、ですか?」

「えぇ。貴女が本当に危険ではないのか、私はこの旅で見定めねばなりません。それに私個人的に、興味があるのです。貴女にとって、テネブリスとはなんなのか」


 フォルトゥナさんの瞳が少しも揺らぐことなく私を見ていた。

 ……これは、願ってもみない好機だ。

 パパやテネブリスのことなら、私はいくらだって語ることができる!

 私はフォルトゥナさんに全てを話した。

 パパが死にかけの私を拾ってくれたこと。

 それから十年間、愛情を受けて育ってきたこと。

 パパや魔王城の皆との愛ある日々。

 あと、ノームがテネブリスに乗り込んできたことまでも話した。フォルトゥナさんがどうしてもノームとの出会いを聞きたがったから。

 フォルトゥナさんも周りの護衛の兵士さん達も次第に私の話に前のめりになっていき──。


「──それで、おかしいなぁと思ったら、パパはノームにヤキモチを妬いていたみたいなんです! 私が毎日ノームと遊んでいるからって……ふふ」

「ま、魔王がヤキモチだと?」

「しんじられねぇなぁ」

「見た目が怖いだけで、パパは凄く可愛いんですよ。パパが風邪を引いたときのくしゃみの可愛さといったら!! あぁ、あと私の手料理を食べてくれる時の仕草もちょっと面白くて、」

「……エレナは、本当に魔王を愛しているのですね」


 フォルトゥナさんの表情に笑みが咲き、私はさらに嬉しくなった。


「勿論です! 私はあの人ほど尊い人はいないと思っています」

「! ふふ、尊い、ですか」


 すると突然フォルトゥナさんが大笑い。

 私は何か変なことを言ってしまったのだろうかと首を捻った。


「本の通り、貴女は本当に〝魔族の姫〟なのですね、エレナ。明日のドラゴン退治は期待できそうです」

「……ドラゴンは退治するものでもないと思います。私は」

「おや、これは失礼。しかし私はその考えは理解出来ません。明日、それをご自分で証明してくれることを楽しみにしていますよ」


 フォルトゥナさんの言葉に私は頷いた。

 彼は私を試している。そんな気がしたのだ。

 馬車を見ると既に灯りは消えており、サラマンダー王子は就寝しているみたい。

 彼の目的はイマイチ分からないけれど……とりあえず明日、例のドラゴンさんと話してみよう。

 レイの時みたいに上手くいくといいけれど……。

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