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嫌なヤツ


「エレナ、余がお前にこの国に来て欲しくなかったのは、お前に会いたくなかったからではない」

「うん」

「その……お前、必ず何かやらかすだろう。今日だって余の言うこと聞かずにここへ来たしな。それに今、父上は進軍の準備が上手くいかず特に苛立っているというか……」


 ノームの声をため息交じりの声を聞きながら、手渡された服に着替えていた。

 なんでもシュトラール城の召使いさん達の衣装だとか。

 勿論、ノームは私に背を向けている。


「ノーム、見て! 似合う?」


 ノームが顔だけこちらに向ける。そして分かりやすく唾を飲み込んだ。

 シュトラール王国の衣装は少し露出度が高いから困ってしまうな。

 動きやすいけれど……おへそ丸見えだし……なんだか恥ずかしい!


「ねぇ、どうなの?」

「……。あぁ、似合っている。なんだか……エレナに我が国の服を着てもらうのは……少し、効くな」

「え? なんて?」

「な、なんでもない! とにかくだ! お前は侍女に扮して余に侍っていろ。余の目の届かない所には行かないこと! いいな!?」

「はーい!」


 本当に分かっているのかと言いたげな目を向けてくるノーム。

 うぅ、信用されてない……。


「あとはエレナの住む部屋だが……どう手配したものか」

「ほんとごめんね。迷惑、掛けたくはなかったんだけど……」


 私は正座をして、俯く。

 何から何までノームの迷惑になっているような気がして、自己嫌悪が襲ってきたのだ。

 するとノームが私の髪に指を絡ませた。


「元はといえば父上の進軍をなかなか止められずお前を不安にさせた余が悪いのだ。気にするな。お前に掛けられる迷惑なら大歓迎だ」

「……ノーム、」


 ノームの優しさに心が満たされていると──イゾウさんがノックをして部屋に入ってきた。


「ノーム様、失礼します。……ヘリオス王がお待ちです」

「! また八つ当たりか」


 ノームが嫌そうに顔を歪め、やれやれと腰を上げる。


「エレナ、少し待っていてくれ」

「え? あ、うん」


 ドアが閉められ、部屋が静かになる。私は未だドアから目を離さないまま。

 ……今、ノーム八つ当たりって言ったよね? ノーム、何かされているの?

 ヘリオス王はノームのお父さん──つまり今回私が一番闘わないといけない人。 

 昔からヘリオス王はノームへの当たりが強いようだし……ま、まさか暴力とか振るわれてないよね?

 そう考え出すとどんどん気になってしまう。

 私は我慢出来なくなり、ノームの部屋を出た。

 ちなみに部屋を出る際、私はちょっと厚いフェイスベールで顔を隠している。何故ならノームの弟のサラマンダー王子に私の顔を見られているからだ(しかも頬を打って怒らせてしまったしね)。

 えっと、ヘリオス王に呼び出されたのなら、ノームは玉座の間にいるはず。この城、玉座の間ってどこだろう。

 あちらに行ったりこちらに行ったり、足をふらふら酷使しながらノームを探していると後ろから声を掛けられる。

 ちょっと威圧的なこの声には、聞き覚えがあった。

 振り向けば──案の定、深紅の髪に琥珀色の瞳……あぁ、最悪。


 ──ノームの弟のサラマンダー王子だ。


「何をウロウロしている。目障りだ」

「も、申し訳ございません。つい最近こちらの城にお仕えさせていただき始めたばかりでして……」

「何? その服の色……兄上の召使いか」

「えぇ、はい」

「何故顔を隠す。不敬だぞ」

「それに関しても申し訳ございません! しかし私は幼き頃から顔半分が火傷で覆われており、とても王子様にお見せするものでは……」

「……ふん、そうか。ならばよい。そのまま醜いものには蓋をしていろ」


 ノームに教えられたままの言い訳を吐き出すと、サラマンダー王子は下がった。

 それにしてもこの偉そうな態度、やっぱり嫌なヤツ!

 まぁ、実際偉いんだけど。

 

「兄上はどこにおるのだ」

「ヘリオス王に呼び出されて玉座の間にいるとか。私、その玉座の間を探しておりまして」

「玉座の間。……あぁ、そうか」


 サラマンダー王子が私の腕を掴み、口角を上げる。

 その様は流石ノームの弟というべきか、不覚にも美しいと心の中で感嘆してしまった。


「来い女! 面白いものを見せてやる!」

「お、面白いもの、ですか?」

「あぁ、父上からの八つ当たりに耐える兄上の姿は実に滑稽だぞ!」

「…………っ」


 ──やっぱりこの王子、もう一発殴りたい。

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