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再会

 ──シュトラール王国周辺の森にて。


 都合のいいところにあった森に降り立つ。王国の門が遠目に見える。歩いて一時間程だろうか。

 私は最後にと甘えてくるレイの頭を抱きしめた。

 仲良くなってからずっと一緒にいた相棒。

 王様を説得するまではテネブリスに帰るつもりはないので、レイとはここで一旦別れることにした。

 

「レイ」

「ぎゅう……」

「うん。行ってくる。必ず、また貴方の背中に乗せてもらうから!」


 私は初めて自分の足でシュトラール王国を目指す。

 レイは私の姿が見えなくなるその時まで、私を見守ってくれていた。




***




 やっと王国の門の前に辿り着いた。

 そういえば、バンシーさんは手紙を渡してくれただろうか。

 城を出る直前にお願いしたから、そろそろ届いた頃だと思うのだけど。

 シュトラール王国を囲む門は巨人が潜れるのではないかと思うほど巨大だった。

 眩しい程に真っ白な壁からはシュトラール城の主塔が覗いている。

 門には三人の衛視さんが並んでおり、入国している人はそちらに一旦並んでいるようだ。

 衛視さんの足元には大型犬が行儀よく座っていた。

 事情聴取とか受けるのかな。

 ()()のももどかしいし……とりあえず並んでみよう。


 ──あぁ、ついに……会えるんだ。


 私は期待で胸が躍る。

 一人で盛り上がって、周りの視線に気づき、我に返る。

 深呼吸をして拳を握りしめた。


「……パパ、約束、守るからね」


 そしてついに私は──シュトラール王国へ足を踏み入れ──。


「おい、嬢ちゃん。身分証明書は?」


 ──踏み入れる事が出来なかった!

 え!? 身分証明書!? そんなのあるの!?


「え、えっと」


 しまった。

 どうしよう……多分前世でいうパスポートみたいなものだよね?

テネブリスそんなのないからなぁ……盲点だった。

 よくよく考えてみれば当たり前のことか。

 とりあえず私は首を横に振った。


「なんだ、身分証明書を発行する金もなかったのか」

「はぁ、まぁ……」

「へぇ。若いのに苦労してんだな」


 すると衛視さんの足元にいた犬が甘えるような声で鳴き、私の手を舐めた。

 頭を撫でてあげると、無防備にお腹を見せる。

 わ、可愛い!

 種類はなんだろう。ラブラドールとシーズーが上手く混合されたような見た目だけれど……。

 衛視さんがそれを見て感嘆の声をあげた。


「こりゃ驚いた! クー・シーがこんな風になるとは!」

「クー・シーって……妖精の番犬って言われてる幻獣だっけ?」

「あぁ。大体の国は入国審査にクー・シーを取り入れている。妖精をどうにかせんとする悪い奴らから妖精を守るために神から遣わされたとか伝説があるほど優秀な悪人発見犬だ。こいつに吠えられたやつは大体そういうやつさ」

「へぇ、悪人に吠える番犬……確かにそれだったら安心かも」

「まぁ、一安心ってわけでもねぇけどな。魔道具で誤魔化される時もある。とはいっても相当の技術がないと無理だし、大抵のやばいヤツは弾ける。それにしてもお前さん、クー・シーにここまで懐かれるとは相当善人なんだなぁ……」


 衛視さんはしばらく考える。


「どうしてシュトラールにきた? お前さん出身は? こっちで戸籍を調べてやるよ。そしたら入国許可証出してやるぞ。戸籍がしっかり管理されてなさそうな国だったら、悪いが入国許可できないがね」

「えっと、理由はその、た、大切な人がここにいるから、というか……」


 入国理由は「シュトラールの進軍を止めるためです」なんて馬鹿正直に言えるはずがない。

 それに出身地がテネブリスって馬鹿正直に言ったら捕まってしまうだろう。嘘の出身地を言ってもすぐにバレそうだ。

 ……やっぱり大人しく待っておくべきだったかな、()を。

 私がとりあえず衛視さんにお礼を言って一旦踵を返してしまおうと思った時だった。


「──おい!」


 衛視さんの肩を誰かが掴んだ。

 突然私の視界に飛び込んできた焦げ茶色の髪と藍色の宝石のような瞳に見蕩れてしまう。

 男の人が上唇と下唇を限りなく引き離したまま、垂直に飛び跳ねた。


「──の、の、のののののののノーム様ぁっっ!!?」


 ──私は六年ぶりの再会に、何も反応できなかった。


「こいつは余の大切な人だ! すまないな、ここは通してくれ。引き続き、ここの監視を任せるぞ、衛視」

「へ、へいぃぃ!!」


 衛視さんの声に周りもノームに気づき、ざわざわと騒ぎ始める。

 ノームはそれらに爽やかな笑みを浮かべ、手を振ると、私の腰に腕を回した。


「──行くぞ、エレナ」

「え、あ、う……うん」


 腕の筋肉とか、喉仏とか、ノームの何気ない所にすらドキドキしてしまう。

 するとノームが突然顔を顰め、私の頭上に軽く拳を落とす。

 痛くなかったけど、反射的に声が出た。


「いてっ」

「エレナ! お前……来る直前で手紙を渡すか普通!? 昼餉(ひるげ)を噴き出してしまったではないか! 案の定余を待てずに衛視に捕まってるしな!」

「だ、だって……早く入りたくて……あと直前じゃないとノーム、絶対許してくれないじゃん」


 六年ぶりのノームはとても背が高くなっていた。百八十五センチはあるんじゃなかろうか。 

 声もさらに低くなっている。

 顔に至っては直視出来ない美しさだ。瞳の色といい、ペルセネ王妃の面影がどこか残っていた。


「そ、そういえば髪、伸ばしてるんだね」

「! ……まぁ、前にお前に褒められたからな」


 ノームはゆっくり私の背中にその逞しい腕を伸ばす。

 顔が近い。

 私は変な声を出して、舌を噛みそうになった。


「……会いたかった。今でも、余の心はエレナのものだぞ」

「! な、ななな何言ってるの馬鹿!」

「──こほん」


 意味ありげな咳払いに私は変な声を出す。見れば、イゾウさんが少々気まずそうに私達の目の前に立っていた。

 き、気付かなかった……。


「お取込み中のところお邪魔して、大変、たいへーん申し訳ないのですが……人目がありますので城に戻ってからでよろしいでしょうか?」


 私は慌ててノームから離れる。ノームは少し残念そうに唇を尖らせていた。



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