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ルーメン、成人する


 …………。

 ──やけに、身体が暖かい。


 私は、違和感から沈んでいた意識を掬い上げる。

 少し息苦しかった。

 目を開けると──なんと視界が、()()()に染まっているではないか。


「え?」

「…………んぅ、」


 慌てて起き上がる。

 すると、“赤”が動いた。


「エレナ? ……どうしたの?」


 聞いたこともない低音に鼓膜がくすぐられる。

 私は思わず──叫び声を上げた。

 数秒後、アムとパパが私の部屋に凄い形相でやってくる。そして私同様、二人とも固まった。

 

 ──なぜならば。


「え、エレナ? 僕、どこかおかしいの? え? え?」

「あ、あわわわわわわ」


 ──私の目の前には、ほぼ全裸の、とっても美形な()()()がいたからだ!!


 私は両手の指の隙間からその美人さんを覗く。

 う、やっぱり、カッコいい……。

 その男の人の身体は私の身体をすっぽり覆う事の出来るほど大きく、逞しかった。

 肌はまるで血のように赤く──頭にも、立派な角が一本、聳えており、まるで──。


 ……ん? いや、まさか!?


「──ルーメンが成体したか」

「え!? もう!? まだ半年も経ってないのに!? しかも一晩で声変わり!?」

「エレナ、随分小さくなったね。可愛い」

「いやいやいやいや、ルーメンが大きくなったんだよ!?」


 美形、いや、ルーメンが私の身体を抱き上げ、クスクス笑う。

 え、あ、い、いや、その……昨夜まで可愛い弟だったのに、なんで一日でここまで大きくなってしまったの!?

 一晩経ったら、私が抱っこされる側になるなんて……うそぉ──……。


 


***




 ──結局、その夜はルーメンの成人式として、魔王城はお祭り騒ぎだ。

 城の皆がこんなに騒いでいるのはクリスマス以来だろうか。

 アムはまたお酒に呑まれているし……。

 リリスさんは……やっぱりいない。アスもいない。

 パパはアドっさん、マモンさんと三人で何やらしんみり語り合っていた。

 ルーメンというとこのパーティの主役ということもあり、ラミア族のお姉さま方に囲まれている。

 もっさりと身体を覆っていた髪の毛も整えられ、身につけているのは赤が映える白いテイルコート(ドワーフさん達が急遽ルーメン用に既存のものを仕立て直したのだとか)。

 あぁ、可愛い弟が随分立派な王子様に変身してしまったよ……。

 そんなルーメンに魔族の女の人達は勿論夢中だった。

 その中にはヴィネさんもいた。

 ヴィネさんがルーメンを認めてくれていることは、嬉しいことなんだけどね。

 でも、ルーメンがどこか遠い存在になった気分だ。


 私はなんとなく外の空気を吸いたくて中庭に出ると、大広間から頂戴してきたお肉をレイに分けてあげた。

 レイが嬉しそうにきゅうきゅう鳴きながらそれにしゃぶりついているのをぼんやり眺める。

 そういえば、レイも出会った当初から一回りは大きくなっている(しかもまだ成長中)。


「……なんだかちょっと寂しいなぁ」

「ぎゃう?」


 レイが心配そうに私の顔を覗きこむ。

 私はそんなレイの頭を抱きしめた。


「エレナ、」


 未だに聞き慣れない、魂を口説いてくるような声に私は身体を震わせる。

 ルーメンだ。

 顔を上げると、ルーメンが私を見つけて分かりやすく笑顔を咲かせる。


「ルーメン、主役の貴方がここにきちゃ駄目じゃない」

「いい。皆それぞれ楽しそうだ。僕はエレナの隣が一番落ち着く」

「ルーメン……」


 そうだ、やっぱりルーメンは私の弟なんだ。

 遠い存在になんかなってない。私の馬鹿。

 

 ──と、そこで私はある重要なことに気づいた。


「……ルーメン、私のこと、お姉ちゃんって呼んでみて?」

「え?」


 そう、私は一度もルーメンにお姉ちゃんと呼ばれたことがない。

 前から気になっていたのだが、それを言うタイミングもなく。

 私がこうしてルーメンの姉として不安を感じる要素の一つでもあった。

 ルーメンは眉間に皺を寄せる。


「嫌だ」

「!?」


 私は頭上に雷が落ちたような衝撃(ショック)に身体が痺れ、動けなくなった。

 

「……僕は、ずっと大きくなりたいって思ってた。エレナに、子供として……、弟として、見られるのが嫌だった」

「ルーメン、そんなに私のことき、きき嫌いだったの……?」

「えぇ!? ち、違う! 僕は、僕は……エレナが好きだ、大好きだ。でも、違うんだよ。弟じゃない。僕は、その、こうして大きくなって、エレナに、男として、見てもらいたかったというか……ちょっと大きくなりすぎたかもしれないけど、でも、エレナも大きくなるわけだし……」


 ルーメンは自分の言葉を上手く紡げないようで、目を泳がせている。

 しかししばらくすれば諦めた様にため息を溢し、自分の両手を見つめた。


「……最近怖いんだ。エレナを見ていると、僕の中から声がして……」

「え? 声?」

「っ、ううん。なんでもない。……とにかく、僕はちゃんとエレナが好きだよ。ほら、パーティもそろそろお開きみたいだし……部屋に戻ろう、エレナ」

「うん?」


 ルーメン、なんか誤魔化した? まぁ、ルーメンが言いたくないならいいけど……。

 私、いつかルーメンにお姉ちゃんって呼んでもらえるように頑張るよ。

 そうルーメンに言ったら、彼は困ったように笑った。

 また言葉を間違えたのだろうか。お、弟って難しいな……。


「僕は……成長しても、あくまで、君の弟なんだね」


(──あぁ、恐い)

(──怖いよ、()が聞こえてくるよ)



 ──今思うと、どうしてこの時、もっとルーメンの話を聞いてあげなかったんだろう。

 ──もしも、私が、この時のルーメンをちゃんと理解してあげていたら……()()()()()には、ならなかったかもしれないのに。

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