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バンシーが泣いたとき


「──で、あるからして──大海洋マニュス・オセアンには人魚の国“アトランシータ”が出来たのです。アトランシータ王ガルシアは精神が貧弱な者を嫌い、マニュス・オセアンにある“海の目”という大きな渦に飛び込んだ勇敢な者だけ入国を許すと噂されています」

「へぇ、人魚の王様なんているのね。一回会ってみたいわ。ガルシア王は私を気に入ってくださるかしら」

「そうですね。エレナ様のお転婆ぶりにはガルシア王も呆れ果てるかと」

「な、なによそれ……!」


 アムはそこで教科書を閉じた。


「今日の授業はここまでですね。明日は竜語の勉強ですので、ちゃんと復習しておくように」

「はぁい」


 アムが部屋を去った後、私は何気なくベッドで寝転ぶ。ベッドの脇にはノームからもらったチョコの入ったガラスの容器が置かれていた。

 ……最近、ノームに会っていない。

 何かあったのかな、ノーム。

 そう考えているうちに、どんどん眠くなってきちゃって──眠気に身を任せた。


 それから一時間経った頃だろうか──突然女の人の嗚咽に目が覚める。


「えぇ、なに!? なに?!?」


 リリスさんがまた酔っ払って泣き上戸!? いやこの声は違う!?

 え!? 誰!?

 覚醒したばかりの私の脳は大混乱だ。

 部屋の中央の影が不規則に揺れている。

 影──かと思えば長い黒髪に半身が覆われている女の人で──それは、バンシーさんだった。

 バンシーさんは人の死を予知して泣いて知らせる妖精である。


「バンシーさん!? ど、どどどどうしたの!?」

「うぅ、可哀想なノーム様……」


 私はここで、ある一つの嫌な予感にたどり着いた。

 バンシーさんが泣いている。

 それは、つまり──。


「──ノームに、何かあったの?」


 バンシーさんが私の言葉にさらにわっと喚き始める。

 私はひやりと背中が冷えた。


「バンシーさん、教えて……何が、何があったの……?」

「うぅ、えぇ、教えますとも。私はたまたま死の妖精(バンシー)としてシュトラール王国を漂っていたのです。するとどうでしょう……その王国の、美しいと評判のペルセネ王妃に死の印がはっきりと見えてしまい……可哀想なペルセネ王妃……毎晩毎晩着実にその命を狩らんとする()()()()の名前を呼び、うなされているんだとか……!」

「ペルセネ王妃ってノームのお母さん!」

「そうなのです。ペルセネ王妃の傍らから一歩も動かないノーム様を見ておりますと、それはそれは胸が張り裂けそうで……しかもノーム様はテネブリスの姫、エレナ様のご友人だとお聞きしておりましたので、こうしてエレナ様のお部屋に参ったわけでございます」

「そう……ノームの、お母さんが……」


 ノームはいつもお母さんが死んだように眠っていると言っていた。

 でも最近は体調がよくて、ノームの話を楽しそうに聞いてくれると喜んでいたのに……。

 弱っているお母さんの傍らにいるノームは、一体どんな気持ちなのだろう。

 私に、何か出来る事は……。

 そこで私は今日のアムの授業を思い出した。


『──で、あるからして──大海洋マニュス・オセアンには人魚の国“アトランシータ”が出来たのです。アトランシータの王ガルシアは精神が貧弱な者を嫌い──』


 違う、もっと前!

 アム、何て言っていたかしら……ええと、確か──。


『人魚は昔からよく異種族から誘拐されます。何故なら、人魚の涙には──』


「──どんな病気も、怪我も、治す力があるから」


 私ははっとして、バンシーさんの腕をひっつかんで、中庭に飛び出した。

 パパには怒られるかもしれない。

 ……でも、私は、ノームのお母さんを助けたい!!


「レイ!」


 お昼寝をしていたレイは少し不機嫌そうに私を見る。

 しかし真剣な私の顔に瞬きを繰り返し、やれやれと翼を広げた。


「バンシーさん、ノームのいる所に案内して!」

「えぇ、でもいいのですかエレナ様……テネブリスを出る事になりますが」

「パパは私を縛り付けることはしてない。大丈夫、私は必ずここに帰ってくるもん!」



【パパへ 


 ごめんね。私は大切な友達の為にちょっと冒険してきます。必ず帰ってくるので、心配しないでね。


 エレナより】


 そう置手紙を部屋に残して、私はバンシーさんに導かれるままレイと共にテネブリスを初めて自分から出たのだった──。

メリークリスマスです。

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