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パパと約束


「なんとも、この“セントウ”の興味は尽きませんね」

「やはり水の中で植えるべきなのでは?」

「ウロボロスの血をめしべに混ぜてみますか?」


 テネブリス中のエルフ達が魔法城の中庭に集まり、「セントウ」の研究に尽力している様子をエレナはレイの上で寝転びながら眺めていた。


「お話が難しくて全然分からないわ。やっぱりエルフさんは頭がいいのね」

「ぎゃう」


 レイは興味が無さそうにうとうとしている。

 私はそんなレイの身体を撫でていると、パパがこちらへ歩いてきた。


「あ、パパ」

「エレナ。散歩でもどうだ」

「うん!」


 パパがいつも通り私をその逞しい肩に乗せてくれる。

 空間魔法でテネブリスの領域内の荒野に移動するパパ。

 あれ? てっきり街に行くかと思ったのに。

 パパにはそんな私の疑問も御見通しだったようだ。


「たまには二人きりも悪くないだろう」

「うん! それにしても、ニクシーさんはテネブリスの恩人ね。明日お礼に言わないと」

「あぁ。しかしそれを言うならエレナもこの国を救った事になる」

「え? 私が?」

「エレナだから。……エレナだから、ニクシーはお前にセントウを与えた。私は、エレナには誰にでも好かれる才能があると思っている。父親として誇らしい。しかし、それと同時に、少し寂しくはある」


 私はキョトンとする。

 パパの角を掴んでその目を覗きこんだ。


「私はここにいるのに?」

「あぁ。まぁな」

「変なの。あ、でも才能ならパパも持ってるよ」

「どんなだ」


 私はパパの顔を覗きこみ過ぎて、滑って身体が宙を浮いた。

 パパがすぐにそんな私の身体を両腕で受け止めてくれる。

 にっと笑うとパパは少し動揺したように揺れた。


「パパの魔法は死の中に沈んでいた私を呼んで、光を与えてくれた。それが才能と言わずしてなんと言うの?」


 パパの足がピタリと止まる。


「……私のこれは、エレナのいう良い意味の才能ではないな」

「え、どうして!?」

「私はこの魔法で多くの命を奪ってもきたからだ」

「────、」

「時には我が身の為に、時には仲間の為に、私は人間の命を奪ってきた。だからこその“魔王”だ」


 パパは私を下ろし、空を見上げた。

 パパの魔力の影響で空を覆う雲達は時々放電し、気味が悪い。

 まぁ、もうすっかり慣れてしまった空模様だけれど。


「エレナ。お前は知っているか? シュトラールという王国で私を殺す為に兵を集めているそうだ」

「! ……知ってる。勇者の事も。でも、それはまだまだ先だって!」

「そうだ。だが、いつか人間達は私を殺しに来るだろう。私が魔王である限り」

「な、何が言いたいのパパ」

「…………」

「私がパパを殺させない。絶対に。誓うよ! 魔族と人間を戦わせはしない!」


 私はパパに小指を差し出した。


「ゆびきりげんまん!! パパも小指出して!!」

「しかし、」

「しかしじゃない!!!!!」

「う、うむ」


 私の勢いにパパは押されたのか、小指を恐る恐る近づけてくる。

 私はそれに自分のを絡め、しっかり結んだ。


「ゆびきりげんまん、うそついたらはりせんぼんのーます!」

「エレナ? これは?」

「本で読んだの。絶対に約束を破らないって誓う儀式」

「……馬鹿だな、お前は」


 少し呆れたような声を出すパパに私は口角を上げてみせる。


「馬鹿でもいい。言っておくけど、パパは魔王である前に今は私の“パパ”なんだからね!? だから、だから──!!」


 しかしその時だ。

 竜の姿のアムドゥキアスが私とパパの傍に降り立った。


「魔王様、エレナ様!! セントウの種が、ひ、一つだけですが! ついに実が成りました!」

「!!」


 私はパパと顔を見合わせる。

 

「と、とにかく詳しい研究結果をお話したいとエルフ達が!!」

「分かった。すぐに向かおう」


 アムドゥキアスが頭を下げ、城に戻っていった。

 私とパパの間に微妙な沈黙が漂う。


「パパ」

「なんだ」

「約束だからね」

「……あぁ、分かった」


 多分今パパに顔があったなら、困ったように笑ってるんだろう。

 でも、私は本気だ。

 本気で、パパや魔族の人達を護るつもりだ。


 そのためには何をするべきか。

 これからじっくり考えて行かないと。

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