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ベルゼブブとエマ


 ──ケルベロスの大迷路にて。


 ケルベロスの大迷路には、“死”がいる。

 “死の果実”──トリカブト。ケルベロスの体液から生まれたというその果実は食べた者を問答無用で冥界へ引きずり込む。それは、暴食の悪魔でも例外ではなかったようだ。


「──、あぁ、ア、アア──」


 暴食の悪魔、ベルゼブブは冥界の迷路へ自ら飛び込んだ。しかしそんな彼がトリカブトを前にして、食欲を抑えるわけもなく──泡を吹いて、毒に蝕まれる。巨体をひっくり返し、肢体をピクピク痙攣させていた。数人の骸骨(スケルトン)がベルゼブブの様子を窺っている。ベルゼブブはギョロギョロと己の目玉を動かすだけ。


 ──金髪のガキ……エマとか言ったっけ……あいつ、前にベルフェゴールが乗り移ったノームとかいう勇者の娘で……オウゾクだって、ルシファーが言ってた……。

 ──王族。その単語を聞いたシュンカン……一気に、僕ちんの頭の中に、何人もの人間の記憶がトツゼン流れてきた……。

 ──僕ちんは暴食のアクマ。だからそのキオクは、きっと……。ルシファーの体内に一度入って己の根源をオモイダシタノか。

 ──とにかく、僕ちんはあのガキを喰わなければいけない。その後に石になったノームもクッテやる。石は何も味がないから無視していたケド、王族ならベツだ。僕ちんは、オウゾクを、喰わなきゃ。


 ベルゼブブは死に際だというのにそんな事を考えていた。必死に、足を動かそうとする。しかしそれは岩を掠るだけで彼の巨体を運ぶほど力がない。でも諦めない。ベルゼブブは唾液をまき散らし、様子を窺って来る骸骨を威嚇した。


 そこで、ふと足音が近づいてくることに気づく。


「……ベルゼブブ、」

「!!!」


 ベルゼブブは目玉をこれでもかと見開かせた。何故なら彼の目の前には今まさに追い求めていた少女──エマがいたのだから。ベルゼブブは暴れる。エマの傍にいたノブナガがエマを守ろうと刀を手に取るが……。


「がふっ……」


 ──その前に、ベルゼブブの身体がもたなかった。


 身体の胸部からどんどん溶けていく。ベルゼブブはその大きな口を開閉させることしかできない。


「お、う、ゾク、を……と、に、カク、たべ、な、きゃ……」

「!」

「エマちゃん、危ないよ!」


 エマはベルゼブブの言葉を聞いて、恐る恐る歩み寄る。真っ直ぐに、ベルゼブブを見つめた。ベルゼブブはその藍色の瞳に何も言えなくなってしまう。


「……あ、……あぅ、……っぼく、ちん、は……」

「大丈夫。聞こえてるよ。ちゃんと聞いてるよ」

「……!」


 ベルゼブブはエマの優しい声に、その仰々しい瞳を潤わせた。ポタリ、ポタリ。彼の頬は濡れ、顎を伝って涙が止めどなく零れていく。エマに、必死に何かを伝えようとしていた。しかし彼の声は、もう──。

 するとここで、ハーデスがエマの肩に手を置いた。


「エマちゃんは、この者()の声が聞きたいんだね?」


 蜘蛛の巣のような髪の毛から、ハーデスの真摯な瞳が見える。エマは強く頷いた。この過程は、エマの女王としての今後に必要なことだと感じたからだ。そこでハーデスがベルゼブブに何かを唱えると、ベルゼブブの身体が溶けていき、黒煙に変化する。その黒煙からは微かに声が聞こえた。エマはハーデスを見る。


「……ハーデス様、これって、」

「ベルゼブブの素になった魂達だよ。君に手は出させないように僕が見張っている。安心して彼らの話に耳を傾けるといい」


 エマは「はい!」と精一杯の返事をすると、その黒煙に飛び込んだ。その瞬間身体が反転し、気付けば暗闇にエマの身体は浮かんでいる。声が近づいてくる。次第に視界が誰かに支配されたかのように、映像が勝手に流れ始めた──。

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