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師匠と私


「──やぁ!!」


 アトランシータに滞在することになって一日が経った。

 解毒の経過を見る為の滞在なのだけど、既に毒による斑点も凝視しないと分からない程だ。

 故に退屈だったこともあり、アモンさんにお願いして剣の稽古をつけてもらうことにした。

 なんとアモンさんは生前剣を嗜んでいたのだという。

 また私が剣の稽古をしたいとガルシア王に相談するとアトランシータの闘技場のステージの一部に泡魔法をかけてくれた。

 これで随分と広い場所で稽古ができるようになったのだ。

 

「エマ! さっきから同じ手ばっかり使ってるぞ! あと狙い先を目で意識しすぎだ。お前の目を見ればすぐに次の手が分かってしまうだろう!」

「う、は、はぁい」


 私は疲労で地面にゴロンと転がった。

 つ、疲れた。かれこれもう二時間は休憩もなしだ。

 今日の稽古のお題は私の聖剣(怪我しないように剣身は形を変えている)の剣先に蛸の墨をつけてアモンさんの身体のどこかにその墨をつけるってものなのだけど……。


 全く掠りもしない。


 やっぱり私、剣の才能ないのかも……。

 するとアモンさんが私にケルピーの毛から出来た布を手渡してくれた。

 私はそれで汗を拭く。

 

「そろそろ休憩にするか」


 アモンさんがそう言って私の隣に座る。

 珊瑚で出来た容器に入っている新鮮なお水を飲みながら、私はアモンさんの横顔を見つめた。

 稽古をつけてもらうようになったし、アモンさんは一応私の師匠というわけだ。

 しかしそれを差し引いても──自惚れているのかもしれないけど──彼は私に妙に優しいような気がする。

 こうして私の稽古に付き合ってくれるし、食事の時もよく声かけてくれるし、毒の具合とかも何回も確認してくるし……色々と過保護なくらい私を気にかけてくれるというか。

 それにずっと気になっているのは──。


 ──『お前が死んだら、俺は、俺は……エレナにどんな顔をして会いに行けばいい──』。


 私がヒュドラの毒によって気を失う前に、アモンさんはそう言っていた。

 彼は多分私のママの知り合いなんだろうけど……なんだか聞きづらい。


「おい」

「!」

「俺の顔になんかついてるか?」


 アモンさんは不思議そうに私にそう尋ねた。

 しまった、見過ぎてしまったか。

 私は大袈裟に首を振って、俯いてしまう。

 

 泡に包まれた空間の中、沈黙が佇む。

 ダイアモンド珊瑚というアトランシータでの灯りのおかげで周りは明るいが、少し離れた先は薄暗い藍に支配されている。

 時折、見たこともない海の魚達が私達を一瞥して通り過ぎていく程度で、後は本当に静かな所だった。


 うぅ、やっぱり気になる。

 アモンさんはママとどういう関係なの?

 も、もしかして……元恋人……だったりして……娘の私は複雑だけど、そういう色恋沙汰にはドキドキしてしまうお年頃である。


「あ、あの、アモンさん!」

「ん?」

「あの、アモンさんは……その、なんていうか、えっと!!」

「──なぁ、」

「ひゃ、ひゃい!」


 動揺する私にアモンさんは照れくさそうに頬を掻いた。


「前から思っていたがそのアモン“さん”っていうのやめねぇか? なんか照れくさい」

「! で、でも、アモンさんは私の師匠ですし……じゃあ、アモン先生とか?」

「却下だ。余計に恥ずかしいだろうが。アモンでいい。師匠とか先生とかさん付けとか、そんな風に呼ばれる程俺は大層なものでもないしな。俺は所詮、人間を捨てた屑野郎だよ」

「っ、そんなことはないです! アモンさんは凄いですよ! 炎の悪魔なんて最高にカッコいいし、強いし、美形だし、とっても優しいし!! わ、私、アモンさんのこと今から師匠って呼びますから! そう決めましたから!!!」

「なっ、」


 アモンさ……否、師匠がポカンと間抜け面をする。

 私ってば、ママの元恋人疑惑がある人に何を熱くなっているんだろうか……。

 でも後悔はない。

 だって彼は本当に優しい人であるというのに、自分を蔑ろにする傾向がある。

 それがなんだか許せなかった。彼が彼自身を好きになれないなら私がいっぱい彼のいい所を教えてあげないとって思ったのだ。

 彼はしばらくそのまま固まっていたが、すぐにそっぽを向いた。


 これは──。


「師匠、照れてるんですか?!」

「っ、」


 数秒後に、「そんなわけないだろう」と弱弱しい声が聞こえてくる。

 うっわ、可愛い……。

 私は思わず頬が緩んだ。


「ふふ、師匠も可愛いところあるんですねぇ」

「ばっ! だ、だから、照れてないって言っているだろ!!!」

「そんなこと言って。鏡を見てから言ってください! 顔真っ赤ですから」

「!?」


 自分の頬をぺたぺた触って確認する師匠。

 そんな師匠を見ていると、ママとの関係はまだ聞かなくてもいいかなと思った。

 それを聞いてしまうと、これ以上親しくなれないような気がして……。

 ま、この人がママの元恋人だろうとなんだろうと私の師匠であることには変わりはないし。

 今はただ、この不器用な人に付いていきたい。そう思う。


「──これからよろしくお願いしますね、師匠」

「……っ、……ふん」


 しかし私がそんな師匠のぶっきらぼうな反応をまた揶揄おうとした時だった。

 

 ──私の聖剣が突然異常なほど輝き始めたのだ──!

ここで、エマの服の説明を補足させていただきます(作中で語りたかったのですが、あまりにも不自然だったので)。

 一応説明しておくとエマの普段着はシュトラールの民族衣装で「カラック」というものです(イメージはアラビアン系)。上半身には胸を少しきつく押さえつける胸当てのようなものと簡単な半袖の上着を身につけています。下半身には膨らみがあるハーレムパンツ。

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