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眠る


「ハッピーエンド、ではないかな……」


 サラマンダーはいつの間にか、隣に純白の翼を持つ青年がいることに気づいた。

 あのウィンディーネすら、気配に気づかなかったらしく、驚きを隠せていない。


「なんだ、貴様は……!」

「私は大天使ミカエル。嘘かどうかは自分で判断してほしい。サラマンダー、ウィンディーネ」

「……大天使ミカエル?」


 ウィンディーネが構えた剣を下ろし、ため息を吐く。


「もうこの際どうでもいい。お前には敵意がない。それだけだ。……それで、その大天使がどうして我らの所にきた」

「あぁ、君達に今の状況を教えてあげようと思ってね。ずっとここにいたんだから分からないだろう。僕の愛馬の回収とルシファーの野郎の捕獲も兼ねてね」

「状況?」


 ミカエルは今まで起きたことを全て話した。

 進軍はエレナが召喚したゴルゴーンによって止められたこと。

 しかしその後ルシファーがエレナを殺した(フリをした)こと。

 それによって魔王が暴走し、黒い嵐のような化け物に変わってしまったこと。

 じつは生きていたエレナによって、たった今魔王が正気に戻ったこと……。


「捕獲を試みたんだが、生憎つい先ほどルシファーには逃げられてしまったよ。でもエレナちゃんの弟君のおかげでルシファーの力は確実に削ぐことができた。彼が次に現れるのは十数年後だろう」

「……ルシファーは封印できず、エレナは弟を失った。なるほど。確かにハッピーエンドではないな」


 ウィンディーネが今頃我を忘れて泣き崩れているだろうエレナを想い、苦い表情を浮かべる。

 サラマンダーは拳を握りしめた。


「……気に喰わないが、今エレナの傍に兄上がいるのだろう。ならば、大丈夫だ」


 そう言って、咳をする。

 それと共に血も吐き出したサラマンダー。

 ミカエルは眉を顰めた。


「君も災難だったねサラマンダー君」

「はっ。お気遣いどうも。がっ、はぁ、はぁ……くそ、」


 サラマンダーはゆっくり仰向けに倒れる。

 彼の時間があとわずかであることをウィンディーネとミカエルは察した。

 胸を握りしめ、必死に呼吸を繰り返す彼の様子はとても痛ましい。


「……ウィンディーネ女王、頼みがある」

「なんだ」

「あいつに、エレナに……『すまない』とだけ、言っておいてくれ。兄上には、『酒、旨かった』とだけでいい」

「……。……あぁ。分かったよ」


 サラマンダーの視界がぼやけていく。

 思わず目を瞑った。

 そこでミカエルが言いにくそうに口を出した。


「分かっているとは思うけど。仮に滓だろうがなんだろうが、君は自分から悪の根源(セロ・ディアヴォロス)の一部を受け入れてしまった。転生も、冥界での安静な死後も期待しない方がいい。おそらく君は悪魔と死霊の狭間の中途半端な存在として暗いところを彷徨い続けることになる。……永遠に」

「……ならば、質問だ。魔王の血を飲んだエレナの死後はどうなる」

「そうだね。彼女の魂は絶対神(セロ・デウス)に気にいられているし、血を使って罪を犯したこともない。よって普通の人間同様彼女が望めば転生、望まなかったら冥界かな」

「そうか」


 つまり、この先サラマンダーとエレナが出会うことは絶対にないとミカエルは暗に示していた。

 しかしサラマンダーはそう受け取らなかったようだ。

 彼は、ただ単純に──。


「エレナの最期が穏やかなものであるのなら……もうそれでいいさ……」

「!」

「……ウィンディーネ、俺はおかしいのか? 自分が死ぬ間際だってのに、あの女の未来を気にかけてしまうよ。……まぁ、兄上がヘマしなきゃ、あいつは、ちゃんと……幸せ、に……」


 そこで、途切れる。

 サラマンダーは微笑みながら、力尽きたようだった。

 ウィンディーネはサラマンダーの目尻から流れる涙を拭ってやる。


「……それが愛ってやつだサラマンダー。お前自身は穢れてしまったが、お前のその想いだけはどこまでも純粋で、どこまでも綺麗だった。このウィンディーネが最大の敬意を持ってそう認めよう」


 サラマンダーの死後は、きっと安らかなものではないだろう。

 ずっと先の見えない暗い世界で彷徨い続ける彼の魂を思うと何も言えなくなる。

 

 ミカエルはそんなサラマンダーの最期を見守りながら──微かに口角を上げた。

次がまおパパ二章最終話です。

夕方か夜に完結させます。

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