二人のバカ
篤郎の走りは容易にリヒッテットの馬車達に追い付いていた。
馬が疲弊しすぎたのに無理に走らせた結果だろう。リヒッテットの周りは騎士達が宥めていたが、気が触れたのであろうか、二人の遺体があった。
「う、馬を、早く馬を、」
の剣を構えている。牢馬車にリザリアの少し狂った様な笑い声も聞こえてきた。リヒッテットよりもリザリアの方に向かった。篤郎の顔を見るとホッとしたのか泣き出した。
「今から出してやるぞ。」
「わうわぅわぅわぅぅぅ。」
牢を潰して手枷も足枷も外して、水の入ったコップを渡した。篤郎は本当は助けたくないのだ。デニー一家も守れない糞騎士なのだから。
リザリアは篤郎に感謝と失態の挽回を求めたが、棄却された。
篤郎はリザリアを連れてリヒッテットの前に現れた。
「ひ、ひいぃぃぃぃ!」
「侯!」
「こ」ゴッ。
マトックで残った二人を吹き飛ばした。
「「ひいぃぃぃぃ!」」
叫び声がサラウンドで篤郎の耳に届いた。後ろに居たリザリアは地べたで怖がっていた。何故?
篤郎はリザリアを無視してリヒッテットに睨みをつける。
「殺しに来たぞ。」
マトックを肩に担ぎ直した。
「ひいぃぃ、何でだ、余が何かしたのか?」
「余だと?余の欲望の為に殺された家族がいる。その仇討ちだよ。」
「仇?余が?余はそんな事をしていないぞ。」
「お前は、リザリアを奪うだけなら俺も怨まないが、デニー一家を惨殺した者の首謀者だと聞いたが。」
「デニー一家?知らんぞ、そんな名前は!」
「な、なんと。」
リザリアは衝撃的な言葉を聞いていた。
「知らんか。レクッチはお前の指示と言ったが。」
「余が指示?していない!」
「リザリアを捕らえる為に殺した一家も知らない?」
「余、余はリザリアを捕らえよ、は言うたが殺せとは。」
「邪魔者は排除せよ。」
「あっ。」
「排除は殺せだろうが。」
「ち、ちか。そんな意味では。」
「そんな・・・」
リヒッテットは言い訳をし、リザリアはデニー達が殺された事を知った。淡い期待が崩れた瞬間だった。
「死んだ・・・・」
三ヶ月未満の付き合いだったが、暖かい家族だと思ったのに。リザリアは呆然とした。
「次は、俺がお前を排除するか。」
「待て!待ってくれ!そうだ、余を手伝え。お、お前を宰相にしてやるぞ!」
「宰相!」
リザリアはリヒッテットの言葉に反応した。
「貴族にもしてやる。侯爵いや、王族にもしてやる!どうだ?」
「王族!」
「馬鹿かお前わ。仇討ちって言ったよな。」
「えぇ!あんた馬鹿?王族よ!宰相よ!国の要よ!」
「なに?!」
後ろからリザリアが叫び出した。
「お馬鹿、分かる?貴族に成れるのよ!デニー一家位を超える地位が手に入るのに!」
「はあぁ!?」
リザリアの言葉に何を考えていると思ったが、あぁと思い直した。古来の日本なら仇討ちをするのが当たり前だろう。しかし、自分が一番だった世界がたった四百年で変わるだろうか?リザイデント時代なら、他人が死んで当たり前で、人に優しくは奇特な人だ。近代日本みたいな世界ならいざ知らず、文化も内容もそんなに進歩もしていない世界だ。多少の小綺麗になっても生活レベルも建物レベルも食レベルもそのままで、人を考える余裕もない世界なのだから。
でも篤郎は地球の近代日本で17年も生きたのだ。『道徳』と言う授業を真面目に受けてきた。同じ世代でも真面目に受けている人間は少なかった。父、鉄郎から『心に孤独を抱えている人間は狼になり、人愛を持って奉仕の心を持った者は人になる。』との教えを受けて心に刻んだ。その精神からは離れたのが、この世界だったのだ。
篤郎はニヤッとするが、直ぐに真面目な顔をして、
「『命令』黙れ。二度と口を開くな。」
篤郎が言うと、リザリアは開いていた口が閉じた。そして、口から呼吸出来なくなったので鼻で必死に呼吸をしだした。
「な、何をした。」
「黙らした。」
「なに!」
「黙れと命じたからな。」
「ば、馬鹿な!契約の主は余のはずなのに。そんな馬鹿な。」
慌てるリヒッテットと、鼻呼吸で苦しくて悶えているリザリア。
「あー、あの隠蔽しまくりの契約ね。」
「しまくり?」
「そう、6個の隠蔽があったから。」
「なっ!」
「さ、そんな話は終わりだ。」
マトックを振り上げる。
「な、何を・・・・」
ブン。ザグッ!「ギャアァァァアァァァ!」
「ふっ。一個目はデニーさんの怨み。」
篤郎は右太股からマトックを抜き取る。ブシューー。
ブン。ザグッ!「グワァァァアァァァァ!」
次は左膝を撃ち抜いた。
「二個目はレウルの怨み。」
「止めて、や、止めて。」
抜いたマトックに赤い血が滴った。血の飛び散りは少ない。
「三個目!」
ブン。ザグッ!「ウギアァァァァァァァァ!」
「此がパレーの怨み。」
左肩から直ぐに右肩を撃ち抜く。
ザグッ!「ハァガガァァァァァァァア!」
「最後にロイシュの怨みだ。」
リヒッテットからマトックを抜くと、
「これは一家からの利子だ。」
そう篤郎が言うと、炎が傷を焼いた。
「グェギァアァァォァァァァァ!」
とリヒッテットは叫んで倒れた。
「さて、馬車を選ぶか。」
篤郎は馬車を覗いていた。




