赤い月
赤い月ってどこが不気味ですよね
赤い月は昔から不吉なことがおこる予兆と言われている。だが本当は空気中のゴミの量などで赤く見えているだけだと科学的に証明されている。
理系の僕はそんな言い伝えのことなんか信じていない。。いや、いなかった。あの赤い月の夜までは。
「今日は月が赤く見えますね。」
「そうですね。空も雲がないのでよく見えると思います。」
テレビで赤い月の話をしている。どうも僕はこのニュース番組が苦手だ。無駄な情報が多すぎる。
「さとし降りてきて、ご飯よ。」2階の僕に1階の階段の下から母が呼んでいる。
「上にもって来てよ。」
「夜ご飯は一緒に食べる約束でしょ。早く降りてきなさい」
どこの家でもよくある約束だろう。仕方なく僕は1階に降りた
「今日はカレーか。となると明日の朝もカレーだな。」
「8人前作ったから明日の夜まではカレーでいけるわよ。」
「作りすぎだろ。そんなにカレーばっか食べたくない。」
「お母さんのカレーは世界一だってあんなに言っていたじゃない。」
「何年前の話だよ。」
お母さんは昔のことをよく覚えている。きっとそんなことを言ったこともあっただろう。だが記憶に無ければ言っていないのと一緒だと僕は思う。
「ほら、お父さんの所に水とカレー持っていって。」
「はーい」
僕は仏壇の前にカレーと水を持っていく。ここまで聞いてわかったと思うがお父さんは死んでいる。死んだのは3年前の赤い月の夜だった。
「さとしー、お父さんたばこ買ってくるけどお前なんかいるか??」
「あー、肉まんとコーラ買ってきて」
「わかった。母さんは?」
「うーん。私はいいかなー」
「了解。行ってくる」
これがお父さんと最後に交わした言葉だった。お父さんはコンビニに行った帰りの道でトラックに車の横から当てられ亡くなった。警察から電話がありお母さんと慌て病院に向かったがついたときには死んでいた。ほぼ即死だったらしい。僕はあまりにも急で非現実的な状況を前になにも言葉がでなかった。
「カレーおいしい?」
「まぁ普通かな」
美味しくてもこう言うようにしている
「なにそれ、嘘でも美味しいって言うものよ?」
「答えありきの質問なんかすんなよ。」
「難しいこと言わないで美味しいって食べなさい」
「美味しいです」
わざとらしく心を込めないでいってみた。
「それでよろしい」
お父さんはいい保険に入っていたので死んでもお母さんの少しのパートと僕のバイトで暮らしていけるぐらいのお金が入った。それだけが唯一の救いだねとお母さんとは葬式の後よく話したものだ。
「お母さん。今日赤い月だってよ。」
「…そうなの。」
「俺、今日コンビニ行こうと思うんだけど」
「…ダメよ。絶対。なんで?」
「いつまでも引きずって行くのは良くないと思うんだ。たまたまあの日赤い月だっただけで今日赤い月だからなにか起きる訳じゃないよ。」
「そんなことわからないじゃないの。お父さんいつも通る道で事故起こしたのよ?それもトラックと。昔から赤い月の日は不吉なことが起こるって言うのよ。あのとき私が止めておけば…」
「何回それを言うんだよ。コンビニ行く人をわざわざ止める人がどこにいる。いつまでも自分を責めるなよ。そんなこと言ったら俺が肉まんとコーラを頼まなかったら時間がずれて事故らなかったかもしれないだろ?」
その言葉でお母さんは何か言いたげだったが涙目になり黙った。
少し悪い気がしたがいつまでも月に脅えたり、わざわざ遠回りしてコンビニに行くなんてやめたいと思っていた。今日は赤い月いいタイミングだと思った。
「じゃ、行ってくるわ。お母さん何かほしいものある?」
わざとお父さんと同じセリフをいう。
「……無事かえって来なさい。それだけでいいわ。それだけで…」
「そうか。」
僕は車に乗りお父さんが通ったであろう道を走った。
コンビニでお父さんがいつも買っていたたばこを買い、あの日お父さんに頼んだ肉まんとコーラを買った。
「762円になります。」
「1262円で」
「500円のお返しになりますね。ありがとうございました。」
ここも忠実にお父さんと同じお金の渡し方をした。なぜお金の出し方を知っているかと言うとあの日お父さんが持っていたレジ袋のなかにレシートが入っていたからだ。
お父さんが車を停めていた場所と同じところに停めた車に乗り、エンジンをかける。
「よう。さとし」
「なんだよ。お父さん。…え」
車にはお父さんが家を出たあの日の姿のまま車に乗っていたのだ。
「そんな驚くなよ。お化けでも見たみたいな顔しやがって。お父さんに失礼だろ。化けてまで出てやったんだ。」
「いや、お化けじゃねーかよ。なんでここにいんだよ。本当にお父さんなの…か」
「正真正銘お化けだよ。脚はあるけどな。苦労かけて悪かったな。」
「別に苦労なんかしてねーよ。お父さんの保険金で生活は普通にできてるし。」
「そうか。そりゃよかった。」
お父さんは笑顔だった。3年ぶりに見たお父さんは小さく見えた
「さとし大きくなったんじゃねーか?髭も濃くなったし車の免許も持ってやがる。大きくなりやがって。」
「そんなことはどうでもいい。なんでここにいんだよ。天国にでも行ったんじゃねーのか」
素朴な疑問だった。もう3年前なのになぜここにいるのか。命日でも誕生日でもないのに
「いろいろ理由はあるんだがー。お前たちのために今日はきたってこと…だな。」
「そうなのか。でもなんでコンビニの駐車場なんだよ。家に来ればいいだろ。」
「それじゃ意味がないんだ。まぁそのうちにわかる」
「ふーん」
何か隠しているように聞こえた。
「何かお母さんと僕に話したいことないのかよ。特にお母さんに」
「ああ、いっぱある。」
「じゃ、伝えといてやるから言えよ」
お父さんは頷くと時計を気にしながら話始めた。
「母さん、急にいなくなって悪かった。母さんのことはいつも見てる。さとしに隠れて泣いてることもわかってる。好きだったバックも売ったこともわかってる。本当にすまなかった…。愛してた。いや、これからもずっとお前だけを見て。お前だけを愛してるよ。」
「よく子供の前で愛してる何て言えたな。恥ずかしくないのか」
「俺だって直接伝えられたらそうするさ」
「お父さんなんか光ってないか?」
「どうやら時間が迫ってきたらしい。ころあいだなさとし。俺が事故にあった場所を見ていろ。3、2、1…」
お父さんが事故にあった所を見ていると一台のトラックがやって来た。
ガッシャーーン
カウントが0になったときトラックは急に動きがおかしくなりガードレールにぶつかって止まった。凄まじい音がしてトラックの運転手が血だらけで降りてきた。
幸い巻き込まれた車も人もいなかったようだ。
「お父さん、これはどういう。」
「今日さとしはあそこで事故にあって死ぬはずだったんだよ」
「は?え?」
「それで俺が助けたってこと。」
「でもそれなら家を出る前に来たら良かったじゃないか」
「…それはできないんだよ」
お父さんは言葉を詰まらせる
「…言う気はなかったんだが…俺は成仏する権利を棄ててさとしを救いに来た。」
「それはどういう…」
「俺が死んだとき、さとしが3年後に死ぬことを知った。どうにか助けたくてな。成仏すると伝えられないんだよな、生きてる人に。それで成仏する権利を棄てて地縛霊になった。それから今日までずっとここでお前かお母さんが来るのを待っていたんだ。」
「…でも何回もコンビニ来てるぞ」
「どうも赤い月の日じゃないとダメみたいでな。赤い月と事故にあう日が被るとは思わなかったけどな、とりあえずさとしが生きてて良かった。これでやっと勤めが果たせた」
すると、お父さんは光を放ち指の先が消え始めた。
「お父さん消えてるよ、成仏する権利棄てたんだろ?なんで消えてんだよ。赤い月の日毎回ここに来るから消えんなよ!」
「どうやら成仏とは違うみたいだ。指先がすごく冷たい。死ぬはずの人を助けちゃったからな…消されるんだと思う。この世からもあの世からも。さとし永遠の別れだ。」
「なにいってんだよ!」
「母さんによろしくな…」
お父さんはそういうと消えていった。
僕はふと我に帰り、肉まんをとった。
「冷めてるじゃねーか…、話が長いんだよ。お父さんは…」
しばらく泣いたあと家に帰った。
コンビニの近くで事故があったことを知ってなのかお母さんは家で大泣きをしていた。お父さんのことを伝えるとさらに泣いていた。
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「今日は赤い月だそうですよ。」
「そうみたいですね。この前の赤い月から1年ぐらいたちましたかね。昔から赤い月は不吉なことが起こる予兆と言うんですよね」
僕はこのニュース番組が苦手だ。いらない情報が多すぎる。それに嘘を言っているではないか。
「赤い月は不吉じゃなくて不思議なことの予兆だよ。なぁお父さん」
僕はそういうと窓から赤く光る月を眺めた
赤い月って題名を先に考えたのでちょっと書くのに時間がかかりました