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マーセナリーエイジ  作者: きさきしゅん
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いわゆる運命の出会い

アスラ部隊総司令、ウガヤ・イスカと最初に出会ったのは、ハヤヒトではない。山の麓に買い出しに行っていたミナギの方である。


基本的に、…というか徹底的にハヤヒトは、あの山中の庵から出ない。引きこもり体質の彼は、買い物すら面倒くさがる。なので、食料、衣料、雑貨の買い出しに行くのは、もっぱらミナギの仕事である。また、ミナギにしてみれば、ハヤヒトが他の女性と接する機会を根こそぎ潰したいので、一挙両得。


そんなわけで、その日もミナギは原付きバイクを走らせて、いつもの麓の街に来ていた。そこでちょっとしたトラブルに巻き込まれたのだ。


当時、新陽の街はニューコム軍の勢力下におかれていた。で、当然のごとく、駐屯する兵士がいるのだが、残念ながら新陽のそれは質が悪い。分かりやすく言えばガラの悪い兵士が多かった。


バイオメタル化で強化された身体能力と、軍の権威を振りかざしての狼藉三昧。さすがに大戦後のような無法は無いにせよ、


1に民間人へのに暴力


2に女性に性的なちょっかいをかけ


3に飲食代を踏み倒す


くらいは日常茶飯事だった。


その2番目の要項に、たまたまミナギが引っ掛かったのが、全ての始まりである。


「そこの色っぽいおね〜ちゃん。ちっと、オレたちと遊ばねーか?」


と、典型的なチンピラ誘い文句で、ニューコム軍兵士が近づいたところを、ミナギが。


「結構ですわ。私、忙しいですの」


「そうつれないことを言うなよ。しかし、エロい身体してんなぁ〜」


「……下品なかたたちですね」


で、簡単に叩き伏せてしまったのである。


この時、ミナギの肉体は常人のままだった。にもかかわらず己の数倍の身体能力を持つ兵士を倒せたのは、まぎれもなく煌華暁流の技のおかげだった。


そう。ミナギもまたハヤヒトと同じく、煌華暁流剣法を身に付けていたのだ。本来、一子相伝のはずの暁流を学ばせたのは、彼女を溺愛する、暁珠織(アカツキ・タマオリ)の意向である。


そして、街の人の喝采を受けながら、原付きバイクに乗ろうとしたミナギに声をかけてきた女性。彼女こそが、アスラ部隊の総司令、ウガヤ・イスカだったのである。







‥ミナギが兵士たちを叩き伏せる5分ほど前。一台の軍用車が新陽の街を走っていた。


後部座席に座るのは、軍服を身につけた二十代後半のイザナギ女性。ニューコムでただ1人の特務大佐の階級証が、豊かな胸に飾られている。目を見張る美女だが、美しさよりもまず感じる第一印象は、『覇気』である。

初対面で気圧されない人間はなかなかいない。


それもそのはず。個人戦闘力、戦術指揮能力において彼女を上回る者は、ニューコム軍に誰もいない。加えて彼女は、ニューコム軍の創設者にして絶対的カリスマ、ウガヤ・アスラ元帥の1人娘なのだ。


「しかし、使える人材とは、なかなか見つからぬものだな‥。」


「まあ、アスラ部隊の隊長格ともなれば、仕方ありますまい。それに今日び、アンプル一本射てば、たちまち超人になれる世の中ですからな。好き好んで武術の修練に励んでおるものなど、そうそうおりませんよ」


早くに戦死したアスラ元帥に代わり、イスカを育て上げた、鷲羽蔵人(ワシュウ・クランド)が、運転席から肩ごしに右の隻眼を向けた。


「…だろうな。しかし、これ以上は待てん。キングダムのレギオン部隊の押さえに回らねば、ニューコム全体の士気にかかわる。お前の言う通り、ここらでアスラ部隊を発足させるのが無難か。」


イスカの手元にはアスラ部隊の編成表がある。

それには。


一番隊隊長、火影忍軍当主・火影摩梨華(ホカゲ・マリカ)


二番隊隊長、鏡水示現流(きょうすいじげんりゅう)継承者、壬生時雨(ミブ・シグレ)


三番隊隊長、トッド・ランサム


四番隊隊長、人斬り・蛇神斗膳(カガチ・トゼン)


五番隊隊長、鬼道院流豪槍術(きどういんりゅうごうそうじゅつ)継承者・鬼道院馬鞍(キドウイン・バクラ)


六番隊隊長、八門鬼神拳(はちもんきじんけん)継承者・金剛一角(コンゴウ・イッカク)


七番隊隊長以降………不在。


「やはり、せめて、もう1人は欲しいところですな。」


「仕方あるまい。当面は私も前線に出る。」


「いや、イスカ様!!それは危険過ぎますぞ。あの死神と、朧月刹那の強さは半端ではありませぬ」


「私では勝てぬと言うのか、クランド」


やや、口調にからかいの色が混じる。こう言えばクランドが狼狽えることを、十代の半ばから知っているのだ。夢幻一刀流(むげんいっとうりゅう)継承者となった、あの時。


「恐らくイスカ様は、歴代継承者の中でも最強でしょうな」


「父上よりも、か?」


「はい。お二人と手合わせをした、このクランドが断言いたしましょう。あなた様が最強でございます」


クランドははっきりとそう言ったのだから。


「冗談だ。忘れろ。だが、当面はそうするしか…」


イスカの言葉は途中でピタリと止まる。そして車も。


「…また、あのクズどもが不埒を働いておるようですな。」


2人の視線の先には、二十代前半の見目麗しく、スタイルの良い女性がいた。そしてその女性にちょっかいをかけているニューコム正規軍兵士の姿も。


「下級兵士の質の悪さは、いつの時代も同じことだ。仕方ない。死なぬ程度に教育しておけ」


と言った1秒後に、イスカは前言を翻した。なんと、その女性が、3人のニューコム正規軍兵士をあっさりと制圧してしまったのだ。抱きつこうとする兵士を、影のごとくかわすその動きは流麗であり、何らかの古武術を身につけているのは確かだった。


何よりも、その光景を目にしたクランドの驚愕。


「あれは、まさか…」


「ん?心当たりがあるのか、クランド」


「はい。私の記憶に間違いが無ければ、あれは煌華暁流(こうかあかつきりゅう)にございます。」


「なに?」


イスカの表情にも微かな驚きが浮かんだ。


「レギオンの朧月刹那(ロウゲツ・セツナ)。ヤツが使う煌華朧月流(こうかろうげつりゅう)。それと対を為す流派、だったか?」


「その通りです。私がまだ若き頃、アスラ様と共に転戦を重ねていた時に、一度だけその継承者と会っておりますゆえ。」


「確か木剣の野試合で、父上が敗れたのだったな。しかも相手は女」


「多少のご油断もあったにせよ、アスラ様があれほど見事に一本を取られたのは、あれが最初で最後です。」


その時にクランドは見たのだ。アスラが放った必殺の夢幻一刀流奥義、天翔夢幻刃(てんしょうむげんじん)を、その女剣士が龍が舞うがごとき動きで見事に回避したのを。


「あれこそは龍影陣。いかなる攻撃をも影のごとく受け流す、防の究極奥義でございます」


「しかし…、あの者の動きは、そこまでには見えなかったが。」


確かに常人離れした強さではある。バイオメタル化すれば、さらにそれは強化されるだろう。少なくともアスラ部隊の隊長格を任せられるのは間違いない。


だが、究極の防の秘技と言うには甘い。イスカならば。それどころかクランドでも容易に捉えられる動きであった。


それもそのはず、ミナギが習得できたのは龍影陣の手前の技、影陣までなのだから。


なんにせよ。


「そこのキミ。よければ少し、時間をもらえないだろうか」


イスカがミナギに声をかけたのは、当然の成りゆきだった。

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