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マーセナリーエイジ  作者: きさきしゅん
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ハヤヒトの過去

俺、こと暁疾人(アカツキ・ハヤヒト)は、もともとは軍人ではない。大陸東部のイザナギ列島の中部に、新陽という街がある。その街外れの山中の古びた屋敷に住む、ごく普通の庶民だった。


…まあ、煌華暁流(こうかあかつきりゅう)という、嘘か真か知らないが、1200年の歴史を持つ古流剣法の伝承者を、一般庶民というかどうかは微妙ではあるが。


ちなみに出生がどこで、両親が誰なのかは俺は知らない。いや、これホントの話である。


「お前は道ばたの段ボール箱で、10クレジットで投げ売りされてたのをヒマ潰しに買ってきたんじゃ。まさにドブに金を捨てる気でのう」


とは、俺の育て親である先代伝承者、暁珠織(アカツキ・タマオリ)談。


年齢は60過ぎらしいが、外見年齢は四十代後半にしか見えない。昔は新陽の剣麗姫(けんれいき)とか呼ばれ、付近の住人からはもてはやされていたそうで。


「タマちゃんの若い頃は、そりゃあ綺麗だった。何十人、何百人の男が懸想しとったが、誰もタマちゃんを振り向かせることはできんかった」


とは、茶飲み友達のテッサイ先生の回想である。

ま、確かに歳を重ねていても美人の面影はあるから、本当なのだろう。


で、その美貌とは裏腹に、外道悪党を煌華暁流剣法で狩りまくっていた為に、その筋からは鬼のように恐れられていたらしい。


性格はこれまでのセリフで想像してもらえると思うが、唯我独尊。おまけにバクチ好きで、放浪癖がある為に、俺は物心がついたころには独り暮らしをしていた。


このババアがどうやって赤子の俺を育てたのか、後に紹介するミナギは真剣に不思議がっていたものだ。


とと、話がそれた。俺の出生の話に戻そう。さすがに知恵がついてくると、自分の生い立ちや両親のことを知りたくなる。


「…で、ババア。本当のとこはどうなんだよ?」


と真剣に聞いてみれば、鉛入りのババア御用達キセルで、


ポクポクポクッ!!


「ホゥッホゥッ!!いてえじゃねぇか!!」


などと、一通りぶん殴られた後に。


「しょうがないのう。では業腹じゃが教えてやろう。お前は、さる高貴な御方から託された赤子なのじゃ。」


「へえ(まるで信じていない顔)」


「そして1200年の時を超え、煌華暁流(こうかあかつきりゅう)は、御剣(ミツルギ)の血筋に戻り、煌龍眼(こうりゅうがん)の継承と共に最強となる…。」


「あ〜もういい。裏山でイノシシと遊んでくるわ。」


みたいな、おちゃらけた答えしか返ってこないのである。ま、本当にどこぞの馬の骨だったんだろうと思う。だとしたら、ババアもとんだ酔狂者だ。まあ、拾って育ててもらった恩だけは、渋々ながら、すんごく嫌ではあるが、仕方なく認めざるを得ない。


いや、ホントに大変だったんだって。あのババアに煌華暁流剣法を叩き込まれたのはいいとして、日々の生活がさ。なんせ博打で生計を立てるような女だから。おかげで食える野草とか、野菜の栽培とかに詳しくなっちまった。


その状況が一変するのは、確か、俺が10歳くらいの時だったと思う。ババアがある女の子を連れ帰ってきた時からだ。


「名前は、神薙美凪(カンナギ・ミナギ)。今日からわしの娘になった。お前より2つ年下じゃ。ハヤヒト。ちゃんと面倒を見るんじゃぞ。そして、もしこの子に何かあったら、お前の身なんぞはどうなってもええから必ず助けろ。」


「こ、こんにちは…、ハヤヒトお兄様」


ミナギは恥ずかしそうにババアの背中に隠れながら、綺麗な黒い瞳を俺に向けて、ぺこりと頭を下げた。目鼻立ちの整った純イザナギ風の可愛らしい少女。それが彼女との出会い。


理由は謎だが、初対面からミナギは俺に強い好意を抱いてくれた。

だから。


「ハヤヒトお兄様」


という呼び名は、ほどなく、


「ハヤヒト様」


へと変わる。なぜなら、兄とは結ばれ得ないことを早々に悟ったらしい。

そしてわずかな期間で主婦のさしすせそ。いわゆる裁縫、しつけ、炊事、洗濯、掃除を身につける。ミナギが10歳になる頃には、俺が面倒を見るどころか面倒を見られる側に変わってしまった。


「それじゃ、ミナギ。悪いが、このアホウのエサやりと世話を頼むぞ。」


「はい。おばあ様」


などとババアがふらりと2、3日出かけても、衣食の心配はしなくてよくなったわけだ。


そして日に日にミナギは少女から美しい大人の女性へと成長していく。幼い頃は特に意識しなかったが、十代も半ばを過ぎるとさすがに男女の身体の違いが気になってくる。ましてやミナギは巷の女性と比べても、胸は豊かで、腰は細く、お尻はキュッと上がっている抜群のスタイルの良さ。それに加えてババアが不在の時は。


「ハ・ヤ・ヒ・ト・さ・ま。」


などと、潤んだ瞳をしながら裸で風呂に入ってくる、あるいは布団に忍びこんでくるもんだから、こっちはたまったものではない。


断っておくが、日ごろの彼女は礼儀正しく慎ましやかで、まさにイザナギ女性の鑑のような女性なのだ。それが俺と2人きりになった途端に、凄まじい色香を放つエッチい妖女に変貌する。


‥謎だ。


何度となく、なぜ俺にそこまで好意を持ってくれるのかを聞いてみたのだが。


「きっと魂が引き合うのですわ。」


いつもミナギはそう言って俺の左腕に抱きついて微笑むだけだ。


もちろん俺もミナギを好きなのだが、彼女の俺に対する態度。あの、主に仕えるかのような、うやうやしい言葉遣いが気になる。


結局そこらへんは分からないままに、俺は剣の腕を上げていき、ついに師である暁珠織(アカツキ・タマオリ)。つまりババアと戦って勝利し、煌華暁流の正統伝承者となった。


「これで、手のかかるボンクラ弟子の世話からおさらばじゃ。後はワシの好き勝手に生きさせてもらうぞ。いや、せいせいしたわい。」


言葉はいつもの憎まれ口である。が、その時のババアの表情は、穏やかで寂しげですらあった(と思う)。それからババアは、そばにいたミナギを抱きしめ、何かを伝えた後に旅に出てしまったのである。そして二度と、あの庵に帰ることはなかった。


ババアが旅立った夜。ミナギは、いわゆる、その、生まれたままの姿で俺の前に現れた。そして俺たちは、まあ、‥‥‥(自主規制)してしまったわけだ。それ以来、ミナギは俺にとって唯一無二の存在になる。


時には俺を母か姉のように諭し、また時には妹のように甘え、そして夜は乱れる華のごとく……ゲフンゲフン(またも自主規制)。


ちなみに結婚はしていない。というか、する必要がないほどに、俺とミナギは一心同体の存在だから。そんなわけで、煌華暁流伝承者となった17歳から、あの事件までの8年間。趣味である古美術や刀剣の鑑定で生計を立てながら、静かで、穏やかで、◯ッチい引きこもり生活が続いたわけだ。


…そう、あの女。ニューコム軍所属、アスラ部隊総司令、ウガヤ・イスカと逢うまでは。

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