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マーセナリーエイジ  作者: きさきしゅん
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荒廃と爛れた栄華

「…どこらが平和な世界だよ」


それが地上に出たハヤヒトの第一声だった。


出るなり遭遇したのは、遺跡周辺をうろついていたロードギャング、いわゆるヒャッハーたち。モヒカン、トゲつき革ジャン、改造バイクという三種のチンケ神器に身を固めた武装グループである。


「お、いい女連れてんじゃねーか。さらって、ヤッちまおうぜ!!」


が、彼らの最後の言葉となった。


数は二十人ほどだったが、アヤネが全て1人で片付けた。瞳術(どうじゅつ)で金縛りを食らわした上で、片っ端から首をはね飛ばしたのだ。命乞いをする者も容赦なく。


ストリート育ちのザニルスとジグは、ある程度の凄惨な光景への耐性はある。だが、根が優しい性格のジグは、その冷酷さには引いてしまう。


「百年前も確かにチンケはいたが、ここまでのアホどもはいなかったぞ。どうなっている」


生首の1つをゴミのように踏み潰しながら、ハヤヒトは前髪をかきあげた。これには、さすがのザニルスも目を背けた。


『…極めて温厚にして篤実な人格であるが、悪党外道に対しては別人のように全く容赦がなかった。むしろ、それを狩り、いたぶるのを楽しんでいるようにさえ見えた』


とは、ハヤヒトと同時代に生きた人々の多くが語っている事実だ。


ともかくも、4人はリグリットシティのサウスベイエリア。つまり南の港湾地帯にあるザニルスたちのねぐらに向かう。ちなみに移動のバイクは、ヒャッハーたちからぶんどった。ハヤヒトは操縦はできるので、アヤネを後部座席に乗せての2ケツである。


「言っちゃなんだが、ずいぶん寂れたところだな」


「たりめーだろ。ストリートなんだから」


投げやりに答えるザニルスの首に、ひんやりとした刃の感触が。


「…をい」


「死んでみる?」


いつのまに近づいたのか。アヤネがザニルスのバイクの後部座席に居り、忍刀の刃を首に当てていたのだ。音1つ、風の動いた気配すら感じさせずに。


「やめろ、アヤネ。彼に悪気はないんだ。そういう話し方なんだろう」


苦笑しながらハヤヒトが止めると、アヤネは無言のまま刃を引いた。ふわりと宙を舞い、ハヤヒトの乗るバイクの後ろへと戻る。


そう。一連の行動はバイクで疾走する最中の出来事なのだ。


『やっぱ大戦上がりってのはマジらしいな…』


内心どころか実際に冷や汗を大量にかいたザニルスは、改めて実感した。仕事柄これまで何人かの(しのび)に出会ったことはあるが、いずれもさっきのような超人的な無茶が出来るレベルではなかった。


それもそのはず。アヤネは大戦時代に殺戮人形の異名をとり、数多いる忍の中でも十指に入る一流の忍だったのだ。


「着いたぜ」


そんな騒動を起こしつつ、ガレージを改装したザニルスのねぐらに着いた。


「ほう。いい家だな」


「皮肉かよ、そりゃ」


どう見ても赤サビた、オンボロガレージである。


「いや。本気で言ったんだが。気に障ったなら謝ろうか?」


さも意外そうなハヤヒトの表情。その顔に嫌みはカケラもない。…実際に気に入っているのだから当然だが。


『彼は金銭や富貴に全く興味を示さなかった』


これもまた後に語られた神殺しアカツキ・ハヤヒトの人物評である。


「さて。いくつか聞きたいことがある」


ガレージ二階の居住スペースで、4人は中古の折りたたみテーブルについた。安物のココアやコーヒーなどを飲みながら情報を交換する。世界のある程度の現状説明をザニルスから受けた後、ハヤヒトは一番の懸念を口にした。


「ウガヤ・イスカって名前の傭兵はいるか?もし、いるのなら居場所を知りたい」


「イスカ?さあ、聞いたことねぇな。ジグ、お前は?」


「あたしも知らない。傭兵のデータベースにものってないよ」


「本当か?なら、まだ眠ったままか……。まずいな。」


長い前髪からのぞくハヤヒトの瞳が、スッと細められる。


「それじゃ、セツナ。朧月刹那(ロウゲツ・セツナ)。あるいは叢討魔(ムラクモ・トーマ)という傭兵は?」


「そっちも知らねえ。」


「あたしも同じ」


「…ほう。なら、まだ猶予はあるか。奴等が動く前に見つけないとな」


少し安堵したような様子を見せるハヤヒト。当然ながら2人にはわけがわからない。


「つーか、誰なんだよ、そいつらは」


「まあ、君らには関係ないことだ。気にするな」


多少不満げな2人に、ハヤヒトは質問を重ねた。


「それじゃ有名な傭兵のデータを見せてくれ」


「はい、これ」


ジグが情報端末を操作して有名傭兵をピックアップした。初っぱなでハヤヒトの目が止まる。


「なんだ。マリカのやつ、いるじゃないか。へえ、大戦時代の部下も全員残ってるのか…」


ハヤヒトは懐かしそうな表情で、掲載されている写真を見つめている。


「まるで友達みてぇな言い方だな。」


「ま、戦友ってやつだ。腐れ縁とも言うが。大戦時代は、あいつの面倒をよく見てやったもんよ。」


シリアスな表情から一転。ハヤヒトはポンッと2頭身のディフォルメ姿になり、胸を張ってケケケと笑う。


『大丈夫なのか、こいつ。単なるハッタリ野郎じゃないだろな?』


ザニルスの目は不審さ大爆発である。


「それより、マリカと連絡はとれるか?」


「下っ端のオレたちにそんなツテはねぇよ。」


暁疾人(アカツキ・ハヤヒト)が会いに来たってマリカに伝えれば、一発で会えるはずだ。とりあえず、そのネスツとかいう傭兵ギルドに案内してくれ」


「……………。」


ザニルスはしばし考えこんだ。緋眼のマリカとマブダチかどうかはわからない。が、この男が鋼鉄の固まりのようなガードマシンをぶった斬ったのは事実だ。その腕を見せれば、あるいは面会は可能かもしれない。そして緋眼のマリカにコネができれば、仕事の幅も一気に広がる。これは千載一遇の大チャンスなのかもしれなかった。


「わかった。じゃあ明日にでも行ってみようぜ」


「それじゃ、俺はのんびり寝ておくか。あ、飯になったら起こしてくれ」


再び2頭身となったハヤヒトは、腹巻き姿でゴロリと横になった。アヤネの膝枕で、たちまちイビキをかいて眠りにつく。


『本当に大丈夫かな、こいつ』


ザニルスの不安はだんだん高まるばかりだったが、幸か不幸かその心配は翌日には消える。なぜなら、面会どころではない大事件が起こったからだ。それは緋眼のマリカ率いるクリスタルウィドゥが、ナインテール所属の新参の傭兵団に完敗したというニュース。


クリスタルウィドゥを破ったその傭兵団の名は、スケアクロウ。それを率いるお頭の名は、死神トーマこと、叢討魔(ムラクモ・トーマ)と言った…。



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