アジトの完成
サウスベイエリアの港湾。その一角にある、カマボコ型倉庫を改装し、新たなアジトを作ることになった。もちろん傭兵団・曙光の、である。
「しかし、この街はいい人が多いな。食べ物差し入れてくれたり、ボランティアでアジト作りを手伝ってくれるんだもんな」
ハヤヒトはしきりに感心しているが、ザニルスの意見は辛らつにしてシビアである。
「たりめーだろ。他のギャングどもから守ってやるのに、ショバ代は1クレジットもとらねえ。そんなお人好し傭兵が、どこの世界にいるってんだよ…」
それこそ、出ていってもらったら困る。何がなんでもいてほしいに違いない。
そんなわけで、住人総出で大工作業。わずか3日で、見事にカマボコ型倉庫は、傭兵団のアジトへと早変わりした。そして、さっそく部屋割りである。
「んじゃ、俺はここな」
ハヤヒトが選んだのは、二階の隅っこの四畳半ほどの部屋。
「…あのな。お頭が一番広い部屋にいなくてどーすんだよ。あんたは、ここ」
ザニルスが示したのは、二階の踊り場を右手に曲がったところの部屋。間取りは最も広く(といっても10畳ほどだが)、小さいながら風呂もトイレもついている。
「なんか落ち着かん。お前が使えよ、ザニ」
「…………」
「分かった分かった。使えばいいんだろ、使えば。」
「ダンボールで仕切り作って、狭くするとか無しだぜ?」
「ちっ」
2頭身ハヤヒトは、腹巻きに両手を突っ込んで鼻をほじっている。
『こいつについていって、ホントにマジで大丈夫なんだろな』
ハヤヒトのあまりの小ささに、またまた悩むザニルスだが。
『けど、後戻りもできねーしよ』
既にサウスベイエリア周辺のギャング団とは完全に敵対してしまった。特に、東のギャンググループ、ブラッドナイツは臨戦態勢を整えてい…。
「ああ、ザニ。それ、さっき潰してきたから」
腹巻きに包まれたぽんぽこのお腹を叩きながら、事もなげに言う2頭身ハヤヒト。
「………へ?」
「ダルマ食堂でメシ食った帰りに、ついでにシバキ倒してきた。ハゲの鼻ピアス男。あいつがボスだろ」
「…ああ。そいつがモール・サンだ。このエリアの元ボス、蜂の巣ゾルカンとはダチだったやつさ」
「どーりでクズらしい顔してると思った。まあ、いいさ。50人ほどいたカスどもも、全員ブッた斬ってきた」
「…マジ?」
ハヤヒトが昼食に出かけて帰ってくるまで、二時間とかかっていない。
「そうだな。ついでだ。北と西も潰してこよう。アヤネ。ついてきてくれ。」
「…………」
「…………」
唖然とするザニルスとジグをよそに、2人は出かけていき。
「…あ〜スッとした。やっぱ、チンケいたぶるのは最高だな」
何事もなかったかのように夕方に帰宅する2人。当然のように返り血1つ浴びてはいない。だが、この日、傭兵団『曙光』のエリアに隣接する2つのギャング団が完全に潰滅したのである。たった2人の手によって。その噂は疾風のごとく広がり。
「曙光のエリアに手を出すな!!」
リグリットシティのギャングたちの間で、これが合言葉になったのはこの日からであった。
傭兵には、能力評価というものがある。大戦時につくられたものだが、今もその便利さから全世界の傭兵ギルドに普及している。
STR(筋力) 120
CON(耐久) 80
DEX(敏捷) 100
SEN(感覚) 100
TEC(技力) 100
PSY(念心力)100
重量クラス 軽量級
これが大戦時に計測されたハヤヒトの能力評価データである。上から順に、ストレングス、コンスティテューション、デクスタリティ、センス、テクニック、サイキックの略。
重量クラスとは、バイオメタルソルジャーの階級のようなもの。すなわち。
超軽量級(60キロまで)
軽量級(90キロまで)
中量級(120キロまで)
重量級(150キロまで)
超重量級(180キロ以上)
という5つの重量クラスがある中で、ハヤヒトは軽量級に分類される。
一般的に軽量級はスピードやテクニックに優れるが、パワーや防御力に劣る。重量級はその逆というのが普通である。ところがハヤヒトの場合は。
『超重量級並のパワーとサイキックフィールドを持ちながら、なおかつスピードとテクニックは世界最高の忍である緋眼のマリカと同等』
という驚異的なものだ。
具体的な数値を挙げると、軽く2トンもの重量を持ち上げ、100メートルを3秒を切る速度で疾走でき、しかも88口径マグナム弾を食らってもキズ1つつかない(そもそもハヤヒトなら避けるが…)。
つまり高出力、高機動、重装甲の三拍子が揃っているのだ。単純なパワーや防御でハヤヒトを上回る者はいるが少数。ましてスピードや精密動作性まであわせ持つ者は、ノーブルキングダムのレギオン部隊を率いる朧月刹那ただ1人である。
この強さは彼自身の才能もあるが、投与されたバイオメタルアンプル内のデバイス『アメノナルカミ』によるところが大きい。
生体工学の天才、叢静女博士が開発したバイオメタルデバイス。その中で特別に強力なものが4つ存在する。それらはオリジナルデバイスと呼ばれるもの。すなわち、
『アメノムラクモ』
『アメノミカガミ』
『アメノマガタマ』
そして最後に開発されたのが、ハヤヒトの『アメノナルカミ』である。いずれも驚異的な身体強化係数を持つが、それゆえに反動も極めて大きい。現に煌華暁流継承者、アカツキ・ハヤヒトがアスラ部隊に入隊するまで、誰1人宿すことができなかった。
…そう。あの天才ウガヤ・イスカでさえ。
「お前に投与したBMデバイスには謎が多い。何しろオリジナルデバイスの最後の1つ。思いもよらぬ未知の能力があるかもしれん。叢静女博士が死んだ今となっては、それが何かは分からんが、せいぜい気をつけることだ。まあ、ニブいお前には心配なかろうが」
多大な悔しさと皮肉をまぶしながら、イスカはそう言い。
「投与した後に気をつけろと言われてもな。」
ハヤヒトは苦笑混じりに答えたものだ。懐かしい旧い記憶。
「…じゃあよ、お頭が鬼みてーに強いのは、そのオリジナルデバイスとやらのせいなのか?」
ザニルスの声で、ハヤヒトは現実に戻された。
「ああ。オレもよくは知らんがな」
ただ、1つだけ分かっていることがある。このデバイス、『アメノナルカミ』。通常の化け物じみた能力ですらリミッターがかかっているのだ。それをカットし、神機兵装モードに移行すれば。
「あん時はニューコムの一個旅団が潰滅したな」
「へえ〜…って、おい。あんたニューコムの軍人だったんだろ。なんで味方をブッ潰すんだよ」
「いや、単騎で偵察に出ていたら、ニューコムのクズハ元帥ってアホが、キングダム側の民間人を見せしめに大量殺害してるとこに出くわしてな。気がついたら死屍累々だった」
もちろん、民間人を虐殺したニューコム軍がである。万を超える死者の中にはクズハ元帥本人も含まれていた。
「それ、絶対にウソだろ。」
いくらハヤヒトが強いといっても、完全武装の、しかも現代とは違い、高性能のバイオメタルデバイスで強化されている兵士たちを、万単位で蹴散らせるわけがない。
…わけがないが。
『いや、やるかもしれねぇ…。なんせお頭の強さは、得体の知れないとこがあるからな』
背筋に寒いものを感じながら、ザニルスはハヤヒトを眺めた。黙って立っていれば中肉中背の美青年、あるいは優男。だが、この男があの世紀末のアンタッチャブル。恐怖の暴王マードックと正面からやり合い、そして撃退したのをザニルスは確かに見たのだ。
…実のところ、ハヤヒトの言う神機兵装の戦闘力は、ザニルスの想像より軽くひとケタ以上超えるもの。もはや戦略兵器クラスの代物なのだが、それと知るのはずっと先の話である。
ピピピピ!!
「電話鳴ってんぞ、ザニ。」
「それ、お頭の携帯だろ。」
「俺はあんまり電話で話すのは好かん」
「…貸してくれ」
あきらめ顔で受け取ったザニルス。2、3のやり取りの後に、ハヤヒトに電話を渡した。
「アンリエッタだ。お頭と直接話がしたいってよ」
「あ〜面倒くさいなあ」
2頭身腹巻きハヤヒトは、ハナをほじっていたが。
「なんか、ミナギとかリリスとかいうヤツの場所が分かったらし…」
パシッ!!
ハヤヒトの右手が神速で携帯を奪い取る。
「場所は?」
『あらあら。お礼は言ってもらえないのかしら』
「いいから、話せ。あんたが見つけたってことは、奴らも発見している可能性が高い」
目覚める前に攻撃されれば、いかに高性能のバイオメタル戦士でもひとたまりもないのだ。
『トライセルの近郊で見つかった新しい遺跡よ。まずいことに貴公子カイルも調査の用意に入っているわ。』
「カイル?確か、うちの傭兵ギルド、エリュシオンのエース傭兵だったな」
そして大戦時代には一度も名前を聞いたことがない不可解な人物でもある。
『どうするの。』
「決まっている。ヤツらより先にミナギたちを救い出す」
『となると、カイルと争うことになるわね。トライセルシティは、カイルの根城だから。』
「心配するな。ミナギたちを助けたら、さっさと撤収する。一応味方なんだろ、そいつ」
『倒せるなら倒していいわよ。そうすれば、あなたがナンバーワン傭兵。私はギルドマスターになれる』
オッホホホと笑う野心家アンリエッタ。
「まあ、そいつの出方次第だな。高速ヘリを貸してくれ。すぐに出る。ザニ。ヘリの運転はできるな?」
「任せろ」
「よし」
こうして、ハヤヒト、アヤネ、ザニルス、ジグの4人は、トライセルシティへと向かったのである。




