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マーセナリーエイジ  作者: きさきしゅん
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始まりは、なし崩しで

『マーセナリーエイジ』


その名の通り、傭兵たちが最も輝き、そして戦いに明け暮れた時代。これから語られるのは、そんな血煙と硝煙に満ちた時代の物語である。


綺羅星のごとく揃っていた傭兵の中で、最強の傭兵は誰か?

そう問われれば、当時を知る人々の9割はこう答えるだろう。


「そりゃ、あの神殺しの異名をとった、暁疾人(アカツキ・ハヤヒト)さ。」


と。


だが、残りの玄人はこう言う。


「いや、死神・叢討魔(ムラクモ・トーマ)こそが地上最強の男だった」


と。


いずれにせよ、この2人が、マーセナリーエイジの中心であったことに異議を挟む者はいない。かの2人が表舞台に現れてから、歴史が大きく動き始めたことだけは事実なのだから…。







…さてさて。よくは知らねえが、オレが生まれる100年ほど昔に、この世界でデカイ戦争があったそうだ。


んで、ノーブルキングダム(キングダム)、ニューコミューン(ニューコム)って2つの陣営に別れて、大陸中で大喧嘩をやらかした結果、ワケのわからん無茶苦茶な最終兵器をお互いが使って相討ち。世界を焼き尽くして、ついでに汚染しまくり、人口の半分以上は死んじまった…らしい。


そんでも、まあ生き残った人間は何とか頑張って文明を復活させた。その中心になったのが、人口一千万人を超えるいくつかのメガロシティ。リグリット、グラドサル、照京、トライセル、バルミット、ミレニアムなど。オレが住むリグリットシティは、そんな都市の1つさ。


おっと紹介が遅れたが、オレの名はザ二ルス。歳は二十歳。リグリット中をバイクで駆け回る、しがない、車駆者(リガー)だ。今日も贋札の原版を運んで100万クレジットほど稼いできたとこさ。


「おい、帰ったぜジグ」


「お帰り〜ザニ。ご飯できてるよ」


リグリット南部、サウスベイエリアのストリート街にあるオレの寝ぐら。オンボロのガレージ兼自宅に帰ると、相棒のジグが迎えてくれる。ショートカットの茶色の髪と同色の目をした女で、オレの幼なじみだ。戦闘はからきしだが、コンピュータやメカにはなかなか詳しい。


「ほらよ。今月の稼ぎ」


「わ〜ありがと。ゾルカンに3割渡すぶんを引いて、70万ね。」


「ちっ。」


オレは舌打ちする。ゾルカンというのは、サウスベイエリアのここら一帯を仕切っている50人規模のギャングの親玉だ。


身長は軽く2メートル、体重は150キロ。蜂の巣ゾルカンって呼ばれている。何で蜂の巣かっていうと、右手に装備した7連装ガトリングガンで、気に入らないヤツを蜂の巣にして殺してきたからだ。


体がでかくても、ただの木偶の坊なら、オレがバイクに乗って戦えば勝つ自信はあるんだが、ヤツは大戦時代の怪しげな薬。生体金属化薬(バイオメタルアンプル)ってのを使ってて、筋力、敏捷性、皮膚の強度なんかが常人の数倍にも上がってやがる。おまけに手下が50人。とてもオレ1人で手に負える相手じゃない。


「オレもその、バイオメタルアンプルってヤツを見つけられたらなぁ…」


「無理無理。仮にあったとしても、おっそろしいガードマシンがいる遺跡でしょ。こないだの遺跡みたいなラッキーはないわよ。ザニはゾルカンに一目置かれてるんだから、3割の上がりで済んでるんじゃない。堅実に稼ぐのが一番よ。」


「フン…」


一目置かれようが、上前をハネられる立場に変わりはない。オレはもっと強くなりたかった。誰にも指図されない絶対の力が欲しい。オレ自身はもちろん、目の前にいるジグの為にも。


「ところでさ。つい最近、新しい遺跡が見つかったの知ってる?それもリグリットの近く。」


「つっても、エリュシオンとか、ネスツの傭兵たちがもう行ってんだろ。」


それは、所属する傭兵が数万を超える巨大傭兵ギルドの名だ。世界の傭兵はたいがいギルドに所属していて、そこから仕事を斡旋してもらう。他にはナインテール、ディープパープルなどが有名だが、そのへんの説明は後に回そう。


「緋眼のマリカの傭兵団、クリスタルウィドウも行ってるらしいわよ。」


「そんじゃ、なおのことオレらの行く意味ねえよ」


緋眼のマリカと言えば、世界でも五本の指に入るビッグネームだ。史上最強の(シノビ)と言われ、あのバルミットシティの恐怖の暴王マードック、トライセルシティの貴公子カイルと並んで、世界中に名を知られている伝説の傭兵である。


噂だと、百年前の大戦の生き残りらしいが、詳しいことはオレも知らない。えらく美人なことだけはマーセナリージャーナルの映像で知ってる。どっちにしろ、1人で数百人の傭兵団を蹴散らし、リグリットシティのA級市民ですら恐れるほど強いのは確かだ。


ある意味、オレの理想であり、遥かに遠い目標でもある。


「…ああ、なるほどな」


そこでオレは気づいた。迂闊だった。ジグはニコニコと笑っている。


「そそ。ハイエナしに行こうよ。緋眼のマリカが先に行ってるなら、ややこしいガードマシンもあらかた片づけてくれるでしょ。その後のおこぼれが残ってるかもしれないよ」


「それも情けねえ話だな、おい」


とはいえ、そのおこぼれがバカにならないのも確かだ。現にオレのバイクである『カブト・ゼロ』のVゼロエンジンは、そうやって手に入れたのだから。


そんなわけで、オレたちはさっそく2ケツでその遺跡に向かうことにした。それがオレたちの人生の大転機となることも知らずに…。







ところで世界の各地には、大戦時代の遺跡ってヤツがたくさんある。そん中には今の技術では造れないような兵器や機器が眠っている。肉体能力を何倍にも強化して、老化速度を遅くする生体金属化薬、バイオメタルアンプルなんかもその1つだ。実際にオレも半年ほど前にとある遺跡にジグと潜って、運良く今のバイクのエンジンを手に入れることができた。

ま、それはいいとして。


「…もう引き上げちまったみたいだな」


「う〜ん、さすが緋眼のマリカのクリスタルウィドゥね。仕事が早い。」


例の遺跡に着いたオレたちの前には、多脚式移動砲撃機、いわゆるガードマシンの残骸があちこち転がっている。要は六足のクモみたいなヤツに、ガトリングガンを取りつけた兵器のことだ。当たり前だが全て鋼鉄製なので、頑丈さは折り紙つきである。


…のはずだが、まるで豆腐を切るかのようにスパスパと切断されてるあたりが怖いとこだ。恐らく緋眼のマリカか、その幹部のラセンやガモンの仕業だろう。


「使えそうなパーツだけ、はぎ取って帰ろうか?」


「そうだな。ジャンク屋に持ってけば、いくらかにはなるだろうし」


オレたちはせっせとハイエナ活動に精を出していた。それ以上の遺跡調査なんぞに興味は無かった。なんせ緋眼のマリカが調べた後なのだ。大したものが残ってるはずがない。


…だからそれが起こったのは、本当に、マジで、神がかり的な偶然としか言いようがない。


「ザニ〜。そこの工具取ってよ。あ、いいや。あたしが取りにいくから」


そう言ってジグがオレに近づこうとした時。よろめいて、左の白い壁に手をついたのだ。すると、なんとまあ、そこに1メートルほどの正方形の穴がポッカリと開き。


「きゃあああ!!」


「ジグッ!?」


オレはとっさに彼女の左手を掴むのが精一杯で、そのまま穴の中へ落ちちまったわけだ。そっからはまるでジェットコースター。何十メートル滑り落ちたのか見当もつかない。


幸運だったのは、穴が垂直でなく、滑り台みたいになっていたこと。そして着地地点には、ちゃんとエアークッションが用意されていたことだ。


「あ〜びっくりした。大丈夫、ザニ?」


「このままいたら、大丈夫じゃなくなりそうだぜ」


なんせ、オレたちは遺跡の最深部に来ちまったらしいのだ。


今いる部屋は、十メートル四方の正方形の部屋。中には特に目立つ物は無く、部屋の隅に銀色の金属製の机が無造作に置かれているだけだ。出口は正面の頑丈そうなドアしかない。その強化ガラスごしに外をうかがうと。


「…なんか、上のヤツよりゴツいガードマシンがうじゃうじゃ徘徊してんな、おい」


見えるだけで7、8体はいる。参考までに戦闘力の目安を言うと、1体倒すのにフル装備の一般傭兵が20人ほど必要だ。しかもそれは上のヤツの話で、目の前のこいつらは倍近い4メートルクラス。バズーカとか迫撃砲などの重火器を使わないと、まともにダメージを与えられないだろう。


「つまり、緋眼のマリカはここに気づかなかったんだね。お宝発見のチャンスよ!!」


などとジグははしゃいでいるが。


「…生きて帰れりゃな」


オレは微かな望みを込めて、落ちてきた穴を見上げたが、とても這い上がれそうになかった。となると、あのガードマシンを突破するしかないわけだが、手持ちの拳銃の頼りなさよ‥。


「ねえねえザニ!!こっちこっち」


「なんだよ」


ジグの声に振り返ると、さっきまでは何もなかった位置に、2メートルほどの白い金属製のカプセルが現れていた。数は2つ。どうやらオレたちの侵入に反応して、地下から出てきたらしい。


「…コールドスリープカプセルよ、これ。しかも、かなりいいやつ。」


「てことは、大戦時代のヤツが入ってんのか?」


オレは死刑確定のような状況を忘れて、カプセルをのぞきこんだ。二十代半ばくらいの優男と、十代後半の少女が、それぞれ眠っている。黒い髪から、2人ともイザナギ人のようだ。噂では聞いたことがあるが、実際に大戦時代の戦士を目にするのはオレも初めてだった。


「イザナギ語で何か書いてあるわね。ちょっと待ってよ」


ジグは携帯端末で文字を読み込み翻訳した。


「ニューコミューン軍。アスラ部隊所属。2番隊隊長・暁疾人。アカツキ・ハヤヒトって呼ぶらしいわね。これがこの人の名前なのかな?」


「だろうよ。隣のヤツは?」


「2番隊所属の(シノビ)殺音(アヤネ)って書かれてるよ」


「へ〜え」


当然ながら、オレは全く知らない名だ。大手の傭兵ギルドに行けば、大戦時代の記録なんかも閲覧できるらしいが、チンピラのオレにそんなツテはない。


「起こしてみる?」


「バカ、やめろ!!」


オレは慌てて止めた。何せこんな最深部に封印されているのだ。よっぽど強力で危ない人物なのは間違いない。


そして百年ものコールドスリープから目覚めた直後というのは、アタマがイカれてるパターンがほとんどだ。目につく者全てに無差別に襲いかかり、探索団は潰滅。近隣の村や街までが皆殺しになった事件をいくつも知っている。いわゆる『人間災害』事件だ。そんな二の舞を踏むのはまっぴら御免だった。


…………とはいえ。


「このままだと、どうやっても脱出不能だしな…」


部屋の外をうろつくガードマシンを倒すのは論外。出た瞬間にガトリングガンの一斉射撃でボロ雑巾のようにされるのは間違いない。


『ま、狂ってるなら狂ってるで、コイツらをガードマシンにぶつけりゃいいか。逃げるスキくらいは出来るかも知れねーし』


という結論にたどり着くのに、そう時間はかからなかった。なにせ他に選択肢がない。


「オレがボタンを押す。ジグはカプセルが開いたら、表に出るドアのほうを開けてくれ。その後にオレたちは、そこの隅の机の下にでも隠れるぞ」


「りょーかい」


そんなわけで、オレたちはそのカプセルを開けることとなった。後で思えば、それが、全ての始まりだったのだ。

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